セクサロイドは眠らない

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2002年08月08日(木) でも、ちょっと面白いじゃない?あんな綺麗な顔で、どんなセックスするか見てやりたいのよね。

ナリコは、嘘つきだね。

そんなことを、幼い頃から繰り返し言われた。

「今日、誰と遊んだ?」
たとえば、小学校に上がったばかりの頃、母親はそんなことをナリコに訊ねる。

「今日は、ミサキちゃんと、チヅルちゃんと遊んだよ。」
「へえ。そう。幼稚園の頃は、あんまり遊んでなかったのにね。」
「うん。」

ナリコの母親は満足そうだった。

だが、翌日、ナリコが小学校から帰って来ると、いきなり頬をはたかれて、
「なんで、そんな嘘をつくの?」
と怒鳴られた。

聞けば、ナリコの母親が買い物帰りにミサキちゃんに会って、
「ナリコと遊んでくれたのね。ありがとう。」
と声を掛けたところ、
「私、ナリちゃんとは遊んでないよ。」
と答えたという。

「その時、母さんがどんな気持ちだったと思う?恥かしいったら。」
と、涙ぐんで、突き飛ばされて、ナリコは柱に頭をぶつけて、ぼんやり思う。

嘘って、どうして、分かっちゃうんだろう。

私とママの間だけにあったら、絶対ばれなかったのに。

ああ。そうか。ミサキちゃんがいけないんだ。ママがミサキちゃんとしゃべったからいけないんだ。

ナリコは、その日の帰り道、ミサキちゃんに
「帰ろう。」
と言った。

ちょうど、チヅルちゃんはピアノのお稽古があったから、ミサキちゃんは「いいよ。」と言った。

帰り道に、ミサキちゃんは、タナカ商店でアイスを買っていた。

学校の帰りにアイスなんか買っちゃいけないんだよ。と、ナリコは言ったが、
「いいって。ナリちゃんも、一口舐めていいよ。」
と、無理に口に押しつけられたので、一口だけ舐めた。

それから、裏山で遊んで、その後、雨で増水した川のそばまで来た時、ナリコはミサキちゃんを川に突き落とした。

最初はミサキちゃんの手や足が、水の流れの間に見えていたけど、そのうち見えなくなった。

ナリコは、家に帰った。

母親に、
「今日は、ミサキちゃんと遊んだ。」
と言うと、母親は、
「本当に?」
と、ナリコを少しにらんだ。

「本当だよ。でね。ミサキちゃんが、学校の帰りにアイス食べた。」
「ナリコは、食べなかったでしょうね?」
「うん。ミサキちゃんだけ、食べた。」
「ナリコはそんなことしちゃ、駄目よ。」
「分かってる。」

その時、電話が鳴った。

ナリコの母親は、しばらく電話でしゃべって、それからナリコに
「ミサキちゃんが帰って来ないって。」
と言った。

夜、ナリコの両親や、警察が来た。

ナリコは、
「裏山で遊んだ後、別れた。」
の一点張りで通した。

結局、皆、あきらめて、町内で捜索隊が結成された。母も加わって、ミサキちゃんを捜した。翌朝、川に張り出している木の枝に、ミサキちゃんの体が引っ掛かっているのが見つかった。

ナリコの母親は、青ざめた顔で、
「川のそばで遊んじゃ駄目よ。」
と、言った。

--

その後も、ナリコにはあまり友達もいなかったが、一人だけ、転校して来た、おとなしいリカという女の子がナリコの遊び相手だった。

と、言っても、ナリコが嘘の言葉を並べるのを黙って聞いているだけの女の子だった。とても美しかったが、ほとんど口を開かず、その子を相手にしていれば、ナリコも嘘つきと責められる事はなかった。ナリコは、リカになんでもしゃべった。本当のことも、嘘のことも。

高校も大学も、ナリコは、リカと一緒だった。

大学に入ると、ナリコにも幾人か恋人ができた。最初は、リカが目当てで寄ってくる男の子達も、リカの愛想のなさにうんざりして、ナリコと親しくなるのだ。

ナリコは、相変わらず嘘つきだった。

だけど、幼い頃と変わったのは、嘘のつき方が上手になった事。

青臭い男達に抱かれる時も、ナリコは嘘をつき続けた。

「気持ちいいか?」
と聞かれたら、
「すごくいいわ。」
と、答えた。

「俺のこと、好きか?」
と聞かれたら、
「あなたがいないと死んじゃうわ。」
と。

それも、本当のように言うから、男達はさして美しくないナリコに夢中になった。

だが、ナリコの嘘がどうしても通用しない男が現われた時、ナリコは、生まれて初めて、苦悩し、怒り、悩んだ。その男は、美しく、知的だった。ナリコは、美しい男が好きだったので、何とか彼を自分に振り向かせたいと、あの手この手を使った。

そうして、ある日とうとう、気付いた。男が、リカのことばかり見ていることを。

ナリコは、そのことに気付き、愕然とした。

--

「ねえ。リカ。あなたのこと、ずっと親友だと思っていたのだけど。」
ナリコは、リカを呼び出して、言った。

「あなた、私が誰のことを好きか知っているでしょう?」

リカは、黙ってうなずいた。

「あの人がどうしても欲しいの。」
ナリコは、懇願した。

「だから?」
「だから、あなたにいなくなって欲しい。」
「いいわよ。」
「いいって?」
「私を殺して。」
「駄目よ。」
「本当は、そうするつもりで呼び出したんでしょう?さ。早く。」

リカは、ナリコの手を取って、自分の喉に持って行った。

違うよ。そんなつもりじゃ・・・。

だけど、ナリコには、もう逆らえなかった。

ナリコは、リカの喉に力を込めた。

リカの喉が、ぐうっと音を立てても、ナリコは力を緩めることができなかった。

暗い部屋で、リカの死体とボンヤリといつまでもいた。

ナリコは、リカの死体に向かって、いつまでもしゃべっていた。男達の事。本当は抱かれたって、全然良くないのよね。下手だし。自分本意で子供だし。お金もあんまり持ってないし。男って、嘘がばれると怒るけどさ。お互いさまだと思うの。結局は男のほうが自分勝手なんだもの。あいつだって、きっとそう。顔は綺麗だけど。どうせ、見かけだけで女の子を判断するのよ。だから、本当は、あいつとも一回寝たら別れるつもりだけどね。でも、ちょっと面白いじゃない?あんな綺麗な顔で、どんなセックスするか見てやりたいのよね。

ねえ。リカ。誰かに訊かれたら、ちゃんと答えてよね。

リカの死は、リカが自分で望んだんだって。

私、本当は全然殺すつもりじゃなかったって。

ほら。私、あんまり信用ないから。

ね。


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