セクサロイドは眠らない
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2003年12月03日(水) |
あなたと知り合ってから、そういうのやめたの。一緒にいて。お願い。私、一人じゃいられないの。 |
僕らの出会いは、ありがちな話で。
サークルの飲み会で、誰とも話をせずに座っていた女の子。現代文学研究会なんて、普段から大したことをしていない。僕だって、昼にフラリと部室に立ち寄っては、寝転がって文庫本か何かを読む。そんなサークルの飲み会だもの。ただ、みんな、酒の勢いでワイワイと騒いでいただけだった。
「きみって、うちのサークルにいたっけ?」 僕は何気なく声を掛けた。
「あ。いえ。こういうのに参加するのは初めてです。」 「うち、男ばっかりだからなあ。しかも、ちょっと変なやつばっかりでさ。普通なら女の子ってだけでちやほやするもんだと思うけど、照れくさくて誰もきみに話しかけられないんだよ。」 「いいんです。聞いてるの楽しいし。」 「そうか?つまらんだろ。僕らだけ抜ける?」 「いいんですか?」 「ああ。いいよ。僕も退屈してたところ。会費は前払いだし。いいだろ。僕らがいなくなったって。」 「じゃ、そうしましょうか。」
僕らは、共犯者の笑みで顔を見合わせる。
実際のところ、大した事は考えていなかった。ちょっと可愛い子だったし。付き合ってる彼女とも上手くいってなかったし。酒の勢いもあったのだろう。
気がついたら飲み過ぎてて、目が覚めたのは、彼女のアパートの部屋のコタツの中だった。
「寒いですか?」 「あ。いや。ごめん。寝てた。」 「いいんですけど。」 「すまん。トイレ貸して。」
それから、吐いて、また寝た。
なんでこんなに飲み過ぎたんだろうな。
--
「お風呂。」 「え?」 「お風呂、沸いてますよ。入ってきたらどうですか?」 「ああ。」 「あと、コーヒーはインスタントしかないんだけど、こだわるほう?」 「いや。こだわらない。」 「良かった。」
彼女の笑顔は素敵だった。前歯が可愛いと思った。げっ歯類のように愛らしい、特徴のある歯。
思わず顔を引き寄せた。
彼女は驚くほど抵抗なく、僕の胸の中に納まった。
「心臓。ドキドキしてる。」 「ああ。きみのせいだ。」 「ね。お風呂。一緒に入りませんか?」
僕らは、そうやって始まった。
--
僕は、毎日のように学校が終わると彼女の部屋へ寄った。最初のうちは自分の部屋に戻っていた僕は、次第に彼女の部屋に泊まるようになった。歯ブラシ。着替え。
泊まるようになったのは、彼女がせがんできたからだ。
最初の頃、僕は彼女を抱く事に抵抗があった。始まりはあんな風だったが、彼女を大切にするべきだと思ったし、付き合っている子ともちゃんと別れてなかったから。
なのに、ただ、飯食って帰ろうとしたところで、彼女が泣き出した。
「どうしたの?」 「まだ一緒にいて。」
僕はどうしていいか分からず、彼女を抱き締めたまま泣き止むのを待った。
僕の腕の中で突然、彼女がクスクス笑った。
「何?」 「ね。ここ。ヒデキ君のここが、ずっと私のお腹に当たってるんだもん。」
彼女は笑いころげ、僕は何が可笑しいのか分からないまま一緒に笑い、服を脱がせ合った。
次の日も。その次の日も。
結局、僕はそのままなし崩しに彼女の部屋に居座るようになった。
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悪い噂を聞いたのは、その頃だった。後輩の意味ありげな問いかけ。「付き合ってるんすか?」とか。僕らが二人で部会に出ると、どこか周囲から浮いた感じがしたり。
それから、ある日、おせっかいな後輩にこんな事を聞かされるはめになる。 「先輩知らないみたいだから忠告っていうか。あの。余計なこと言うつもりないんですけど。タジマさんっていう人、悪い噂が流れてるの、知ってます?」 「え?何?知らない。」 「ちょっと言いにくいんですけどー。」 「いいから。何?」 「タジマさんって、男の人にルーズっていうか。誰とでも寝るっていうか。」 「ふうん。」 「すみません。余計な事言って。でも、あの。ただの噂だし。」 「いいよ。ありがとう。教えてくれて。」
それから、僕は久しぶりに彼女の部屋に寄らず、自分の部屋に帰る。
電話が何度も何度も鳴った後、ようやく僕は電話に出る。
「どうしたの?」 「ああ。」 「今日、来ないの?」 「うん。」
ちゃんと聞けばいいのに、若さはわざと遠回りな道を選ぶ。
「じゃ、明日は?」 「明日も無理。」 「えっと。あの。私、嫌われてる?」 「いや。そうじゃないけど。」
そうじゃないけど。僕と付き合うようになってからも、他の男と寝たのか?
訊こうとしても、言葉が出て来ない。
「待ってるから。」 寂しげな声を残して、電話が切れた。
夜中。彼女の部屋に電話をする。何度も何度も。怒っているのだろうか。寝ているのだろうか。いや、きっと他の男の腕に抱かれているにちがいない。
僕は、怒りのあまり受話器を叩きつける。
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次の日。結局、僕は迷わず彼女の部屋に向かってしまった。
彼女はフワリと僕に抱き付いて来て、僕は彼女を抱き返す。
「ねえ。あたしの事、知っちゃったのね。」 「ああ。」 「怒ったんでしょう?」 「うん。ちょっとだけ。」 「でも、あなたと知り合ってから、そういうのやめたの。一緒にいて。お願い。私、一人じゃいられないの。その代わり、一緒にいてくれたら他の男の人と寝たりしない。」 「分かった。」 「許してくれるの?」 「ああ。」 「嬉しい。」
彼女は、僕に豊かなバストを押し付けて来る。
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「ねえ。こっちおいでよ。」 「うっせーな。レポート書いてんだよ。ちょっと黙っててくれよ。」 「だって。」 「頼むからさあ。こう毎晩じゃ、俺だって体持たないし。」 「分かった・・・。」
彼女は、立ち上がると外に出て行ってしまった。
男だろうか?
だが、もう、どうでもいい。疲れた。
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彼女は再び、多くの男と寝るようになった。
僕は、そんな彼女から離れることもできず、彼女が帰らない夜は酒を吐くまで飲んだ。
「やだ。何?この匂い。ちょっとー。ここ、私の部屋よ。」 彼女の声が響く。
僕は、ゆっくりと腕を振り上げる。
きゃっ。
叫び声がして、彼女はしゃがみ込む。
「もう、うんざりだよ。」 僕は、雨が降る夜に彼女の部屋を飛び出す。
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大学で見かける彼女は変わらぬ様子で誰かしら男と一緒に歩いている。
最近一緒にいるのは、痩せた男だ。いつもブランド物を持っている。確か、婦女暴行か何かで警察に捕まったこともあったんだっけ。だが、親が金を積んで解決したのだ。
きみは。きみという女は。相手がどんな男でもいいのか。性別が男なら、誰でも。
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ある日、僕は、たまたま彼女とサークルの部室で顔を合わせる。
「荷物。取りに来たの。ここ辞めようと思って。」 「そうか。」 「私、あなたの事、好きだったよ。」 「いいんだよ。もう。」 「私の事を本気で殴ったの、あなただけだったし。」 「悪かったよ。」 「いいの。」 「なんであんな男といるんだ?セックスがいいのか?」 「下品な言い方しないで。」 「だって、お前はそれだけだろう?」 「分からない。でも、あの人傷付いてる。だから、あなたが私と一緒にいてくれたみたいに、私、あの人と一緒にいるの。」 「そんなの変だよ。」 「変でもいいの。同情でも、何でも。」 「夜一緒にいてくれるやつなら誰でもいいんだろ?」 「そうよ。誰だっていいの。私はそういう人間だもの。」 「馬鹿だよ。」 「馬鹿でもいいのよ。」
彼女は、もう、僕の脇をすり抜けて、部屋を出ようとしている。
「ねえ。あなた、自分の力で私を救えると思ったでしょう?」 「・・・。」 「私もよ。あの男を救えるかもしれないって思って。ね。馬鹿でしょう。傷がないと愛し合えないの。本当に馬鹿よね。私達、みんな。」 「・・・。」 「あの男とは寝ていないわ。そういうこと、出来ない体なのよ。だから、もどかしくて女に暴力振るうの。ね。あなた、私が寝てると思ったでしょう?だから、あなたが正しくて、私が間違ってるって、そう言いたかったのよね。」
僕は、ただ、無言。
彼女は、部屋を出て行く。きみのこと、他の男よりずっと分かってやれる気がしていたから。僕の言い訳は宙に浮いたまま。
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