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セクサロイドは眠らない
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| 2002年07月20日(土) |
そういうことだ。ドールは見かけでは判断できない。どんな悪魔にも、天使や羊の皮をかぶせられるのだ。 |
緊急の呼び出しがかかる。
雨は本降りではないが、遠方からの雷の音が時折混じる。
僕は、慌てて夜の街に向かう。
人の存在を脅かすドールを狩るのが、僕らの仕事。「ドール狩り」は、常に急を要する仕事だった。だが、今日は、一仕事終えて帰って来たばかりだった。そんなスタッフまで呼び出されるとは、相当に危険なドールが街を徘徊しているのだろう。
僕は、世間を騒がせている一連の連続殺人事件を思い出す。
そういった、危険なドールは、時折、コンピュータウィルスのように、一部の異常者によって、街に放たれる。相当の緊張の中に、妙な心地良さを感じながら、僕は体の中をアドレナリンが駆け巡るのを感じる。
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リーダーによって配られた、その手配写真に写っていたのは、美しい女のドール。長いプラチナブロンドがいつも犯行現場に残されており、それが手がかりとなったらしい。
グリーンの瞳。
小さくすぼまった、濡れた唇。
写真のドールは、男の心をそそるような顔つきだったが、その目だけは笑っていなかった。表情さえ、作り物。
珍しい型のドールだ。滅多に見ない。この表情は、さぞかしマニア受けするだろう。このドールの作者の好みがはっきり現われている。
僕は想像する。
そのドールが、僕らドール狩りスタッフの手に追い詰められたところで、「お願い・・・。助けて・・・。」とか弱く懇願するところを。この手のドールには、危機を察知すると助けを求めるようにプログラムされている者も多い。それがあまりに上手く仕込まれていると、新人の中には、一瞬ドールを撃つ手が止まる者もいる。そうやって、逆に命を失う者も多いのだ。
そう。僕の親友も、こんな雨の日に。
そういうことだ。ドールは見かけでは判断できない。どんな悪魔にも、天使や羊の皮をかぶせられるのだ。
僕は、写真を見ることで、憎悪を募らせ、集中力を高めて行く。
警察犬が思考とは無関係に敵を追い詰めて行くように、僕は、ただ、写真を見て、僕の目下の敵を意識に刷り込む。
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僕らは、ありとあらゆる場所を探し回った。
写真のドールによって殺害された人間の数は、92人。だが、実際のところはもっと多い筈だ。命を奪われたのは、全員女性。どんな意図があって、ドールの作り主は、この殺人鬼を作り出したのだろう。だが、作り主のプロファイリングは僕の仕事ではない。僕は、今、現に行われ続けている殺戮を止める事だ。
その時、小さな小さな悲鳴。
僕は、慌ててそちらに向かう。
路地の奥で、僕はそのドールを見つけた。
追い詰められているのは、小さな少女。そばに、ホームレスであろう女性の死体。
僕は、慌てて、ドールの足めがけて、銃を発射する。
ドールは、膝から下を粉々にされて、がっくりと崩れ、倒れる。
少女は、恐怖のあまり意味不明の言葉を発して、母親を指差している。多分、助けてくれとか、そんな事。僕は取り敢えず、仲間に連絡を取り、少女の保護と被害者の死体の回収を依頼する。
そうして、その天使の顔をした殺人鬼に向き直る。
ドールは、何の表情もない目で、僕を見ている。
まだ、危険だ。
ドールの作り主は、ドールが捕獲された場合に自分の素性がばれるのを怖れて、自爆するように作っている場合が多い。多分、このドールも・・・。
僕は、そっと近寄りながら、彼女に話し掛ける。
なぜだろう。ドールに話し掛けた事など、今まで一度もなかったのに。
僕は、興味を抑えられなかった。
それほどまでに魅惑的な顔の殺人兵器を作り出した、どこかの誰かへの興味。
「きみは、どうして人を殺す?」 「人間になりたいから。」 「人間に?」 「とうさまが、言ったから。」 「殺せと?」 「ええ。あと1人なの。あと1人で、100人なの。100人殺したら、私は人間になれる。」 「人間になれると、言われたのか?」 「ええ。とうさまは、人間の女が嫌いなの。だから、私に殺せって言った。私が、とうさまのお嫁さんになってあげると言ったら、人間になったら、お嫁さんにすると言った。おまえが100人殺したら人間になれる。そうしたら、私を愛してくれると言った。」 「きみは、99人を殺したのか。」 「ええ。あと1人。あなたでちょうど100人目よ。」 「きみのとうさんというヤツは、今、どこにいる?」 「いないわ。いなくなった。どこかに行ってしまった。私がいつまでも人間にならないから、行ってしまった。」 「きみは、頭のいいドールだ。とうさんがどこに行ったか、どこに行きそうか、何か思い出せないかな。」 「その前に、あなたを殺す。」
ドールの目が光ったその時、一瞬早く、僕はドールの頭を撃ち抜く。
「あと1人・・・。あなたで・・・。」
バラバラになったドールの残骸の中で、ドールの唇がゆっくりと動き続ける。
雨が降っていて良かった、とその時思った。知らぬ間に、頬を伝う涙。
その破片を拾い集める。
美しかった。生きてないものとは思えないほど、僕の心を揺さぶるドールだった。いつも、その無垢なる存在は、人間によって汚される。
僕は、そのプラチナブロンドの髪をひと房、ポケットに入れて。
ドールの目は、死など見ていなかった。
ただ、一つの生に憧れていただけだった。
一方の僕は、正義の名の元に殺戮を繰り返す者。
「お前のそんなとこが、いつか命取りになるぞ。」 同僚は忠告するけれど、僕は、いつも一仕事終えた後と同じく、胸の前で十字を切って、心の中で短い言葉を捧げる。せめてこうでもしていなくては、いつか僕の心が機械になってしまいそうだから。
それから、後ろを向くと、震える少女を抱き上げて、雨の中、仲間の到着を待つ。
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