セクサロイドは眠らない
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愛人業
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2002年04月25日(木) |
くやしくて、泣いた。情けなくて、泣いた。声出して、泣いた。声出して泣いたら、少しすっきりした。 |
入社二年目。ついてないことだらけ。新入社員の女の子がフロアに配属されてから、あまりチヤホヤしてもらえなくなった。大学時代からの恋人とは、生活のサイクルのすれ違いで別れたばかり。いいことなし。同僚のヤスダという男と、今夜もそんなつまらない人生にビールで乾杯。
「そうかそうか。フラれたんか。」 「違うよ。あたしがフッてやったんだ。」 「可哀想にな。俺が今夜はなぐさめたるわ。」 「それよかさー、あんたのほうはどうなの?こないだあたしが紹介してあげた、彼女、駄目だったの?」 「んー。俺がはっきりせんかったから、あっちが愛想つかしたかもな。」 「あの子、結構あんたのこと気に入ってたのになー。」 「はは。今日は俺のことはどうでもいいよ。お前を慰める会だからな。」
私達は、なんのかんのと理由をつけては、ビールを浴びるほど飲む。
ヤスダ、モテそうなのになあ。いわゆる男前というわけではないけど、豪快で、真っ直ぐで、そのくせ細かいところも結構気が付くし、なんかあったかいし。
「じゃ、また明日ねー。」 「おう。二日酔いで休むなよ。」
気持ちのいい酒だ。
なんで、ヤスダとだったら、こんなに楽しいかなあ。
それでも、好きだったのは、別れた恋人。好きで好きで、苦しくて苦しくて、三年間悶々とした日々だった。フラれてすっきりしたくらいだ。
私は、星空に強がりを言って、アパートに帰る。
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そんな風に、人生の運気が落ちている時だからか。
私の人生、トコトン、ケチがつく。
新入社員の歓迎会では、部長の横に座らされた。いいなあと思う営業のグループとは離れ、部長の機嫌を取りながら飲む酒のなんとまずいことか。
あーあ。一次会終わったら、さっさと帰ろう。
私は、心に決めて、食べるもの食べて、飲むもの飲んで。適当に部長の相手して。そうしたら、思ったより飲み過ぎてしまった。
「このあと、二人でどっか行かんか。」 部長が耳元でささやくのを丁重にお断りして、私は、タクシーを止めた。
「一緒の方向だから、送ってやる。」 部長までが乗り込んで来た。
「ちょっと休めるところに行ってもらえる?」 部長は、運転手に向かって言う。
休めるところ?
運転手は答える。 「お客さん、それって、喫茶店とか、っていう意味じゃないですよね。」 「ああ。」
タクシーの運転手は、何かを心得たように運転しだす。
ちょっと待って。パニックになった私は、タクシーがラブホテルの駐車場に滑り込み、ドアが開くと、転がるようにして降りて、それから、走って逃げた。走って走って走って。とにかく、部長が追い掛けて来ないことが分かるまで、走った。
気持ち悪くなって道端にうずくまった私は、「さいあくだ、さいあくだ。」とつぶやき続けた。
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翌日、私が出社すると、どことなく部屋の雰囲気がおかしかった。
なに?
私は、問い掛けるような視線を隣の席の子に向けるが、さりげなく目をそらされる。
なんなの?
それからというもの、部屋の女性が私をあからさまに避けるようになった。
部長だ。
私は、数日して、ようやく気付いた。何か変な噂を流されている。
私は、くやしくて、女子トイレでちょっと泣いた。それから、泣いたら負けだ、と思って、平気な顔をして席に戻った。黙って頑張ってれば、きっと誤解は解ける。そう思って仕事も丁寧にした。
そんな態度が、更に彼の怒りを買ったのだろう。
ある日、部長がみんなの前で私を呼び付けて、やっていないミスのことで怒鳴りだした。冷静に、冷静に。そう言い聞かせるも、頭が怒りのあまりズキズキと痛んで、大声で喚きそうになる。
「部長、お言葉ですが・・・。」
ついに、何かが切れて口を開いた瞬間。
私の前に飛び出して、部長の前に立ちふさがったのはヤスダだった。
「部長がおっしゃっているのは、彼女のミスじゃありません。」 「なんだ。きみは。」 「最近、部長のされていることは、滅茶苦茶です。女の子にセクハラ行為をした上に、変な噂話まで流して。そんなことではこの部屋全体が、そのうち部長の指示に付いて行けなくなります。」 「な・・・。何を言ってるのかね。」
私は、そこまで聞いて、そこにもういられなくなって、部屋を飛び出すとビルの屋上に行った。
頭は、まだ、ズキズキとして。私は、煙草を取り出すと、火をつけて大きく吸う。落ち着こう。それから、泣いた。くやしくて、泣いた。情けなくて、泣いた。声出して、泣いた。
声出して泣いたら、少しすっきりした。
「ここにいたんだ。」 ヤスダの声が、後ろでした。
私は、慌てて涙を拭った。
「見つかったか。」 「分かるよ。お前の行く場所くらい。」 「なんであんなこと言ったのよ。部長に。あんた、違うとこに飛ばされるよ。」 「だって、黙ってられないだろう。」 「なんでよ。あたしのことなんか放っておいてくれたら良かったのに。あたしの失敗であんたがどっか行かされたら、あたし、友達としてあんたに借りができちゃうよ。」 「馬鹿だなあ。お前って。」 「何がよ。」 「俺はさ、男の子だから。間違ってると思ったら、ちゃんと言うのが男の子なんだ。女の子一人守れなくてさ、世界が変えられるわけないじゃん。」
ヤスダが、あんまりまじめくさった顔をして言うから。
私は、おかしくておかしくて、笑った。大笑いした。
「やっと笑ったなあ。」 ヤスダも一緒に笑った。
会社の顔色をうかがうのでもなく、目の前の女の子の機嫌取りをするわけでもなく、世界に向かってちゃんと間違ったことは間違ってると言える男の子と一緒に、私は大笑いした。それはすごく気持ちのいいことだった。
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