セクサロイドは眠らない
MAIL
My追加
All Rights Reserved
※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →
[エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう
俺はさ、男の子だから
愛人業
DiaryINDEX|past|will
2004年01月18日(日) |
友達と言いながら、体だけ重ねて来た。あの時、ああ言っていれば。あるいは、あの日、あんな風に言わなければ。 |
少し浮かない顔の彼女と車で行った初詣の帰り。
いつもみたいな調子で、彼女の部屋に寄ろうとした。それは当然の権利だと思い込んでいたから。彼女の住むマンションの前に車を停めた時だ。
「今日は駄目。」 彼女が静かに、だけどきっぱりと言ったから、僕は驚いた。
彼女に恋人がいなくて、僕にも恋人がいなければ、一緒に初詣に行く。それが僕らの数年間に渡る友情における暗黙の了解事項だった。同じように、彼女に恋人がいなくて、僕にも恋人がいなければ、僕らは時々一緒にご飯を食べ、それから、どちらかの部屋でセックスをした。
今年の初詣だって、お互いに恋人がいないのを確認して誘い合ったところまではいつもと同じだったのだ。
「もう、あなたとはセックスしない。」 彼女は、腑に落ちない顔の僕に、そう宣言した。
「なんで?」 僕は、少々うろたえて訊ねた。
「もう、嫌なの。いつもいつも、繰り返し。こんな生活うんざりよ。」 「突然言われたって・・・。」 「あなた、いつも言ってたじゃない。付き合ってる女の子が、ある日とつぜん、手のひらを返したように別れたいって言い出すって。女の子ってどう扱っていいか分からないよって。私だけが違うと思ってた?私だけが、いつもいつも変わらない顔であなたと寝るって思い込んでた?」 「・・・。」 「私、ずっと思ってた。あなたとは友達同士。セックスだって割り切って楽しめるって。だけど違うみたい。こういうことって、どうやったって女の子が傷付くの。頭ではどう思っても、心の方が少しずつ疲れて行ってしまうの。あなた、私とのセックスはただでできるって、そう思ってたでしょ?それって、すごく傷付くことだったみたい。」 「そんなつもりはなかったんだ。きみを傷付けるつもりなんか。」 「ええ。分かってるわ。」
横を見ると、彼女は泣いていた。
「とにかく。もう駄目なの。」 「じゃあ、どうすればいい?どうやったら、きみと友達でいられるかな?」 「無理よ。私達。」 「すごく残念だ。」 「ええ。私も。」
彼女は、さよなら、と小さな声で言って車を降りた。
僕は、彼女の背中を見送りながら、どうしてこんな事になったのかしばらく考えてみる。ずっと上手くやっていたのに。セックスだって、それなりに楽しんでた。恋人とまではいかないにしても、それなりに優しくもしていた。なのに、急に。
--
夜、一人で散歩に出た。彼女の事を考えたかったから。
寒い夜だった。
手袋を忘れてきたので、手をコートのポケットに突っ込んで歩いた。
小さな猫の鳴き声が聞こえた。
振り返ると、真っ白な子猫が震えていた。
僕は思わず抱き上げて両手で包んだ。 「お前も一人なのかい?」
にゃー。
僕は、彼を連れて帰った。暖めた牛乳。冷蔵庫に残っていたシシャモ。
お腹一杯になった子猫は、僕の顔をじっと見て。それから言った。 「悲しいことがあったの?」 「え?ああ。まあね。」 「元気がない。」 「そうだな。大切な友達を、失った。僕が悪かったんだ。うっかりしてて。」 「ねえ。ご飯を食べさせてくれたお礼に、いい事教えてあげる。僕を彼女にプレゼントしてごらん。」
僕はまじまじと子猫を見る。それから、彼女が猫好きだったことを思い出した。
「大丈夫。上手くいくよ。」 子猫はそう言って、僕の膝の上で丸くなった。
--
「言っとくけど、私、プレゼントなんかじゃ気が変わらないからね。」 電話の向こうで、彼女が言う。
「取りあえず、見てよ。気に入ってもらえるかもしれない。」 「・・・分かったわ。」 「今から行く。」
彼女は、少し怒ったような顔でドアを開けた。
「きみにどうしても見せたくてさ。用事が済んだらすぐ帰るから。」 僕は、バスケットから子猫を出して見せた。
「え?猫?やだ。可愛い!」 途端に彼女の顔がほころぶ。
「長いこと、きみの部屋には猫がいなかっただろ?」 「そうだけど・・・。どうしたの?この子。」
彼女は、子猫を抱き上げる。
「決めた。あんたの名前は、メロンよ。メロンソーダみたいな色の瞳。」 「気に入った?」 「ええ。まあね。」 「貰ってくれるかな?」 「喜んで。」 「そりゃ良かった。」 「言っておくけど。こんなプレゼントを貰ったからって、あなたと私の関係は変わらないよ。」 「分かってるって。」
僕は、少し切ない気分で彼女の顔を眺めた。
以前のようには僕に気を許してくれない、彼女。
恋人になろうと思えばなれたかもしれないのに。結局、僕らは互いを友達と言いながら、体だけ重ねて来た。あの時、ああ言っていれば。あるいは、あの日、あんな風に言わなければ。
僕は、彼女を失うことなどなかったかもしれないのに。
「そろそろ帰るわ。」 僕は、子猫を残し、彼女の部屋を出た。
--
彼女から夜中に電話だ。
「何?」 「あのね。メロンが、昨日から食べる物全部吐いちゃって。」 「なんで?」 「分からない。でも、ぐったりして、このままじゃ死んじゃうよ。」 「分かった。すぐ行く。」
僕は、彼女とメロンを車で拾い、その足で動物病院を探した。
「大丈夫か?」 「ええ。ごめんなさい。こんな時にばかり頼って。」
病院でメロンの処置をしてもらっている間、僕らは子供を見守る夫婦のように手を握り合っていた。
メロンは薬を処方され、僕らは帰りの車で無言だった。
「ありがとう。」 「いいんだよ。この子は僕が連れて来た子だ。僕にも責任があるからね。」
僕は、別れ際、とても小さく見える彼女の頬にそっと手を当てて。それから、車に乗り込み、さようならの代わりにクラクションを鳴らした。
--
それから、三ヶ月後。
僕は、彼女の部屋に呼ばれた。
僕は、馬鹿みたいに舞い上がって彼女の部屋へ飛んで行った。
そこには見知らぬ女の子。
「彼女、会社の後輩の白石さん。」 「ああ。どうも。」 「彼女ね。恋人募集中なんですって。」 「え?そうなんですか?」 「そうなの。すごい可愛いでしょ。不思議よねえ。」
そういう事か。僕に女の子を紹介しようってのか。
僕は、ほんの少し腹が立った。
それから、白石とかいう女の子と続かない会話を無理矢理続けた。
その時。
にゃー、にゃー。と、ドアを引っかく音。
「もうっ。今日は駄目よ。お客さんだから。」 「あ。可愛いですね。」
白石さんとやらは、そう言ってニッコリして見せたのに。
彼女が、 「ちょっと抱いてみる?」 と言って、メロンを渡したら、きゃって言ってメロンを床に放り投げた。
「あ。ごめんなさい。猫、苦手なんです。」 白石さんは、そういってすごく困った顔して。
「あら。そうなんだ。知らなくて。」 彼女は、笑って。
それから、猫を抱いて部屋を出て行ったから、僕はその大人しい白石さんと気まずい時間を過ごした。
白石さんが帰った後、彼女は僕に訊いた。 「どう?彼女、可愛いよね。」 「よく分からない。」 「そっか。気に入ると思ったんだ。メロンのお礼のつもりだったの。」 「・・・。」 「やだ。怒った?」 「分からない。何となく、きみにはそういう事されたくなかった。」 「うん。ごめん。」
ふと気付くと、メロンはどこにもいなかった。
僕らは慌ててメロンを探した。
メロンは、どこにも見当たらない。 「やだ。メロンが出ちゃったみたい。」
慌てて、外に出て、僕らはメロンを探して何時間も歩いた。
「うっかりしてたなあ。」 「帰ろうよ。疲れた。メロンも戻ってるかもしれないし。」 「うん。」 「ほんと、ごめん。呼び出して。メロン探すのも手伝わせて。」 「いや。いいんだ。メロンを探すのは、僕にも責任があるから。」
それから、僕らは無言で歩いた。
今、言わないと。
急に、そんな事を。
何を?
それも分からずに、声が出た。 「ねえ。」 「なに?」 「僕ら。これから、どうなる?」 「どうって。お友達よ。」 「僕は、それじゃ嫌なんだ。」 「そんな事言われても・・・。」 「ずっと、僕らの間には、セックス以外余計なものを持ち込まないようにしてた。だけど、今は、それだけじゃない。メロンもいるし。」 「繰り返しよ。また、同じこと。あなたが夜、帰ってしまうと、私は一人に慣れようとして長い時間を過ごすの。」 「だったら、ずっと一緒にいようよ。一人にならなくていい。」 「言ってる意味が分からないわ。」 「だから。一緒にってこと。きみに会う口実が、メロンだなんて嫌なんだ。」
彼女は無言で。
その時、マンションの前の路上駐車の車の下から、白い塊りが飛び出して来た。
「メロン!」 僕らは同時に叫んだ。
にゃ?
メロンは、きまり悪そうに僕らの顔を見た。
僕らは笑い出して。
彼女はメロンを抱き上げた。
僕は、その彼女の肩を抱き締めて。 「一緒に帰ろう。」
彼女は、怒ってるような、困ってるような顔でうなずいた。
メロンは、僕を見てウィンクしたように見えた。
|