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セクサロイドは眠らない
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| 2002年06月23日(日) |
その指が私の中で動くと、私は、何とも言えない奇妙な感覚にとらわれて。下半身が溶けていくように、力が入らない。 |
昼休み。
今日も、他の女性が連れ立ってお昼を食べに出るのを見送ってから、一人、デスクで家から持って来たお弁当を開く。会社に入って二年目なのに、まだ、他の人とうまくしゃべることができない。今年入社の新入社員でさえ、もう、気の合う先輩と飲みに行ったりしてうまくやっているというのに。
人とうまくやっていけない。高校を休みがちになって、結局、同級生よりも卒業が一年遅れてしまった。それさえも、更にコンプレックスになって、私は、うつむいて歩く癖が付いた。就職に奔走してくれた親や教師に悪いから、なんとか仕事は続けているけれど・・・。
「いつもお弁当なんだね。」 背後から声がする。
振り向くと、総務のキムラさんという男性社員がいた。
「はい。」 「何、読んでるの?」
傍らに置いた文庫本は、お昼を食べ終えた後の暇つぶし。
「たいした本じゃないです。」 「本、好きなんだね。」 「ええ。まあ・・・。」
こういう時、会話を続けるのが、私はとても下手だ。
「蛍光灯が切れたって、連絡受けてね。取替えに来たんだよ。」 キムラさんは、蛍光灯がチラチラと点滅している場所に椅子を引っ張って行く。
キムラさんは、いつも、左手に黒い皮のようなピッタリした手袋をしている。誰も、その手袋が何の役割を果たしているのか知らない。時折、女子社員の間で噂に上るが、キムラさんという人そのものが謎の人であるというところで会話が落ち着くようだ。あまりしゃべることもなく、会社の宴会などにも出たりしない、地味な印象のあるキムラさんだが、その手袋のせいだろうか。私は、どこか気になる。
「よし。できた。邪魔したね。」 キムラさんは、私に声を掛けると、部屋を出て行った。
ああ。どうして、こういう時に素直に声を掛けることができないんだろう。もっと話がしたかったのになあ。そんなことを悔いている自分に驚く。変だな。私。人としゃべるのは苦手なのに。
私、多分、キムラさんに興味を持っている。キムラさんなら、私みたいな人間の相手をしてくれそうだって思ってる。私は、勝手に、キムラさんと私を同類だと思い込んでいるだけかもしれない。
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部長が、所属替えで名古屋に行くことになるというので、今日は、壮行会が行われた。
酒の席で。
またしても、私はポツリと一人、周囲の喧騒から外れている。
ボンヤリと飲んでいると、キムラさんの噂が聞こえて来た。
「ね。ね。キムラさん、ちょっとよくない?」 「え?キムラが?なんか、暗いじゃない?」 「うーん。なんていうかな。クールでさあ。なんか、あの冷たそうな眼がぞくぞくするのよね。」 「やだ。そんな趣味?」 「うん。大人って感じしない?」 「そう言われたら、そうかもねえ。」 「なんか、上手そうじゃない?」 「上手って?」 「だから・・・。」 さすがに声をひそめている女性社員の話を聞こえないふりをしても、自然に顔が赤らむ。
それから、心の中がチクチクしているのに気付く。
え?なに?これ。嫉妬?
そうだ。私は、彼の噂に激しく嫉妬している。彼を素敵だと思うのは、私だけで充分なのに。他の女の子がみんな彼を狙っている気がして。
私は、急に苦しくなって。
席を立つ。
「あら。どうしたの?サワダさん。」 「すいません。なんか・・・。気分が・・・。」 「帰ったほうがいいわよ。」
周囲に言われて、私は、タクシーに乗り込む。
それから、自然と口を突いて出た先は、自分の会社だった。
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「やっぱり。」 やはり、キムラさんは、まだ仕事をしていた。
「どうしたの?」 「あの。忘れ物して。」 「今日、壮行会だろう?」 「ええ。途中で抜けて来ちゃった。」 「そうか。」 「キムラさんは?どうしていつも、会社の行事には参加しないんですか?」 「苦手なんだよ。僕は、そういうの苦手でね。時間の無駄だし。」 「そう・・・。」 「ちょっと待ってて。もうしまうから。送って行くよ。」 「あの。すいません。」
私は、思わぬ幸福で、足が震える。
「ごめん。待たせちゃったね。」 「いいんです。」 私は、キムラさんと並んで歩いて幸福だ。
「あの。キムラさんは、付き合ってる人とかいるんですか?」 「僕?いないよ。第一、もてないし。」 「でも、割と噂とか聞きますよ。」 「はは。女の子の噂はあてにならないからなあ。サワダさんこそ、もてるでしょう。」 「いえ。全然。」 「そうなの?こんなに可愛いのに。」
可愛い?私が?
少し、自信持っていいのかな。
それから、駅まで黙って歩いて。
最後、私は勇気を振り絞る。今、言わないと。もう二度と。 「あの。私と付き合ってもらえませんか?」 「僕?」 「はい。」 「ごめん。僕、会社の人間とは、そういう付き合いはしたくないんだよ。」
張り詰めた風船は、あっという間にしぼんでしまった。
「やっぱり。」 「誤解しないで。きみが嫌いなわけじゃない。むしろ、同じ会社の人間じゃなかったら、迷わずOKしてたよ。」 「すいません。帰ります。」
逃げるように走る。
ああ。馬鹿みたい。つい。優しくされたからって。言わなきゃ良かった。
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私は、翌日から仕事を休む。
誰も、私一人がいなくなっても困らないのだ。
最初は仕事内容の問い合わせの電話も何本かあったが、そのうち誰も気にしなくなった。
アパートで一人なのは、気が楽だ。もう、会社で辛い時間をやり過ごすのは限界だったんだ。
そう思って。それから、キムラさんが心の支えだったことに気付く。
ああ。本当に、馬鹿だ。それぐらいのことで。フラれたぐらいで。私は、唯一の社会との繋がりさえ、失おうとしている。
休んで一週間が経った頃だろうか。
電話が鳴る。
「はい。」 「あ。僕。キムラです。」 「キムラさん?」
胸がドキドキする。
「心配してるんだよ。どうしたの?」 「すいません。私、もう、会社辞めます。」 「なんで?僕のせい?」 「そんなんじゃないんです。」 「ともかく。今日帰りにそっちに寄っていいかな?」 「それは・・・。」 「いいだろう?」
そこまで言われて、私は嬉しかったのだ。部屋を片付ける。それから、キムラさんのことはよく分からないけど、灰皿を用意したり、お酒も幾つか。
分かってるよ。キムラさんは、心配して。それだけ。
「押し掛けてごめん。」 「いいんです。嬉しいから。」 「綺麗に片付いてるね。」 「ええ。」
私は、落ち着かなくて。彼のために用意したワインを、一人で空けてしまう。
お酒、弱いのに。
「あの。私、会社辞めるから。だから・・・。」 「いいよ。」 「いいって?」 「服、脱いで。」
彼は、奇妙に冷たい声で言う。
「あの・・・。私、シャワーを・・・。」 「そのままでいいから。」
飲み過ぎてボンヤリした頭で、私は言いなりに服を脱ぐ。
「こういうの、初めてなんです。」 「僕でいいの?」 「はい。」
彼は、その時、左手から手袋を外す。
私は、思わず息を止めて。どんな醜いものを隠しているの?と思ったが。そこにはしなやかな白い指。彼は指の具合を確かめるように、ヒラヒラと動かして。
「おいで。」 と、私に言うから。私は魔法に掛かったように。
彼の愛撫に身を任せる。
指が、その部分にそっと差し込まれた時、私は恥かしさで泣きそうになった。
その指が私の中で動くと、私は、何とも言えない奇妙な感覚にとらわれて。下半身が溶けていくように、力が入らない。
「そうだ。力を入れないで。」 彼は、優しく言う。
「ええ。もう・・・。」 いずれにしても、もう私の意思では下半身は動かせない。彼の指に、体ごと預けたまま。
そのうち、彼は、唇を下半身に滑らせて。私の体を吸っている。音を立てて。あんまり気持ちいいから、私は、つい、声を漏らしてしまう。
「素敵だろう?」
私は、黙ってうなずく。もう、私の下半身はどうやってもうごかせない。
「この左手から出る触手はね。気持ち良くさせて、溶かすんだよ。痛みはないだろう?」
私は、もう、首から下まで動かなくなっている。もうすぐ、考えることもできなくなるだろう。頭がボンヤリして。
私一人がこの世界からいなくなっても、誰も困らないから・・・。
彼の唇が、溶けた私の体をすする音が聞こえている。
私は、幸福だった。生まれて今日までで一番幸福だった。
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