セクサロイドは眠らない
MAIL
My追加
All Rights Reserved
※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →
[エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう
俺はさ、男の子だから
愛人業
DiaryINDEX|past|will
2002年04月22日(月) |
相手の軽い嫉妬が心地良いうちは大丈夫。そのうち、重荷になったら別れ時。そうやって幾つも恋を渡り歩いて来た。 |
「ねえ。今度の土曜日、暇?」 「あ。だめ。ごめん。」 「えー?もしかして、もう、新しい男?」 「そういうわけじゃないんだけどね。」 「この前、別れちゃって暇ができたから誘ってって言ってたのに、もう、次ができたんだあ。そりゃ、友達なくすよ。」 「だから、そうじゃないって。」
なんて会話を交わしつつ、私の顔がニヤついているから、同僚はあきれている。
「今度奢んなさいよ。」 と、同僚は私を軽くにらんで、言う。
「だから、違うって。」 「はいはい。分かったけどさあ。この会社入って、一体何人目よ。」 「だから、違うの。まだ、決まったわけじゃないの。なんとなくいいなあ、って、ちょっとお茶飲んだぐらいよ。」 「ほら、吐いた。で、相手は?」
サクラバコウ。二十七歳。趣味、恋愛。
--
「今日、仕事中何回も電話くれたのね。」 私は、ベッドで携帯電話のディスプレイを見ながら話し掛ける。
「うん。ごめん。」 彼は、私の背中に手を回しながら答える。取引先の営業の男。
「仕事中は出られないのに。」 「分かってるけどね。きみ、モテるから、心配で。」 「何言ってるのよ。」
私は、笑って、軽く彼の指に噛み付く。
「ほんとうだぜ。きみのこと、いいってヤツ、たくさんいるからさ。もう、彼氏とかいんだろうなって、絶対思ってた。」 「そんなにモテないよ。」 「ほんとう?」 「ええ。ほんとうよ。」 「じゃ、キスしてよ。」 「もう、これじゃ、あたしが男であなたが女みたい。」
相手の軽い嫉妬が心地良いうちは大丈夫。そのうち、重荷になったら別れ時。そうやって幾つも恋を渡り歩いて来た。
--
「あら。もしかして、サクラバさん?」 突然話し掛けて来たその人を見て、私はハッとする。
「カヨ?」 「うん。久しぶりね。すごく綺麗になってたから、声掛ける時迷っちゃった。時間、ある?お茶でも飲まない?」 「いいよ。」
私達は、近い場所にあるカフェに入ると腰を落ち着けて、お互い、ゆっくりと相手の顔を観察する。
「カヨ、全然変わってないね。」 「やだ、ひどいなあ。子供っぽいかなあ。あたし。」 「そんなことないよ。」 「コウのこと、ね。友達からいろいろ噂聞いてるよ。」 「え?どんな?悪い噂?」 「ううん。すごくモテてるって。」 「そんなことないって。」 「今日、会って思った。本当に綺麗になったもん。モテるの、当然よ。」
私は、そんな彼女の恋人だった男から、一度フラれている。
--
大学の時だった。
カヨと同じクラスだった私は、カヨと、カヨの高校の時からの恋人という男性と三人でよく遊びに行っていた。カヨの恋人は、人目を引くくらいの美貌を持ち合わせているくせに、自分の外見には無頓着な誠実な男だった。どうしてカヨみたいな地味な女の子と付き合っているのか、分からなかった。
私は、次第に、彼に惹かれ、とうとう気持ちが抑えられなくなったある夜、彼を呼び出した。
その一言を言うために、私は、随分とお酒を飲んで、彼が 「もう、やめたら?」 と、心配そうに言った瞬間、泣き出してしまったのだ。
「どうしたの?」 うろたえる彼に言った。
「好きなの。カヨと別れてよ。」
それから、私の部屋まで私を送って来た彼と、私は抱き合った。私は、彼に抱かれながら、彼の心を手に入れることができたと確信した喜びに酔っていた。
だが、すべてが終わって服を着る時、彼は私の目を見ないで言った。 「彼女とは、別れないよ。」
その後も、何事もなかったように、私達は三人で遊んだ。あの日のことは、彼と私の中に永遠に封印された秘密となった。
--
「で?カヨは付き合ってる人とかいるの?」 「うん。私ね。今度、結婚するの。」 「そう。おめでとう。」 「でね。あなた、笑わない?」 「何を?」 「私が結婚する相手ね、・・・なの。」 「やだ、あなた達、まだ付き合ってたの?」 「うん。もう、付き合って十年以上だもん。いい加減に結婚しようか、ってね。途中、何度か喧嘩して別れたんだけど、結局、お互いしかいないことが分かったの。」
私は、その時、胸が激しく痛んだ。忘れていたと思っていた名前が、そんなにも胸を刺すことに、自分でも驚く。
「大丈夫?」 カヨに言われて、私はようやく顔を上げる。随分と、沈黙していたらしい。
私って、馬鹿だ。私は幾つも幾つも恋愛したつもりになっていたけど、私は、本当は、たった一つの恋愛しかして来なかったんじゃないだろうか?
「彼、元気?」 「ええ。」
私は、そんなことしか言えなかった。
「先に、行くね。」 カヨは、立ち上がると、動けない私を後にして店を出て行った。
それからようやく気付く。カヨは、私と彼が抱き合った日のことを知っていたのではないかと。今日会ったのは、偶然なんかではなく、私に復讐しに来たのではないかと。
それなら、彼女の復讐は充分な成功を遂げた。
私は、いつの間にか濡れていた頬に手をやる。
|