セクサロイドは眠らない

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2003年10月20日(月) 美香は、さっきから私に寄りかかって胸の膨らみを押し付けて来る。私はというと、恥ずかしい事に、

若い女が好きなのだ。それは、責められるべきことかもしれないが、若い女の持つ何かが私の奥を刺激する。最初の妻と離婚してからは、付き合う女は皆、若い女だった。自身は、五十を目前に老いを感じる事が増えて来たのだが。

今朝もそんな事を考えながら食事を終える。ヨリコは、茶碗を置いた私の前に黙って熱い煎茶を出す。タイミングをよく心得ている。ヨリコは、若くはない。美人でもない。最初の妻が連れて来て、そのまま置いていった女だ。ヨリコには女としての興味は全く湧かない私だが、身の回りの事をしてくれる者がいないと困るので、そのままうちに残ってもらっている。

「ごちそうさま。」
箸を置くと、ヨリコはすぐさま片付けに掛かる。

私は、
「タクシーを呼んでおいてくれ。」
と告げて、自室に入る。

若い女だからと、無理に自分まで若作りをする事もない。そう考えながらも、今から会う女が以前にくれた、少々地味に過ぎるネクタイを胸元に当ててみた結果、もう少し明るい色のものに変える事にした。

自然に若い女と知り合いになれるのは私の才能と言ってもいいだろう。友人に、どうすればそんな風に知り合えるのかと訊かれても、返事に困ってしまう。ただ、何となく。だ。口で伝えられるものではない。女性の人と今ひと時楽しい時間が過ごせればいい、と、それぐらいの気持ちで話し掛けるのだ。間違ってもしつこく口説いたりしてはいけない。私のようにそこそこ金があって、しかも礼儀正しく女性に接する男というのは、女性のほうも好ましく思うのだろう。帰る頃には、自分から「また電話してよ。」と言って番号を教えてくれたりするのだ。

--

「もう。ちっともメールくれないんだから。」
隣で美香が拗ねている。

「メールねえ。使い方がちっとも覚えられなくてねえ。」
「うそ。うちのパパでも、最近じゃメル友ができたとかって自慢してるよ。」
「分かった分かった。だけど、美香が電話くれる時は絶対出るだろう?それで充分じゃないか。」
「充分じゃないよ。女の子はね。メールとかくれるのが嬉しいものなの。」
「はは。そうか。じゃあ、頑張って覚えるかな。」

美香は、さっきから私に寄りかかって胸の膨らみを押し付けて来る。私はというと、恥ずかしい事に、11時を回ろうかという時間になると疲れて来て、そろそろ引き上げたくなる。

そっと腕を外そうとすると、美香が、
「やだっ。」
と、しがみついてくる。

「おいおい。どうしたのかな?」
「もっと一緒にいたいんだもん。」
「しょうがないお嬢さんだなあ。家に帰らなくちゃいけないんだろう?」
「今日は、泊まってく。」
「泊まってくったって。仕方がない。うちに来るか?」

コクリとうなずく美香の体を抱えると、私はタクシーを止める。

やれやれ。

別に、うちに泊まるのは構わない。それは全然構わないのだが。

--

翌朝、ヨリコが朝食の支度をしたそばで、まぶたの腫れた美香がふてくされたように味噌汁をすすっている。

タクシーで会社の前まで送って行った別れ際、
「てっきり一人で住んでるのかと思ってたから。」
と、恨めしい顔で言うから。

「一人じゃ何かと不便なんだよ。お嫁さんに来てくれる人でもいないことにはね。」
「なら、美香がお嫁になってあげる。」
「はは。嬉しいなあ。」

私は、美香の頭を撫でて、
「仕事頑張って来なさい。」
と、優しく言ってやる。

--

そう。

あの娘も。この娘も。時には、もっと落ち着いた女性にも。

私は女には不自由しなかった。

そろそろ、身を固めてもいいか。そう思い始めたのは、美香から数えて何番目の子だろうか。秋から冬に変わる季節だった。外でステーキを食べるより、家で鍋をつついていたくなったから。

目の前の女にプロポーズした。

早紀、という名だったか。

早紀は、
「本当に?」
と、私の目を覗き込んだ。

「ああ。本当だとも。」
私は、用意してあった指輪を取り出した。

「嬉しい。」
早紀は、涙ぐんでいた。

おいおい。泣くなよ。いつもは勝気な事ばっかり言ってるお前が泣くかよ。そう思いながら、早紀の美しい涙に見とれた。そうだ。私は、本当に女が好きだった。彼女達が、華やかに笑い、泣き、怒るのを見ているだけで、体の内から活力が湧いて来た。

「ねえ。一つだけお願いがあるの。」
「ん?なんだ。」
「あの人に出てってもらって。」
「あの人って?」
「ヨリコさんよ。」
「ああ。ヨリコさんねえ。」
「二人で住みたいの。あの人がいたら、私、落ち着かなくて。」
「そうは言っても、早紀。お前、ご飯作れないだろう。掃除だって苦手じゃないか。」
「練習する。練習するから。」
「分かった。考えておくよ。」

--

翌週、私は、ホテルの部屋で、早紀から突き返された指輪をぼんやりと眺めていた。

早紀の香りがまだ残っている。早紀の叫び声も、耳にこびりついて離れない。

「何よ。あんな女。あんな、どこにでもいる女。代わりなんか幾らだっているのに。でも、私は、世界で一人よ。あなたをこんな風に愛してあげられる若くてきれいな女は私だけなのに。なのに、あの女を追い出さないのね?」

私は、人差し指の中ほどまでしか入らない指輪をくるくる回しながら、ああ、と答える。

ああ。そうだね。ヨリコのような、一度見たら忘れてしまいそうな顔の女は、どこにだっているかもしれない。

だがね。若くて美しくて野心家で料理の出来ない女は、もっともっと多いんだよ。

そんな言葉を最後まで聞かず、早紀は飛び出して行ってしまった。

よっぽど頭に血が上ったんだなあ。

--

私は、帰宅して、ヨリコの焼いた秋刀魚をつつく。

ヨリコが、ふと、しゃがれた声で言う。
「あの。私、いつここを出て行く事になるんでしょうか?」

私は箸を止めて、答える。
「出て行かなくていいさ。」
「だって、結婚なさるんでしょう?」
「結婚?ああ。お前にも言ったんだっけ?」
「はい。」
「結婚は、やめた。」
「やめたんですか?」
「ああ。やめた。」
「どうして?」

さあ。どうしてかな。

私は、たっぷりの大根おろしに箸を入れながら、思う。

ヨリコの指は、案外と白く、細い。さっきの指輪、案外無駄にしなくて済むかもなあ。新しいものを欲しがる女じゃないし。それより何より、ヨリコがずっとうちにいてくれるなら、何よりじゃないか。

ヨリコは不思議そうな顔で私を見ている。

私は、なぜか一人笑えて、ニコニコとヨリコの顔を見返す。


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