セクサロイドは眠らない

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2002年05月06日(月) 夏の日。ずっと、浜辺を歩いた後、私達は、一時間に一本しか出ない電車を待って、ホームのベンチに座ってた。

彼は、クラスで一番走るのが早かった。

リレーではいつも、アンカーを。一人抜き。二人抜き。みんな、彼の走る姿を美しいと思い、その瞬間、彼はいつもヒーローだった。

夏の日。

海辺。ほとんどしゃべらずに、歩いた。

私は、同窓会のハガキを手に、彼のことを思い出す。

彼とは、やっぱり会えない。欠席に丸をしたハガキをバッグに入れる。

--

携帯電話が鳴っている。

誰?こんな時間に。

時計を見ると、午前二時を回っている。

手探りで携帯を取って、出る。

「もしもし・・・?」
「ああ。良かった。ごめん。夜中に。」
「誰?」
「俺。分からないかな。もう、すっごい長いこと会ってないもんな。」
「あ。もしかして、カズキ?」
「あたり。」
「なんか。なつかしい。」
「ごめんな。寝てたんだろう?」
「うん。でもいいよ。明日、どうせ休みだし。」
「あの、さあ。同窓会。」
「ん?」
「同窓会、行く?」
「え?ああ。どうしようかなって思ってたところ。」

私は、欠席に丸をつけたことを思い出しながら、答える。欠席にしたのは、誰よりも、カズキ。あなたに会いたくなかったからなのに。私の心を見透かしたように、電話して来た。

「そうか。」
「カズキは?」
「俺?もちろん、行くよ。だから、さ。お前に会えないかなって思って。」
「そうなんだ・・・。」
「何とかならないの?仕事、忙しいの?」

何とかなるよ。

「お前だけ、東京行っちゃったからさ。」
「うん・・・。」
「みんな寂しがってんだよ。お前の顔見れないこと。」
「そっか。」
「だからさ。」
「うん。」

馬鹿みたいだね。私って。

「あの事、気にしてるんだろう?」
「え?」
「俺の手紙のこと。」
「うん。正直言っちゃえば、そう。」
「あの時、俺も、なんかすぐ言えば良かったのに、言えなくて。あれっきりになっちゃったから。」
「そうだよね。私も。」

--

夏の日。ずっと、浜辺を歩いた後、私達は、一時間に一本しか出ない電車を待って、ホームのベンチに座ってた。その時、彼が、そっと渡して来た手紙。

「帰ってから読んで。」
と、言うと、慌てて向こうをむいてしまった、カズキ。

私は、帰宅して、慌てて封を切ると、そこには彼らしい元気な字で、
「好きだ。つきあって欲しい。」
と書いてあった。

私は、その日はドキドキして眠れなくて。そんなのもらったの、初めてだったし。

翌朝、カズキの顔をろくに見ることもできないまま、私は親友のキミエに手紙を見せた。

「うっそ。なに?すごい。ラブレターじゃん。」
キミエは、ニヤニヤしながらそれを見て、
「どうすんの、付き合うの?」
って言うから。

恥ずかしくて。

「違うよお。好きでも何でもないんだから。」
と大声で否定して。

それから、キミエの前で、その手紙グシャグシャにした。

どうしていいか分からなかったんだもん。

多分・・・。カズキは、私が手紙をグシャグシャにしたとこ、見てたんだと思う。それから、キミエが面白ろ半分に言いふらしたみたいで。次の日には、クラスの全部の女子が、カズキの手紙のことを知ってた。

朝、席についた私のそばを、カズキは、黙って通り過ぎた。チラリともこちらを見ずに。

それっきり。

私とカズキは、三年の終わりまで一言も口を効かなかった。

不器用だったから。恋なんて言葉、憧れているばかりで、どうしていいか分からなかったから。

私は、カズキという友達を永遠に失ったことだけを感じながら、放課後、寂しい気持ちを抱えたままグランドを走るカズキを眺めていた。

--

「来いよ。同窓会。」
「うん。」
「また、前みたいにしゃべったり、しよう。」
「うん。」
「じゃあ、な。絶対来いよ。」
「待って。」
「ん?」
「ごめんね。あのこと。」
「いいんだよ。俺も、さ。恥ずかしかったりして、どうしていいか分からなかったから。俺もずっと謝りたかった。」
「うん。あの。本当に電話ありがとう。」
「じゃな。」
「じゃあ。」

本当は、あの時、「私も好き」って言いたかった。急に、そんな気持ちで胸がいっぱいになる。あの浜辺を歩いていた時と同じに。

翌日、私は、出席に丸をつけ直して、ハガキを投函した。

--

当日は、ホテルのロビーもにぎわって、私が到着した時にはかなりの人数が集まっていた。

私が入って行くと、
「どうしたの?東京の住所分からなくて、もう連絡取れないと思ったのに。」
と、幹事のミサが声を掛けて来た。

「え?ハガキ、来たわよ。」
「うそ。そうなの?誰が出したのかなあ。」
「だって。携帯の番号、カズキが知ってたくらいだから・・・。」
「カズキ?うそ。カズキ?そんな筈、ないよ。」
「どうして?」
「だって、カズキ・・・。」

聞けば、彼はあのまま、俊足を活かして体育大学に進学したあと、白血病で亡くなったと言う。

「どういうこと?だって、先週の土曜日。」
私は、携帯を出すが、履歴をいくらさがしても、夜中の着信は誰からのものも残っていない。

「そんな・・・。」
「ねえ。いいじゃない。どうだって。こうやってあなたが来てくれたんだもの。」

会場に入ると、ほとんどの席が埋まっていて。空いている席に目をやると、カズキの写真が。陽に焼けて笑っている。私の知らない、大学生のカズキ。

「おう。お前も来れたんか。」
サトシの笑顔。タクヤの笑顔。スーツ着てるくせに、笑顔は中学生の頃と全然変わらない。

三年四組、全四十名中、海外赴任しているマサヤを除いて、三十八名が集まった。

「すごい出席率ね。」
私は、ミサに言う。

「ええ。あなたが来てくれたから。みんな揃った。」

ありがとう。

私は、心の中でカズキに言う。

そう。私達のクラス、本当に仲が良かった。他のクラスの子もうらやむくらいに。体育祭では、いつもチームワークの良さで優勝していた。

--

会もたけなわ。

「また、十年後、同じ顔ぶれで再会することを、ここで誓いましょう。」
ミサの言葉に、会場が沸く。


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