セクサロイドは眠らない

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2003年12月11日(木) 火と同じだ。リズムがあり、いろいろに揺れて、クライマックスがある。彼は、火を扱うように私を導き、

私の仕事は、火を燃やすことだ。単に燃やせばいいというのではない。燃やし過ぎないこと、そして、しかるべき時に燃え終わるようにすることが大事だった。

組織が命じたことをするだけだ。

目的は知らない。

その建物の中にある死体の死因をごまかすためかもしれないし、そこに広大な空き地を出現させるためかもしれない。

目的を知ることは、組織からの追放を意味する。だから、私は、この仕事に就いてから一度も燃やす目的を知ろうとしたことも、憶測したこともない。ただ、組織から知らされる建物の位置や構造といった生命のない情報だけを頼りに、確実に任務を果たすことだけを考えるのだ。

私のやっていることは犯罪かもしれない。そうでないかもしれない。そんなことはどうでも良かった。ただ、火を燃やすことさえできれば。

小学生の頃、私は、学校の裏庭でボヤ騒ぎを起こしたことがある。その時、担任がカウンセリングを受けるように勧め、私はカウンセラーの元に何度か通った。カウンセラーは、二度目から違う人物になり、火についての質問や、やり方。いろいろな事を訊かれた。

気付けば私は両親の元を離れ、海外の施設で特別な訓練を受けることになっていた。

火に関する素質がある子供ばかりが集められたその場所で、私は、ありとあらゆる火についての講義を受け、三年のコースが終了する頃には火の扱いに関してプロ級の腕を持つようになっていた。ここに集められる子はみんなそうだが、単に火に興味があるだけではない。火と上手く距離を保つことができ、燃えさかる火を見て平静を失うこともなく、だが、火をこよなく愛し、火を自分の支配下に置くことに満足感を得る事ができる者ばかり。

コースが終わると、それぞれ各地の大学に入るように手配され、小さな任務を任されて行くようになる。

仕事は楽しかった。だから、一度も辛いと思ったことはない。火が親であり友達であり恋人であった。

--

その日、私は、たまたま、ある建物の出火に出会った。一目見て、それが、組織の者の手によることが分かった。とてもいい仕事だった。綺麗な火だ。

それから、野次馬に混ざり立っている背の高い男性を見た。男性の目は、自分の仕事の成果を見守る者の目だった。

他の人の仕事に出会う事は時折あったが、それは決して口にしてはならないことだったが、私は我慢できなかった。それはセクシーで力強く、滅多に会えない類の火だったから。

全てが終わり、男性が現場を離れようとした瞬間、私は声を掛けた。
「おつかれさま。」

男性は私を見て驚いて、それから、
「ああ。きみもか。」
とだけ言った。

それから、私達は恋に落ちた。

--

初めての恋を抑える事はできなかった。

互いの任務がある時以外は、いつも一緒に過ごした。

何度も抱き合った。火と同じだ。リズムがあり、いろいろに揺れて、クライマックスがある。彼は、火を扱うように私を導き、私は、火そのものになったかのように燃えあがる。

今まで、火より素敵なものはないと思っていた。人には大して興味がなかった。彼も、似たようなものだろう。
「僕はね。五歳ぐらいの頃からだったかな。家からマッチの箱を持って出て、公園で遊んでたところを母に見つかってひどく怒られた。だけど、やめられなくてね。母に見つからないように火遊びしてたっけ。そしたら、知らない男の人が話し掛けて来たんだ。」
「家を出たの?」
「うん。ただ、その男の人と一緒にいけば、火でたくさん遊ばせてくれるって。もう、その時から、僕は人より火に興味があったんだ。」
「私も似たようなものよ。小学校に上がっても、誰とも友達になるつもりはなかった。」
「今は?」
「え?」
「今は、人より火に興味があるかい?」
「いいえ。火よりも好きな人に会ったの。」
「僕もだ。」

それから、もう一度、火照りの残った乳房が、彼の愛撫で燃え上がる。

--

新しい任務を聞いて、私は目の前が暗くなり、一瞬、自分の居場所が分からなくなる。

夜、彼も青ざめた顔で私の家にやってくる。

彼の任務も、私の任務と同日、同時刻。私は彼の家を、彼は私の家を、燃やすことが次の仕事だ。

それは、組織からの警告だ。

私達はその事について一言も交わさなかった。もちろん、仕事は仕事。私達は、火を放つのだけが得意なのではない。火を消すことも。それから、痕跡を残さずその場を去ることも。

そう。消す事が肝心。私達、プロだもの。

「私、前から思ってたんだけどね。あなた、ちょっと最近お腹が出て来たんじゃないかしら?そういうの、みっともないなって思うの。」
「確かに僕もいいおじさんだ。しかし、きみだってどうだ。眉間の怒り皺が日増しに深くなってるぞ。」
「あら。失礼ね。じゃあ、その怒り皺を深くさせるのは誰よ?ずっと気になってたんだけど、あなたのトイレの使い方ね。最低よ。何で男の人ってあんなに汚くしちゃうのかしら。」
「いい加減にしてくれ。うんざりだ。きみは僕の奥さんでも何でもない。気楽な間柄のはずさ。まったく、最近では女房気取りで、すっかり嫌な女になったな。」
「そっちでしょ。ここにくれば、食事にありつけると思ってる。ご飯の後はテレビを見たまま、ろくに話もしない。げっぷはする。緊張感なしよね。」
「そうだな。もう、きみと話するよりはテレビの方が面白くてね。」
「私もそう思ってたところ。あなたの話はうんざりよ。火に関してなら、私だってよく知ってるわ。男の人の教えたがり癖には飽き飽き。」
「あなたの火はどんなの?って訊いたのはそっちだろ。」

淡々と。

互いを好きでなくなるための沢山の言葉を小一時間。

それから、急に。

「もうやめよう。」
「もうやめましょう。」
二人同時の言葉に、私達、ようやく笑顔。

「もういいわ。」
「うん。」

私達は、手に手を取ってベッドに。

もうすぐ任務を開始しなければならない時間。

そのうち、組織から別の人間が回されて来て、ここも火に包まれてしまうかもしれない。それでも良かった。私達は一緒にいる事で怖くなくなっていた。

消せない火がある。

それを今日、知った。


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