セクサロイドは眠らない
MAIL
My追加
All Rights Reserved
※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →
[エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう
俺はさ、男の子だから
愛人業
DiaryINDEX|past|will
2002年05月06日(月) |
夏の日。ずっと、浜辺を歩いた後、私達は、一時間に一本しか出ない電車を待って、ホームのベンチに座ってた。 |
彼は、クラスで一番走るのが早かった。
リレーではいつも、アンカーを。一人抜き。二人抜き。みんな、彼の走る姿を美しいと思い、その瞬間、彼はいつもヒーローだった。
夏の日。
海辺。ほとんどしゃべらずに、歩いた。
私は、同窓会のハガキを手に、彼のことを思い出す。
彼とは、やっぱり会えない。欠席に丸をしたハガキをバッグに入れる。
--
携帯電話が鳴っている。
誰?こんな時間に。
時計を見ると、午前二時を回っている。
手探りで携帯を取って、出る。
「もしもし・・・?」 「ああ。良かった。ごめん。夜中に。」 「誰?」 「俺。分からないかな。もう、すっごい長いこと会ってないもんな。」 「あ。もしかして、カズキ?」 「あたり。」 「なんか。なつかしい。」 「ごめんな。寝てたんだろう?」 「うん。でもいいよ。明日、どうせ休みだし。」 「あの、さあ。同窓会。」 「ん?」 「同窓会、行く?」 「え?ああ。どうしようかなって思ってたところ。」
私は、欠席に丸をつけたことを思い出しながら、答える。欠席にしたのは、誰よりも、カズキ。あなたに会いたくなかったからなのに。私の心を見透かしたように、電話して来た。
「そうか。」 「カズキは?」 「俺?もちろん、行くよ。だから、さ。お前に会えないかなって思って。」 「そうなんだ・・・。」 「何とかならないの?仕事、忙しいの?」
何とかなるよ。
「お前だけ、東京行っちゃったからさ。」 「うん・・・。」 「みんな寂しがってんだよ。お前の顔見れないこと。」 「そっか。」 「だからさ。」 「うん。」
馬鹿みたいだね。私って。
「あの事、気にしてるんだろう?」 「え?」 「俺の手紙のこと。」 「うん。正直言っちゃえば、そう。」 「あの時、俺も、なんかすぐ言えば良かったのに、言えなくて。あれっきりになっちゃったから。」 「そうだよね。私も。」
--
夏の日。ずっと、浜辺を歩いた後、私達は、一時間に一本しか出ない電車を待って、ホームのベンチに座ってた。その時、彼が、そっと渡して来た手紙。
「帰ってから読んで。」 と、言うと、慌てて向こうをむいてしまった、カズキ。
私は、帰宅して、慌てて封を切ると、そこには彼らしい元気な字で、 「好きだ。つきあって欲しい。」 と書いてあった。
私は、その日はドキドキして眠れなくて。そんなのもらったの、初めてだったし。
翌朝、カズキの顔をろくに見ることもできないまま、私は親友のキミエに手紙を見せた。
「うっそ。なに?すごい。ラブレターじゃん。」 キミエは、ニヤニヤしながらそれを見て、 「どうすんの、付き合うの?」 って言うから。
恥ずかしくて。
「違うよお。好きでも何でもないんだから。」 と大声で否定して。
それから、キミエの前で、その手紙グシャグシャにした。
どうしていいか分からなかったんだもん。
多分・・・。カズキは、私が手紙をグシャグシャにしたとこ、見てたんだと思う。それから、キミエが面白ろ半分に言いふらしたみたいで。次の日には、クラスの全部の女子が、カズキの手紙のことを知ってた。
朝、席についた私のそばを、カズキは、黙って通り過ぎた。チラリともこちらを見ずに。
それっきり。
私とカズキは、三年の終わりまで一言も口を効かなかった。
不器用だったから。恋なんて言葉、憧れているばかりで、どうしていいか分からなかったから。
私は、カズキという友達を永遠に失ったことだけを感じながら、放課後、寂しい気持ちを抱えたままグランドを走るカズキを眺めていた。
--
「来いよ。同窓会。」 「うん。」 「また、前みたいにしゃべったり、しよう。」 「うん。」 「じゃあ、な。絶対来いよ。」 「待って。」 「ん?」 「ごめんね。あのこと。」 「いいんだよ。俺も、さ。恥ずかしかったりして、どうしていいか分からなかったから。俺もずっと謝りたかった。」 「うん。あの。本当に電話ありがとう。」 「じゃな。」 「じゃあ。」
本当は、あの時、「私も好き」って言いたかった。急に、そんな気持ちで胸がいっぱいになる。あの浜辺を歩いていた時と同じに。
翌日、私は、出席に丸をつけ直して、ハガキを投函した。
--
当日は、ホテルのロビーもにぎわって、私が到着した時にはかなりの人数が集まっていた。
私が入って行くと、 「どうしたの?東京の住所分からなくて、もう連絡取れないと思ったのに。」 と、幹事のミサが声を掛けて来た。
「え?ハガキ、来たわよ。」 「うそ。そうなの?誰が出したのかなあ。」 「だって。携帯の番号、カズキが知ってたくらいだから・・・。」 「カズキ?うそ。カズキ?そんな筈、ないよ。」 「どうして?」 「だって、カズキ・・・。」
聞けば、彼はあのまま、俊足を活かして体育大学に進学したあと、白血病で亡くなったと言う。
「どういうこと?だって、先週の土曜日。」 私は、携帯を出すが、履歴をいくらさがしても、夜中の着信は誰からのものも残っていない。
「そんな・・・。」 「ねえ。いいじゃない。どうだって。こうやってあなたが来てくれたんだもの。」
会場に入ると、ほとんどの席が埋まっていて。空いている席に目をやると、カズキの写真が。陽に焼けて笑っている。私の知らない、大学生のカズキ。
「おう。お前も来れたんか。」 サトシの笑顔。タクヤの笑顔。スーツ着てるくせに、笑顔は中学生の頃と全然変わらない。
三年四組、全四十名中、海外赴任しているマサヤを除いて、三十八名が集まった。
「すごい出席率ね。」 私は、ミサに言う。
「ええ。あなたが来てくれたから。みんな揃った。」
ありがとう。
私は、心の中でカズキに言う。
そう。私達のクラス、本当に仲が良かった。他のクラスの子もうらやむくらいに。体育祭では、いつもチームワークの良さで優勝していた。
--
会もたけなわ。
「また、十年後、同じ顔ぶれで再会することを、ここで誓いましょう。」 ミサの言葉に、会場が沸く。
|