セクサロイドは眠らない

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2002年04月08日(月) そうして、ウサギになったライオンは、ウサギ的な人生を手に入れ、ウサギの仲間達と楽しく語り、走り回った。

ライオンは、ここ最近、ふさぎの虫に取りつかれて、何をする気も起こらなかった。

妻は大らかな性格で、そんなライオンを見ても、「また、そのうち元気になるわよ。」と、気にも留めない風だ。

ライオンは、自分がなんで塞ぎ込んでいるのか、自分でもよく分からなかった。ただ、野原で遊ぶウサギ達がうらやましくてしょうがなかった。自分は、もしかしたら、間違って生まれて来たのかもしれない。僕は、本当は、ウサギとして生まれるべきだったのかもしれない。そんな想いが、頭を占めるようになり、ライオンはますます憂鬱だった。そんな悩み、妻にも言えるわけがない。

そんなある日。

森に、「ウサギ亭」という、料理屋ができた。ウサギ達は、いつもそこに集い、ワイワイと語り合ったり、ウサギ亭の主催で、さまざまな催しが開催されたりしているのだった。ライオンはそれがまた、うらやましくてしょうがない。

とうとう、ウサギ亭まで出向いて行って、ウサギ亭の主人に頼み込んだ。
「僕をここで雇ってくれないかな。」

ウサギ亭の主人は、ライオンをジロジロと見て、鼻を鳴らすと、
「まさか!」
と、叫んだ。

「駄目・・・、かい?」
「ああ。駄目に決まってるだろう。所詮、お前はライオンだ。我々はウサギだ。どうやったって、相容れないに決まってるだろう。」
「そうか。やっぱりな。」

深い溜め息をついて、その場にしゃがみ込むライオンを見て、ウサギ亭の主人は言った。
「だが、方法はあるよ?」
「方法?どんな?何でもするよ。」
「実は、この森の奥に、キツネがやってる病院があってね。そこでは非合法の手術もやってくれるってさ。ウサギになりたいライオンと、ライオンになりたいウサギの肉体交換、そこに行けばやってもらえるんじゃないかなあ。」
「分かった。そこに行ってみるよ。」
「その病院のことは、内緒だぜ。それから、本当にウサギになることができたら、ここで雇ってやるから、是非、来たまえよ。」

ウサギ屋の主人は、ニヤリとして、大喜びで走り去るライオンを眺めていた。

--

さて、その病院は、森の奥深く薄暗いところにあった。

ライオンが事情を話すと、キツネの医者は、フンフンとうなずき、
「今、ライオンになりたがってるウサギの依頼が来てるんだ。ちょうどいいや。健康状態もばっちりみたいだしな。」
と、言った。

「本当にうまく行くんだろうな?」
「ああ。俺の腕を信じろよ。」
キツネは、笑った。

「だが、問題は、お前さんのほうだよ。本当に、ライオンの姿を捨てることができるのか?」
「ああ。僕は、間違って生まれて来たんだ。」
「一時の気の迷いで簡単に決めることじゃないんだぞ。」
「分かってる。」

ライオンは、キツネが差し出す契約書にサインした。

「じゃあ、そこの台に横になってくれたまえ。」

キツネが腕に針を差し込む。ライオンは眠りに落ちる。夢のない、暗いトンネルをくぐる。

「終わったよ。」
キツネの声がして、目覚めた。

驚いた。本当にウサギになっていた。白くてフワフワの毛をした。耳が頭上で揺れるのを感じる。

「鏡、見る?」
キツネが手鏡を差し出した。そこには、真っ白な毛のハンサムなウサギがいた。

ウサギになったライオンは大喜びで、その足でウサギ亭まで行った。

「おや。随分と早くに決断したんだね。」
「僕を、ここで雇ってくれるかい?」
「ああ。いいとも。お前はもう、立派なウサギだからな。」

そうして、ウサギになったライオンは、ウサギ的な人生を手に入れ、ウサギの仲間達と楽しく語り、走り回った。

「まったく、お前、ウサギになって正解だぜ。」
と、ウサギ仲間も言ってくれたので、彼は、ウサギになった生活におおいに満足した。

--

ある日のこと。

ウサギ達は、ひそひそと何やら相談し合っている。

「何の相談だい?」
彼は訊ねた。

「ああ・・・。実は。うーん。言ってもいいのかな。」
「何だよ。」
「きみにはすごく言いにくい事なんだけどさあ。ウサギ亭では、月に一回、ライオンの肉を食べるという儀式があるんだ。」
「ライオン?なんで?」
「何ていうかな。我々小動物の恨みを晴らすっていうのかな。」
「そんな。」
「いや、きみの気持ちも分かるが、これは、我々ウサギで決めたことなんだよ。なんなら、きみは、その日、休むといい。」

ウサギになったライオンは、ウサギになって初めての憂鬱を感じることとなった。

その儀式の準備は着々と進められ、とうとう、その夜が来た。彼は思った。その儀式を克服することでこそ、ようやく本当のウサギになれるんじゃないだろうか?自分がどことなく、周囲と馴染みきってない感覚を拭い去ることができるんじゃないだろうか?

彼は、勇気を振り絞って、その儀式に参加した。

式は厳粛な雰囲気で行われた。参加者のウサギの数だけ、静かに、ライオンの肉が盛られた皿が回された。そうして、中央の祭壇に捧げられたライオンの首を見て、彼は息を飲む。

「あれは、僕だ!」

それから、ムカムカと怒りが込み上げる。僕がライオンだった頃、決して、食べること以外の殺戮は行わなかったのに。

彼は、立ち上がって叫ぶ。
「やめろ!」

その声は、ライオンの鳴き声だった。

ライオンだ、ライオンが来たぞ、逃げろ、逃げろ。

あちこちでささやく声が聞こえ、ウサギ達は散り散りになった。

彼は、かつて自分のものだった、ライオンの顔に駆け寄る。

それから、その顔に口をつけて、貪り食らう。

辺りは、静けさに包まれて。

ふと、顔を上げて、気付く。彼はライオンの姿に戻っていた。ウサギ亭は、消えていた。野原に、一人ポツンと立っていた。

帰ろう。

随分と家を空けていたが、妻や子は大丈夫だろうか?

ライオンは、妻のいる家に戻った。

「おかえり。待ってたのよ。」
「ああ。すまなかった。」

妻は、しげしげとライオンの顔を見て、微笑む。
「随分と元気そうじゃない?良かったわ。すぐ食事にするから座ってて。」
「今日の夕飯はなんだい?」
「ウサギの肉よ。」
「うまそうだな。」
「ええ。」

ドサリと投げ出されたウサギ肉は、ウサギ亭の主人の顔にそっくりだった。ライオンは、ただ、空腹だったので、目の前のウサギ肉に食らいついた。


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