セクサロイドは眠らない

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2002年03月20日(水) その目で見つめられると、みな、そこに映る醜い我が姿を恥じて逃げ出してしまうのだ。

彼は、森で唯一のユニコーンだった。

ユニコーンには友達がいない。森の動物達は彼を怖れて近寄らないのだ。真っ白な体に、黄金のタテガミ。水色の目は、あまりにも澄んでいて、その目で見つめられると、みな、そこに映る醜い我が姿を恥じて逃げ出してしまうのだ。

だから、ユニコーンはいつも一人だった。ユニコーンは、なぜ、みんなが自分を怖れるのか、分からないまま寂しい思いをしていた。

ある日、水を飲もうと川縁まで降りてゆくと、そこに美しい馬が水を飲んでいた。ユニコーンの気配に顔を上げるが、また、水を飲み始める。

ユニコーンは、おそるおそる声を掛けた。
「こんにちは。」

馬は顔を上げて、ユニコーンのほうを向いた。
「こんにちは。」
「きみ、僕が怖い?」
「どうして?」
「だって。みんな僕を怖がるよ。」
「怖くないわ。だってあなた、優しそうな声。」
「みんな僕を嫌うんだ。見た目がまずいらしい。」
「私ね。目が見えないの。」
「そう・・・。分からなかった。」
「だから、滅多に一人で出歩かないのよ。」
「友達になってくれる?」
「いいわよ。」
「僕を怖がらなかったの、きみが始めてだ。明日、また、ここに来たら会ってくれる?」
「ええ。」
「じゃ、また、明日。」

--

現われた美しい馬は、少し足を引きずっている。

「どうしたの?」
「ああ。私ね。目が見えないから、しょっちゅうあちこちにぶつかっちゃうのよ。みっともないでしょう?きっと、そのうちどこかで怪我をして動けなくなって死んじゃうんでしょうね。」
「そんなこと言わないでよ。」
「心配してくれるの?」
「うん。初めてできた友達だもの。だから。僕がきみの足になるから。死んじゃうなんて言わないで。」
「ありがとう。」

それから、ユニコーンは、体を寄せるようにして散歩する。

「こんなに遠くまで来たの、初めてよ。怖いくらい。大丈夫かしら。」
「大丈夫だよ。僕と一緒にいれば。ライオンすら、僕を見たら怖がるんだ。」
「そうなの?きっと、あなたとても恐ろしい姿をしているのね。」
「ああ。そうだよ。醜い角。邪悪な瞳。きみだって、僕を見れば身がすくむ。」
「ねえ。私の秘密、知りたい?」
「何?」
「あのね。私もなの。私も、お友達ができたの、初めてなの。」
「そう・・・。」
「だから、すごく嬉しい。」
「僕もだよ。」

それから、森では、ユニコーンと、美しい茶色の馬がいつも寄り添って歩いているのを、みなが見掛けるようになった。

--

「ねえ。」
盲目の馬は、ユニコーンの傍らに寄り添って、言う。

「なに?」
「思いきり、走り回りたいでしょう?」
「どうして、急に?」
「だって。私とじゃ、あなた思いきり走り回ることができないわ。」
「僕は、今のままで充分だ。」
「嫌なのよ。そういうの。あなた、時折走りたそうに、ひずめを鳴らしてるわ。分かるの。明日、走ってらっしゃいよ。私、あなたがすぐ戻って来られる場所で待ってるわ。」
「いいの?」
「うん。」
「じゃ、そうさせてもらうよ。」

それから、ユニコーンは、愛するパートナーに鼻をこすりつけて、彼女も嬉しそうに吐息を漏らして。二頭の声が混じる。

--

次の日、ユニコーンと、馬は、草原まで来た。

「ここで待ってるわ。」
「うん。じゃ。」

ユニコーンは、そうして風に乗る。もともと、羽のように軽やかに走ることができた。ああ。この感じ。なんて素晴らしい。ユニコーンはつい、遠くまで走り過ぎた。

それから、ふと気付くと、随分長い時間が経っていた。

ユニコーンは、慌ててもと来たところを戻り始めた。耳を澄ませる。彼女が僕を呼んでないだろうか?待ってておくれ。

馬は青ざめた顔で横たわっていた。

「どうしたの?」
「蛇・・・。」
「噛まれたの?」
「うん。」
「ああ。どうしよう。待っていて。」

ユニコーンは、近くの木に角を打ちつける。

「あなた、何しているの?」
「黙って。静かに。」

ユニコーンは、苦痛の呻き声を漏らして、その角のカケラを、愛する馬に口移しで飲ませる。

「僕の角は解毒作用があるんだ。」
「あなた、大丈夫?」
「大丈夫だよ。」

馬は、その角のカケラが効いてきたのだろうか。少しウトウトし始める。

「ねえ・・・。」
馬は、なぜか不安に駆られて、話し掛ける。

「ん?」
「あなたに会えて、良かった。」
「僕もだよ。」
「あなたの姿、見てみたいわ。」
「見ても嫌いにならない?」
「当たり前じゃない。」
「もう、黙って。」

馬は、そのまま、眠りに落ちる。

気が付くと、あたりは、少しずつ夕闇に包まれて。

ユニコーンは、どこ?

飛び起きる。

目が。

目が見えているわ。

それから、噛まれた足も治っている。

馬があたりを見まわすと、そこには目も醒めるほどの美しい白い馬が、もう、息を引き取ろうとしている。

「どうなさったの?」
「ユニコーンは、角がないと死んじゃうんだ。」
「待って。私、目が見えるようになったの。」
「僕の顔、見て。」
「ええ。見ているわ。」
「嫌い?」
「とんでもない、美しいわ。」

それから、馬は悲しみのあまり大声で森に向かっていななく。

森の動物達がやって来る。

動物達も、驚いて、周りを囲む。そうして、嘆く。

「ああ。死なないでおくれ。」
「私達、弱虫だった。本当は、あなたが好きだったのよ。」
口々に言う。

馬は、怒って彼らに言う。
「嘘吐き!嘘吐き!」

それから、泣きながらユニコーンに体をこすりつける。

ユニコーンは微笑んでいる。
「愛するきみ、泣かないで。僕の姿を見て。目をそらさないで。」

ユニコーンは、自分を見ていて欲しかった。それだけだった。


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