セクサロイドは眠らない
MAIL
My追加
All Rights Reserved
※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →
[エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう
俺はさ、男の子だから
愛人業
DiaryINDEX|past|will
2002年03月21日(木) |
私はその時、姉の身代わりとして彼に抱かれることを決めた。姉は、死んでなお、そのような存在だった。 |
それは、美しいカップルだった。
モデルのように美しい姉と、メイクアップアーティストの義兄。
彼らの恵まれた美貌と才能は、双子の天使のように彼ら自身を優しくしていた。
--
「ねえ。お兄さん。メイクしてよ。」 私は、姉夫婦が遊びに来ると、そう言う。
「いいよ。」 義兄は笑って、応じてくれる。
「じゃあ、お昼の材料、何か仕入れてくるわね。」 と、姉は私達を置いて買い物に行ってしまう。
「お姉さんほど美人じゃないけど、我慢してよね。」 「そんなことない。僕にとっては素敵な素材だ。メイクしたくなる顔だ。」 「それだけ手を加える余地があるってことよね。」 「可能性を秘めてるってことだよ。」 私達は笑い合う。
「きみのお姉さんは、最高だ。」 「知ってるわ。」 「僕は、彼女の顔にインスパイアされて、メイクをする。彼女の顔を見るたびに、何かに心打たれたように、いろんなものが溢れてくるんだ。だけど、どんな色を重ねても、僕は何か違うと感じてしまう。そうして、結局いじくった挙句に気づくんだ。素顔の彼女を超える化粧はできないって、ね。」 「ふうん・・・。妬けるわね。」 「さ。できたよ。」
鏡の中には、私が知らなかった自分がいる。 「すごいのね。私よりずっと私のこと、分かってるみたい。」
戻って来た姉が私の顔を見て微笑む。 「アキちゃん、すごく優しい顔。素敵よ。」
--
私と、姉夫婦のそんな幸福な日々は終わってしまった。
姉が信号無視の車に跳ねられてしまったから。
なんということだろう。なぜ、あんなに美しい人が、私より先に逝ってしまうのだろう。私は、どうしても、姉が死んでしまったことが受け入れられない。それは義兄も同じだった。目を見れば分かる。義兄の目は、いつも、姉の姿を探すようにさまよっていた。
--
ある夜。
義兄が、私の部屋に突然訪れた。
「どうしたの?」 「ごめんよ。こんな夜に。」 「いいけど。大丈夫?酔ってるのね。運転なんかしちゃ駄目じゃない。」 「頼みがある。」 「なに?私にできること?」 「彼女になってくれないか?」 「彼女って、お姉さんに?」 「ああ。」
義兄は、姉の着ていた服を取り出す。姉と私は、容姿は随分と違っていたけれど、体型はほぼ同じだった。
私は、うなずいた。
私は、義兄を男性として愛していたが、私はその時、姉の身代わりとして彼に抱かれることを決めた。姉は、死んでなお、そのような存在だった。私は姉の影として生きて来たのだから。
「化粧を。」 兄が、道具を並べる。
私は目を閉じる。
繊細な指が、私の顔をなぞり、長い時間が過ぎる。
「できた。」 目を開けると、そこには姉がいた。
「着替えて。」
私は、姉の服を着て、姉の好きだった香りをつける。
「おいで。やっと戻って来てくれたね。ハルカ。」
その時、私の体は、本当に姉のものだった。目の前の男の愛撫を、覚えている。男の指は私のあらゆる場所を知っていた。私も、男の体の特徴をほくろの位置までよく知っていて、唇でなぞる。
全てが終わって、化粧を落とすと、私は元の私の体を取り戻す。
「ありがとう。」 「ううん。私もお姉さんに会えたから。」
その日から、私と義兄の、歪んだ遊びが繰り返される。
私は、姉になって彼に抱かれる。
--
半年が過ぎた、夏の午後。
雷が鳴り響く不穏な天候の中、彼が、最初の日と同じように突然訪ねてくる。
「約束、今日だったかしら?」 「いや。違う。でも。いいかな。どうしても・・・。きみに会いたくて。」 「いいわよ。」
私は、いつものように椅子に掛け、化粧を待って目を閉じる。
「いや。今日は違うんだ。」 彼は、素顔の私に、いきなり口づける。
待って。
まだ、準備が。
私は、まだ、私のままで。目の前の男の愛撫に慣れていない。彼もぎこちなく、私の体を探す。
「ねえ。どうして?」 「分からない。」
だが、私も彼に応えて、気持ちが止められない。
外は、激しく雷が鳴っている。姉が、怒っているわ。私は、彼の勢いを体で受け止めながら、思った。
息遣い。触れる音。
雷は、夜更け過ぎに雨に変わった。私は、彼の腕でまどろみながら、姉が泣いている、と思った。
私は、一緒になって泣きながら、彼の腕の中で眠った。
--
雨は上がり、朝日がまぶしかった。
「いい天気だ。」 ブラインドを上げると、彼は、振り向いた。
私は、素顔を見られるのが恥ずかしくて、目を伏せた。
「きみをずっと愛していた。化粧でも隠し切れないきみの素顔をずっと。」 「私も。あなたを。ずっと・・・。」
許してくれたのね。
心の中で姉に話し掛ける。
あなたがいなければ私も彼と出会えなかったのよ。
窓の外で、木の葉の水滴が微笑み返すようにキラリと光った。
|