セクサロイドは眠らない

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2002年06月06日(木) まだ、浅いキスしか交わしたことのない私達。長い長いキスは、だんだん激しいものになり、彼の舌がそっと

高校を卒業すると同時に、タカシは東京へ行くと言い出した。

「なんとか頑張って、オヤジ説得して、大学まで行かせてもらうことにしたんだ。」
「そっか・・・。」

地元のスーパーに就職の決まっている私は、寂しくて泣き出しそうな気持ちを抱えて、黙ってうなずいた。

「これで終わりって訳じゃないから。いつか、絶対、こっちに帰って来るからさ。」
タカシは、私の肩を抱き寄せて、口づける。

まだ、浅いキスしか交わしたことのない私達。長い長いキスは、だんだん激しいものになり、彼の舌がそっと私の唇を割って入って来た時、私は思わず彼の体にしがみつく。息が荒くなり、私の背中に回した彼の手に力がはいる。

「ね。抱いて。」
私は、もう、立ってられなくなって、タカシの体に寄り掛かって、言う。どうしようもないほどに抱いて欲しかった。離れ離れになる前に、何かを体に刻んで、安心しておきたかった。

彼は少し迷ったように、私をきつく抱き締めてじっとしていた。彼の鼓動の音が響いてくるのを感じた。

「いや。嬉しいけどさ。したいけど。今はしちゃいけない気がするんだ。必ず、しっかりした人間になって帰ってくるから。その時、シイちゃんを抱きたい。いい?」

分かったよ。

私は、こっくりとうなずく。

まったく、真面目なんだから。

少し物足らない気分さえ感じながら、私は、彼の真剣な顔がまぶしくてうつむいてしまう。

--

月に最低一回は、手紙出そうね。

私達は、そう約束した。

最初の半年ぐらいは、それでも、私も、寂しくて寂しくて、しょっちゅう手紙を出していた。スーパーの同僚と、ドライブに行った話。夏、バーベキューをした話。職場の人のことぐらいしか書くことはなかったのだけど、私はせっせと手紙を綴った。

--

アパートの鍵を開けて、エアコンも効いてない部屋の敷きっぱなしの布団に倒れ込む。

手には、シズカからの手紙。

僕は、いつものように、遊びに行った話ばかり書いている彼女の手紙の内容は、どうでも良かった。ただ、その内容のくだらなさに、子供っぽかった彼女の横顔が思い出され。読んでいると、切なくなってくる。たまに貼ってあるプリクラに笑ったりして。

読み終わった僕は、起き上がって返事を書く。

最近では、みんな、携帯でメール交換してるから、手紙のやり取りなんて古風だなあなんて自分でも思うが。シズカの手紙にも、メール交換のできる携帯電話を買ったという記述があった。メールアドレスも書いてあった。

恥かしい事に、僕は、携帯電話を持ってない。

オヤジからの仕送りがカツカツで、僕は、必死でアルバイトをしながら、何とか暮らしている状態なのだ。

それなのに、僕は、見栄を張って、シズカの手紙に返事を書く。
「シズカ、毎日楽しそうだね。僕は、今日は合コンで、今帰って来たとこ。男三人と女三人だったんだけどさ。心配しないで!きみみたいに可愛い子は一人もいなかったからさ。」

そんな嘘の手紙を書いて、それから、シズカの誕生日プレゼントを同封して、ポストに投函する。

シズカへのプレゼントは、必死で貯めた三万円をはたいて買った指輪。本当は、一緒に選びたかったけど、無理なので。

今度会う時、指にはめていてくれたら嬉しい。

--

「彼氏から手紙来たの?」
同僚のセイジが聞いてくる。

「うん。」
休み時間に読んでいたのが見つかった。

「なんか、入ってたんだ?」
「指輪。」
「お。すげえっ。」
「今日、あたしの誕生日だもん。」
「さすがだな。東京へ行くやつは、違うよな。」
「やだ。そんなじゃないよ。」
「俺、どうしよっかな。」
「何?」
「はは。指輪には負けるけどな。これ、駅前の店のクッキー。」
「え?並ばないと買えないやつ?」
「ああ。」
「すごっ。嬉しいよお。ありがとう。」

私は、セイジの思いやりに、涙が出そうになる。変だな。あたし。タカシからの手紙が来ると、どうしてこう憂鬱になるんだろ。あっちの華やかな生活に比べると、野暮ったい制服着てやってるスーパーの事務なんて、本当に恥かしくて嫌になる。

私は、セイジが行ってしまった後、そっと、タカシからの指輪を薬指に通してみる。その指輪は馬鹿みたにピッタリで。

私は、泣きそうになる。

いつだって、そつなく愛してくれるタカシ。

だけど、指輪だけじゃ、何も繋ぎとめられないよ。

私は、そっと封筒に指輪を戻す。

--

春が来て、夏が来て、また、春が来て、夏が来て。

どうして、タカシは帰って来ないんだろう?就職活動が忙しい?そんなもの?良く分からない。

--

最後に受けた会社の不採用通知が来た時、僕はガックリと肩を落として。受かったら、シズカに会いに帰ろうと思っていた。カップ麺の器が散乱した部屋で、僕は、どうしようもない毎日を送ってる。

それなのに、そういうことは、ただの一つも手紙に書けなくて。

ただ、
「忙しいんだ。」
と。

それが言い訳にもならないことは知っていて。

僕は、ペンを取り上げ、最後の手紙を書く。

「シズカ。長いこと、僕を励ましてくれてありがとう。今日、第一志望の企業に就職が決まりました。僕も、晴れて社会人です。実は、ここで僕はきみに謝らないといけないことがある。実は、大学の時から付き合っていた彼女と一緒に暮らそうと思うんだ。今まで黙ってて、ごめん。だから、もうきみとは会えない。僕は最低だよね。きみには何て詫びていいものか。」

そこまで書いて、僕は、恥かしいことに泣き出してしまった。

何年も、この東京で頑張れたのは、シズカのおかげだったから。この手紙の束が、僕を支えて来た。そうして、この文通は、いつか会えるという希望に支えられたものだったのに。

--

「やっぱり。」
私は、最後の手紙を読んで。

涙は出なかった。

会わないのがいけなかったのかな。

なんだか、ボーッとして、うまく考えがまとまらなかった。

午後は、セイジに会うことになっている。重い体をノロノロと起こして、私は、待ち合わせ場所へと向かう。

「顔色、悪いな。」
セイジが、ミックスジュースを頼みながら、言う。

「あのさ。出来たみたいなの。」
「ん?何が?」
「子供だよ。馬鹿。」
「おい。なんでそうなんだよ。お前、大丈夫って言ったろ?」
「だって・・・。」

私は、頭がズキズキと痛くて、どうしようもなくて。

店には、「木綿のハンカチーフ」が流れている。都会で流行りの指輪を送るよ・・・。

「産むつもりかよ。」
「産まないわよ。」
「金なら、出すからさ。」
「うん・・・。それからさ。ついて来て。病院。」
「分かったよ。」

私は、言いたいことだけ言うと、店を出る。

--

結局、なんだったんだろうなあ。

私は、机に放り込んだままにしていた封筒から、指輪を取り出す。本当に、馬鹿みたいにピッタリで。

ねえ。私達、なんで会わずにいたんだろう?

たくさんの手紙に、私は何一つ、タカシへの気持ちを書いていなかった。

今度、東京に行ってみよう。

そうして、みっともない自分のこと。話してみよう。

今更と思われるだろうか?それでも、何となく、だけど。

このまま終わりにするのは、自分がズルいと思うんだよね。

それで、目の前にいるタカシが、昔のタカシと全然変わっちゃってたら、そん時、始めて、ふっきれる気がすんだよね。


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