セクサロイドは眠らない

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2002年04月24日(水) 最初はぎこちなかった彼女の体も、もう、最近では僕の指をすっかり信頼して、全てを解放してくるのだ。

その美しい人は、落ち着いた仕事ぶり、冷静な判断。そこいらの男性にも負けないほどの安定した成果をあげていた。今度は課長昇進だという噂も流れ始めた。

僕は、その人に決めた。

美しく、頭脳明晰であるが故に、周囲の期待を裏切るまいと一生懸命走り続けて来たようなその人に、束の間の休息を与えてあげたくなったのだ。

僕は、わざと遅くまで残業して、その人と二人きりになれる時を待つ。

その日は、思いがけず早くに来た。

「あら。まだいたの。」
彼女が最後のファックスを流し終えて帰り支度を始めた時に、僕は
「おつかれさま。」
と声を掛ける。

「主任のカップ洗っておきますよ。」
僕は、押し付けがましくないように気を配った笑みを向ける。

「あら、いいのよ。」
「いいんです。ついでですから。」

そうして、彼女がジャケットを着て身支度を終えるのにさりげなく合わせて、僕も片付けを終える。

「きみ、誰だっけ。名前。ごめんね、忘れちゃった。」
わざとぞんざいな口を利くのも、彼女のような女性が社会の荒波を渡っていくのに必要な処世術なのだろう。

「昨年配属された、・・・です。」
「そう。覚えておくわ。おつかれ。」
「あの、少し飲みに行きませんか?」

彼女は、チラと腕時計を見て、
「少しだけ、ね。」
と、ようやく微笑みを見せた。

--

それからは、早かった。仕事での冷静ぶりからは想像できないほどに、彼女の内面はもろく、不安定で、少し意地の悪い言葉を投げ掛けてやればすぐに泣き出すのだ。

「驚いたな。きみがこんなに泣き虫だったなんて。」
「あなたのせいよ。」
職場では聞けないような、鼻に掛かった声が僕を驚かせる。

「誰も、きみがこんなに女らしい柔らかい体をしてるなんて、知らないのだろうな。」
「誰にも内緒よ。」
「そうだ。僕達だけの秘密だ。営業の大塚が言ってたよ。彼女、処女なんじゃないかってね。」
「いやだわ。そんな話してるの?でも、処女みたいなものだったもの。あなたと会うまでは。」
「僕が知ってるきみはこんなにすごいのにね。」
僕が彼女の唇を吸うと、もう、彼女は喘ぎ声を漏らす。

最初はぎこちなかった彼女の体も、もう、最近では僕の指をすっかり信頼して、全てを解放してくるのだ。

おいおい。なんて欲張りなんだ。僕は心の中で苦笑する。

--

二人になるとまるで幼子のように揺れ易い心を見せてくるのに、職場では相変わらず冷静な仕事ぶりが少々憎らしい。

そろそろ、だな。

「主任、最近、なんかお綺麗ですね。」
そんな女子社員のお世辞に、一瞬顔を赤らめた彼女を見て、僕は思う。

その日から、僕は、「忙しい」のを理由に、彼女からの電話に出る回数を減らした。

「やっと繋がった。」
彼女の安堵の声に、僕はわざと素っ気無く答える。
「おやじの入院が長引いてるって言っただろう。病院にいる時は電話にもなかなか出られないんだよ。勘弁してくれ。」
「ごめんなさい。」
彼女の声が潤み始める。

「じゃあ、もう、切るよ。」
「待って・・・。」
僕はかまわず切る。

事は簡単だった。

彼女は仕事を休みがちになり、仕事のスケジュールは遅れ始めた。周囲から不満の声が上がるのだが、彼女自身、うろたえるばかりでどうにもならない。

僕は、新卒の女の子に、わざと親しげに身を寄せて、仕事を教えてやる。彼女の視線を無視して。

彼女が仕事を辞めたのは、それから間もないうちだった。聞けば、病院に通院しているという。

--

僕は、長く掛かって築かれた美しい城が一瞬にして崩壊するのを見るのが大好きなのだ。

最近じゃ粗悪な作りの代物ばかりだから、もっと時間を掛けても良かったかなと少々残念にも思いながら、僕は、春の街で口笛を吹く。


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