セクサロイドは眠らない

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2004年09月19日(日) 適当な時間を置いて、僕は部屋に戻った。もう、友人と彼女はキスを終えた後のようによそよそしかった。

「入院してるところに女の子を来させるのってなかなかいいよ。」
見舞いに行くと、友人はそんなことを言った。

その日、僕は高校の頃からの友人の何度目かの入院を見舞っているところだった。彼は、自然気胸とかいう肺に空く病気で、穴を塞ぐために入院していた。この病気は何度も再発するものらしく、彼も三度目の入院だった。

「特に、付き合い始めの頃だと、ぐっと親密になる。カーテンを引けば、キスとか、それ以上のこともできなくはないしね。」
「奥さんと鉢合わせしたらどうするんだよ。」
「そりゃ、奥さんの目を盗んで来させるのがいいんだよ。」
「病気のくせに、そんなことしてていいのかよ。」

僕は笑った。彼も笑った。

その日はたまたま、大部屋には僕ら二人だけがいた。

その時、小さなノックの音がして、誰か入って来た。

それが彼女だった。

いまどき、中学生でもこんな子はいやしないだろう。黒い髪のショートカットで、眼鏡を掛けている。色が白くて肌がきれいだ。裾をロールアップさせたジーンズにユニクロの無地のTシャツ。

僕を見て、
「あ。」
と言ったので、慌てて僕は、
「もう失礼するよ。ごゆっくり。」
と声を掛けた。

「いいんだ。二人ともいてくれよ。」
友人は僕らにそう言った。

彼女は大学の一年生で、友人の事務所で夏休みにアルバイトしたのがきっかけで親しくなったようだ。彼女はひどく内気で、僕が何か聞いても最低限の言葉で返事するだけだった。

友人は言った。
「なあ。あとで彼女をバイト先まで送ってやってくれないか。車で来てるんだろ?」
「ああ。いいよ。どうせ暇だし。」

僕は、煙草を吸ってくるから10分ほど席を外すよ、と告げた。

病院の屋上は蒸し暑かった。適当な時間を置いて、僕は部屋に戻った。もう、友人と彼女はキスを終えた後のようによそよそしかった。

「じゃあ、行こうか。」
僕は声を掛けた。

彼女はうなずいた。

「また来るわ。」
「おう。」

--

二人になってしまうと何を話せばいいのか分からなかった。友人と彼女との関係をほのめかすようなことを言うのは失礼だと感じたし。

彼女のバイト先に向かいながら会話の糸口を探した。

「バイトって何時から?」
「6時からです。」
「じゃあ、随分早いな。」
時計を見るとまだ3時半だった。

「ちょっとお茶でも飲もうか。というか、喉が渇いてるんだよ。付き合ってくれると助かるんだけど。」
「いいですよ。」
僕は、近くのカフェの駐車場に車を入れた。

僕らの会話はなかなか弾まなかった。一通り自己紹介みたいなものが終わってしまうと、もう話すことはなかった。仕方なく、というより、彼女の表情が何となく話したいことがあって迷っているように見えたので、友人の話を切り出してみた。

「彼とは・・・、その、付き合ってるわけだよね?」
「・・・。はい。」
「どうなの?いや。別に僕に言わなくてもいいんだけど。彼ってほら、結婚してるだろう?」
「よく分かりません。」
「分からない?」
「はい。よくドラマとかで、不倫している人が奥さんを奪いたいとかって苦しんでるのやってますよね。ああいうのないんです。」
「今のままで満足なの?」
「うーん・・・。分からない。まだ二人で会うようになってからちょっとしか経ってないし。彼が時々電話してくるんです。で、忙しかったら断るし、時間が取れそうだったら会うんです。」
「きみから誘うってことはしないんだ?」
「そうですね。だって、彼は結婚してるし、仕事も忙しそうだし。」

そんな話を小一時間ぐらいしただろうか。

僕は、深い意味もなく携帯の番号を告げた。

友人は結婚してるから、どうしても急いで連絡を取りたい時には僕に電話してきたらいい。僕から彼に連絡を取ってあげる。

そんな風に言って。

彼女はうなずいて、僕の携帯の番号をメモした。

それから、僕は彼女をバイト先に送って別れた。

それっきり、僕らはしばらく会うことはなかった。

--

その後、友人は退院し、僕は、友人に恋人との付き合いを聞くでもなく、たまに会って近況を交わしたりした。一度は彼の家に招かれてご飯をご馳走になったりもした。僕は離婚していたので、時折、こうやって知人の奥さんが招いてくれたりすることがあるのだ。その時、ちらっと友人の恋人の事を思い出したが、またすぐ忘れてしまった。

友人を見舞って半年が過ぎた頃だろうか。突然、友人の恋人から電話があった。
「ねえ。彼に連絡を取りたいの。」

その声は切羽詰まっていた。初めて会った時の、あの消え入るような口調ではなく、もっと意思のはっきりした女性の声だった。

僕は、
「分かった。」
とだけ答えて、その電話を切り、友人の携帯に電話した。

「おう。何だよ。久しぶりだな。」
友人ののんびりした声が聞こえた。

「彼女から電話があってさ。きみに急いで連絡が取りたいみたいなんだけど。」
「ああ・・・。そうか・・・。」
「ちゃんと電話してくれよな。」
「困ったな。お前、代わりに電話してやってくれよ。俺は忙しいってさあ。」
「駄目だよ。僕を巻き込まないでくれよ。」
「そんなこと言っても、俺らのことでお前が動いちゃうのが間違いなのよ。」
「仕方ないさ。面識があるんだし。」
「・・・。分かったよ。」
「頼んだよ。」
「その代わり、もう二度とあの娘からの電話の取次ぎなんてやらないでくれよ。話がややこしくなるから。」
「なんかトラブルかよ?」
「いつものことだよ。よくある話だ。」

その時は、それで終わった。

だが、その後、1、2週間に一度、彼女からの電話がかかって来て、同じように僕に取り次いで欲しいと頼むようになった。

「駄目なんだよ。きみとあいつのことだろう?僕には関係ないからさあ。」
「だって、そのために携帯の番号教えてくれたんじゃないの?」
彼女の声は、今にも泣き出しそうだった。

「分かった。ちょっと会わないか?話を聞くからさ。」
「・・・。」
「それじゃ、駄目なの?」
「・・・。いい。」
「じゃあ、どこかで待ち合わせよう。」
「お酒が飲めるところにしてちょうだい。」
「ああ。いいよ。」

僕らは、そうやって再開した。

彼女は、すっかり変わっていた。最初は誰か分からなかった。

髪はロングになっていて、毛先はくるくるとカールしていた。眼鏡はしていなくて、ジーンズの代わりにぴったりとしたミニスカートとブーツという格好だった。

「やあ。久しぶり。誰だか分からなかったよ。」
「お久しぶり。ごめんなさいね。電話して。」

彼女は上手に飲み物を頼んだ。

「どうしたの?」
「大したことないの。彼が私のこと避けるようになって、連絡がつきにくくなったから。」
「そう・・・。」
「前はいつだって彼から誘ってくれてたのに。」

僕には、友人の気持ちがよく分かった。もっとも、彼女をこんな風にしてしまったのも友人なのだ。

飲んで、ありきたりな愚痴を聞いた。

それから、僕は彼女を僕の部屋に誘った。

彼女は何の抵抗もなく誘いに乗って来た。

--

彼女は僕のアパートで楽しそうに振る舞い、とても大きな声を出した。

それから、煙草を一本吸って寝てしまった。

--

それからは。

僕らは何度か会って、そのたびに寝た。

そのうち、彼女には歳相応の恋人ができたみたいで、僕らの関係は自然消滅した。

--

いつだってこうだ。

そんなことをふと思った。

僕の最初の妻は、友人の彼女だった。友人と上手くいかなくなってから僕のところに相談に来るようになり、僕らは結婚した。だが、結局、妻は違う男と一緒に消えてしまった。

まあ、そんなに悪い思いもしなかったし、いいか。と、僕は思った。それが僕と友人の役割分担なのだ。


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