セクサロイドは眠らない
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2002年04月26日(金) |
僕の鼻に、いろいろな香りが流れ込む。それから、妻の暖かく湿った場所の香りが僕の下半身を熱くする。 |
僕と妻は、三ヶ月前に結婚したばかりだ。
僕は、妻と結婚できてすごく幸せだった。
ただ一つ、一緒に暮らし始めて、妻の困った癖に気付いた。妻は、月に一回、ものすごくわがままになるのだ。それも、尋常でないわがままさだった。
たとえば先月などは、「どうしても今夜、明石のたこ焼きが食べたい。」と言って泣きじゃくるので、僕は仕事が終わった後、新幹線で片道一時間掛かる場所までたこ焼きを買いに行く羽目になったのだ。おかげで、一ヶ月分の小遣いの半分がとび、ようやく買って帰った頃には、妻はもう、ベッドでスヤスヤと眠っていた。
「おい。起きろよ。買って来たよ。」 と、激しく揺すぶって起こすと、妻はものすごく不機嫌になり、暴れた。僕に枕を投げ付けながら、「熟睡してるところを起こすなんて、サイテー。」とわめいた。
「きみが欲しいって言ったんだろう?」 僕は、妻の攻撃を受けながらも、そう叫んだ。
ようやく妻が落ち着いたところで、たこ焼きを食べさせると、今度は妻は、「冷めてマズイ。」と言って暴れ出した。またまた、僕は、妻の激しい攻撃を受けることとなり、結局、僕が温めたたこ焼きを妻が食べ終えた時には白々と夜が明ける時間になっていた。
妻は、ようやくたこ焼きを食べ終えると、ニッコリと笑い、僕にとろけるようなキスをしてくれた。
「ありがとね。ちゅっ。」
そうして、妻は、布団に潜り込んで、気持ち良さそうにスースーと寝息を立て始める。
僕は、仕事があるので、寝るに眠れず、夜が明け切ってしまうまでの時間、「果たしてこの結婚は正解だったのか?」というきわめて重要かつ基本的な命題について考えることとなった。
--
さて。
今月も、そろそろ、その日が近付いて来た。一体、なんだっていうんだ?生理とか、そんなことなんだろうか? 僕は、怯えながら帰宅する。
案の定、妻は機嫌が悪かった。つまらないことで揚げ足を取り、喧嘩に持ちこもうとするのだ。僕は、それが分かっていて、じっと辛抱するものの、ついに耐え切れなくなって、反撃に出てしまう。
途端に、妻は、わーっと泣き出して、もう、僕が何を言おうとしても、受け付けてくれない。
「もう、なんだってんだよ。」 僕は時計が気になる。明日も早いのだ。
「なんでも言うこと聞くから、いい加減機嫌なおしておくれよ。」
妻は涙でびしょびしょの顔を上げて、 「本当に?」 と聞く。
「ああ。本当に。」 「じゃあ、犬になって。白い毛がフワフワした、コロコロの子犬になってよ。あたし、ずーっと犬が欲しかったの。マンションじゃ飼えないけど。」 「犬?僕が?」 「ええ。」 「そんなの、無理に決まってる。」 「じゃあ、ここから出てってよ。本気でなろうともしないで。」
妻がそっぽを向いたので、僕は焦る。
なるから。なるから。犬になるから。
僕がそう叫ぼうとした瞬間。
キャンキャン。
僕は、本当に犬になっていた。
妻はにっこりと笑うと、僕の耳の裏をくすぐったりしてすぐさま機嫌を直した。
「かわいいわねえ。うちのダーリンも、いつもこんなに可愛かったらいいのになあ。」 妻は、大はしゃぎである。
僕の鋭敏になった鼻を、妻の香りがくすぐる。僕は、妻に鼻を近づけてフンフンしようとした。
「だ〜め。おあずけ。」 僕は、妻にきっぱりと命ぜられた。
なんとも。犬の習性からして、飼い主には絶対服従なのだ。
僕は、妻に言われるままに、そこにちんまりと座り、妻のお許しが出るのを待った。妻は、シャワーを浴び、鼻歌を歌いながら、レースをふんだんに使ったランジェリー姿で、爪の手入れを始める。
僕の鼻に、妻のいろいろな香りが流れ込む。愛用のシャンプーの香り、マニキュアに入った香料の香り、それから、妻の暖かく湿った場所の香りが僕の下半身を熱くする。
妻は、そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、爪の手入れを終えると、今度は海外のテレフォンショッピングを見ながら、美容体操を始める。しなやかな猫のような姿態が、僕の前でセクシーにポーズを取り、僕は、妻が体の向きを変えるたびに、我慢できずに、フンッ、と思わず鼻を鳴らしてしまう。
そうして、ついにはこらえきれずに、キャンキャンと鳴き立てる。
「あらあら。」 妻は、笑い出して、僕を抱き上げて、その鼻に口づけてくれる。僕はもう我慢できなくて、妻の上にのしかかり、妻の首筋をペロペロと舐める。
んん。
妻は、ご機嫌な声をあげる。
僕は、いつの間にか人間の姿に戻り、すっかり気を許した妻を羽交い締めにする。
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そうして、僕達は、今夜も熱い夜を過ごす。
一汗かいた後、妻は、僕の腕枕で、気持ち良さそうにくつろいでいる。
僕は、妻の鼻の頭にキスしながら、言う。 「ねえ。頼みがあるんだけどさあ。」 「なあに?」 「きみ、時々、ものすごくわがままになるよねえ?」 「そうかしら?」 「ああ。それで、僕、まいっちゃうんだけどさ。あのわがまま、なんとかならないかな。」 「本当に?」 「うん。」 「ほんとに、ほんとに、あたしがわがまま言わなくなっちゃって、従順な妻になることを望んでるの?」 妻は、僕の目を覗き込んで、訊ねる。
僕は、わがままを言わないで大人しくしている妻を想像してみる。
「どう?」 妻の問いにしばらく考えて、僕は答える。 「やっぱり、いやだ。わがままなきみがいい。」 「なら、今まで通りでいいわね。」 妻は、満足そうに微笑む。
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「大好きよ。」 妻が僕の首に腕を回してくる。
ああ。その一言が欲しかったんだよと、僕は感謝で胸がいっぱいになる。
そんなわけで。
妻は月に一度、ものすごくわがままになる。そのわがままは、本当に、キュートでゴージャスでセクシーなわがままなのだ。だから、妻のわがままを。もしくは、わがままな妻を、僕はこよなく愛する。
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