セクサロイドは眠らない

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2002年04月06日(土) 「そうじゃなくて、セクシーになれないかしら?」「セクシー?まだ、ブラジャーも一番小さいサイズのあなたが?」

ママと私がその街に越して来たのは、そこにママの古い友達がたくさんいるから。

朝から、荷物を解いてドレスをハンガーに掛ける。

「明日は友達を呼んでお祝いよ。」
ママは、微笑む。

私は、明日はどんなドレスを着ようかしら、と考える。

ひととおり荷解きが終わったところで、ママは買い物に行くと言って出て行ってしまったので、私は冷たいレモネードを作って気晴らしに庭に出る。ポーチで、風を受けてくつろいでいると、声がする。

「ハロー。」
「ハロー。今日、隣に越して来たアンよ。」
「よろしく。私は、メアリよ。友達ができて嬉しいわ。」

そばかすがいっぱいの笑うと愛らしい顔の少女が、今日から私の友達というわけ。

「そっち行っていい?」
メアリが訊ねて、塀を乗り越えて来た。

「背、高いのね。」
メアリが感心したように言う。

「のっぼだから、モテないわ。」
と、私は笑う。

「ううん。すごく素敵。まるでモデルさんみたいね。手も足も長くて、肌がすべすべしてて。いい匂いがする。」
「ちょっと待ってて。」

私は、部屋から、今付けている香りの小壜を持ってくる。
「あげるわ。」
「もらえないわ。こんなの。」
「お近づきのしるしよ。」
「ありがとう。」
「明日、パーティするの。来ない?」
「え?いいの?」
「うん。でも、相当イカれた連中が来るから、あなたびっくりするかも。」
「ぜひお邪魔させてもらうわ。」

こうやって、私とメアリはすっかり仲良くなった。

ママは、ご機嫌な私を見て、キスをする。

「今日、友達ができたの。」
「あら。素敵。ママにも会わせてくれるんでしょう?」
「ええ。明日のパーティに招いたの。」
「楽しみね。」

私達は、早速明日の用意に掛かる。

--

ママの古い友達というのは、ママが言ったとおり、相当にイカれた連中だった。体中にピアスをしていたり、髪をピンク色に染めたりした男女だった。

「あなた、ヘブンの娘?まあ、随分大きくなったこと。あんたを最後に見た時には、まだほんの赤ちゃんだったのに。」
悲しそうな顔をしたゲイが、私にキスする。

「でも、あんたのママに似て美人になるわ。」
「よしてよ。私なんかよりずっと美人よ。この子。」
ママは、笑って、飲み物を渡す。

メアリは、あんまり驚いて、作って来たパイを置くと帰ろうとした。

「もう帰っちゃうの?」
「ええ。だって、なんだか・・・。怖いわよ。この人達。」
「大丈夫よ。」
「アンは平気なの?」
「うん。でも、あなたがどうしても怖いっていうなら、私の部屋にいらっしゃいよ。」
「そうするわ。」

それから、私はそっと二階に上がる。

「すごい・・・。」
メアリは目を丸くする。

私の部屋は、私の自慢だった。

ママはセンスが悪いけど、私は、自分のセンスに自信を持っている。

メアリは、私のコレクションを眺めて、うっとりしたような叫び声を時折あげる。

メアリは、漆黒に光る小石を手に取って聞いて来た。
「ねえ。これは?」
「それ?それは、悪魔の爪よ。亡くなったパパは船乗りで、若い頃世界各地を回って持って帰ったものを、全部ママにプレゼントしたの。それを、私がもらったってわけ。」

あまり遅くならないうちにメアリを送って行って、階下の嬌声が響いてくるのを聞きながら布団でうとうとしているうちに、私は夢を見た。私が、悪魔の爪をつけて、メアリを抱き締めている夢。私は、ひどくうっとりと、その邪悪な爪で彼女の頬を撫でるのだった。

素敵な夢・・・。

この街が好きになれそう。

--

私は、学校には行かなかった。

時折、メアリが遊びに来る以外は、大人とばかり付き合っていた。

ママは、夜になると仕事に出て行く。

メアリは
「寂しくないの?」
と不思議そうに聞くけれど、私は今の生活に満足していた。

どちらかといえば、メアリの学校生活の話はひどく幼稚に思えた。私は、ママの友人のゲイと映画を観に行ったりするほうが楽しかったのだ。

そんなある日、メアリが言いにくそうに私に頼みごとをしてきた。

「なあに?」
「あのね。今夜、デートがあるの。初めてなの。」
「で?」
「その。どんな格好して行ったらいいか、アドバイスして欲しくて。」
「ふうん。どんな男の子?」
「普通の子よ。私とお似合いの地味な子よ。」

私は、なぜかその時、急にいじわるな気分になってしまった。

「そうねえ。あなたみたいにソバカスだらけの女の子には、キュートな格好がいいわよね。」
「そうじゃなくて、セクシーになれないかしら?」
「セクシー?まだ、ブラジャーも一番小さいサイズのあなたが?」

メアリは、かっと頬を赤らめると、
「もう、いいわ。」
と小さくつぶやいて、部屋を出て行ってしまった。

ああ。なんてことかしら。

ママが、出掛ける支度を始めた後ろで、私はクッションに顔をうずめて。

「どうしたの?」
ママは、優しく微笑む。

「最低なの。友達に急に意地悪が言いたくなっちゃって。」
「あら。そう?」
「うん。どうしてかな。」
「そういうこともあるわよ。あなたにはそういう付き合いが必要なの。ママの友達は、みんな、ひどく傷ついたせいで、どうしようもなく優しい人ばっかりで。あなたのことだって壊れ物のように扱ってくれるけれど。それじゃ、あなたが大人になれないわ。」

ママは、優しくキスをして、出て行く。

--

それから、一人、部屋の中で、月を見ていた。私も、月みたいに一人ぽっちだった。

外で気配がして、メアリが、デートから帰って来たところだった。

「じゃあね。」
と、キスも恥ずかしげに別れた二人を息をつめて見ていた後、私は、いきなりメアリの前に姿を現した。

「きゃっ。」
「しーっ。私よ。」
「なんだ、アン。どうしたの?」
「今日、ごめんね。」
「いいのよ。でも、なんだか今日のあなた、変だったわ。」
「どうかしてたの。私。」

それから、ふわっと漂う香り。この香り、私があげたやつ。

私は、香りに誘われたように、彼女を抱き締めて、それから、その柔らかい唇に、口づける。

「やめてっ。」
メアリは、叫んで、走り去る。

--

明け方、くすんだ顔のママが帰って来たところを捕まえて、私はママに抱き付いて泣き出す。

「どうしちゃったの?」
「もう、駄目なの。」

落ち着いて。

ママは、ずっと抱き締めていてくれる。

ああ。ママ。私、ずっと、今のままが幸せだと思ってたけど・・・。そろそろ。

ママは、私の涙をハンカチで拭いてくれる。

「そろそろ、ね。」
私はうなずく。

「ママも、そろそろ、本当に自分が望むように生きてみようと思うの。お金も溜まったし。本当の女性になる手術、思い切って受けようと思うの。」

そう。ママは、ずっと本物の女性になりたがっていた。そこいらの女性より、ずっと優雅で素敵なのに。

「だから、あなたも、あなたの道を選んだらいいわ。」

--

ママは、翌週、大きな旅行かばんを下げて旅立った。

私は、ママを見送って。

それから、ハサミで長い巻き毛を切り落とす。そうすると、別の顔。新しい私。

メアリとは、もう随分会ってない。

どきどきする気持ちで学校の教室に入る。

「新しい転入生だ。」
先生が紹介してくれる。

メアリの横を指差してお願いする。
「友達なんです。慣れるまで彼女の横に座らせてもらえませんか?」

先生はうなずく。

メアリは、目を丸くして。

「よろしく。」
僕は、彼女に笑顔を向ける。

「今度、デートしよう。」
授業中、僕は、彼女に手紙を渡す。

彼女は、顔を赤らめて、うなずく。


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