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セクサロイドは眠らない
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| 2002年07月11日(木) |
彼女の、体。何もかもに心を奪われた。男達がヨダレを垂らさんばかりに目を見張ったと同時に、女達が殺気立った。 |
その街にある日フラリとやってきた女は、とても美しく、街中の男の目を引いた。
長い、腰まであるブロンドをなびかせて、グリーンの瞳で涼しげな視線を投げ掛けながら、ゆっくりと歩いてやって来た彼女には、男も女も目を留めずにはいられなかった。
僕も。
息を飲んで。
彼女の、瞳。
彼女の、体。
何もかもに心を奪われた。
男達がヨダレを垂らさんばかりに目を見張ったと同時に、女達が殺気立った。
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女は、街の中に店を出した。
「酒と食事の店」
男達は集うようになり、女達の子供を叱る声が響くようになった。
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最初に女にアプローチしたのは、赤毛の青年だった。
街中が、女と赤毛の様子を、息を飲んで見守った。
赤毛は、気のいい青年だった。街の女の子からは、ちょっとした頼まれ事を何でも引き受けてくれる、からかいがいのある青年という評価を得ていた。
だが、青年は、女のところに通うようになってから、街の女の子には見向きもしなくなった。陽気な赤毛とそばかすは、笑顔を返さなくなった。夢遊病者のようにフラフラと歩く姿を、皆が目撃した。
それでも、青年は女の元に通う。
そうして、時々は、天国に行って来たかのように軽やかな足取りで歩いている事もあって。だが、その麻薬の効果は短い。だんだんと効き目がなくなる。禁断症状は激しくなる一方で。
街の男達は、そんな姿にぞっとしながらも、自分はそうはなるまいと思いながら、酒を飲んだ。
そうして、ついには、赤毛は捨てられた。
ゴミくずのようにポイと。
街で雨に打たれて立ち尽くす彼に、僕は声を掛けようと思った。その時、街で一番地味でおとなしい娘が傘を差し掛けた。
赤毛は驚いて彼女を見て。
初めて人間の女性に出会ったかのように安堵の笑みを浮かべて。
それから、二人は手を繋いで雨の中、消えて行った。
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次にブロンドの美女に引っ掛かったのは、酒屋のオヤジだった。
最初は、商売あがったりだ、とボヤいて、店に乗り込んで行った筈だった。
街中が、オヤジの怒鳴り声が今響くか、今響くか、と待っていたが、オヤジは大声を出すどころか、そのまま数時間出て来ないで、やっと出て来たと思ったら、放心状態で、すっかり頭が変になったように見えた。
酒屋の女房は、オヤジに負けず劣らず偏屈で怒りっぽいので、これは騒動があるぞと思っていた。案の定、激しく食器を投げ合う音が随分と響いていたが。
そのうち静かになった。
皆がびっくりしたのは、翌日だった。酒屋の女房が化粧をして出て来たもんだから。
「どうしたっていうの?」 酒屋の女房の友達の、魚屋の女房が訊ねた。
「どうしたって、ま、たまにはいいかと思ってね。」 そう言って、恥らう姿に、一同またまた驚いたけれども。
そのうち、街の女達はこぞって美しく装うようになった。
「あんな余所者に、うちのを盗られたらたまらないからね。」 それが、女達の言い分だった。
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そうやって、今では、あんなに賑わっていた「酒と食事の店」の男の客足も随分と減って。それから、少しずつ、今度は女性達で賑わうようになってきた。
「そのすべすべの肌はどうやって手入れしてるの?」 とか、 「あの人のハートをとろかせるお料理を教えてちょうだい。」 とか。
そんな事を、女主人をつかまえては訊ねる姿を多く見掛けるようになった。
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そうして。
夏も終わった、早朝。
僕は、その美しい人が、店の看板を下し、大きなトランクを持って、街を出て行こうとする姿を見つけて、慌てて駆け寄った。 「待ってよ。」
彼女は、サングラス越しに、僕を見ると微笑んで。 「いつも、店の外から中を眺めていたわね。」 と。
「ようやく声を掛けてくれたのね。」 と微笑む彼女。
「恥かしかったんだよ。僕なんか相手にしてもらえないと思って。」 「でも、今日、勇気を出してくれたのね。最高のさよならだわ。」 「行っちゃうの?」 「ええ。」 「みんな、あなたにはこの街にいて欲しいと思ってるよ。」 「そうかしら。」 「そうだよ。」
僕は、つい大きな声になる。
「あのね。私は、スパイスみたいなものなのよ。一振りあれば充分なの。ぐずぐずしてたら、刺激のある香りは飛んじゃって、気が抜けちゃうのよ。」 「だから、行っちゃうの?」
彼女は黙ってうなずく。
「見てごらん。街のみんな。幸せそうだ。きみのおかげだよ。だから、きみも素敵なパートナーを見つけて。」 「だめよ。私は、スパイシーな生き方しかできないんですもの。」 「じゃあ、僕は?僕はまだ、きみを味わってないのに。」 「おませさんね。坊やは。また、あなたが学校を出て、立派な大人になる頃に戻ってくるから。だけど、今はまだ、私はあなたには早過ぎるわ。」
彼女は来た時と同じようにブロンドをなびかせて。
僕は、彼女の姿を忘れないようにと、瞳に焼き付けて。
それは、僕がそれまでに出会った人の中では最高に格好良くて。自分も早く大人になりたいと。そんな風に思うに充分だった。
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