セクサロイドは眠らない
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2002年03月14日(木) |
彼は、私の服を脱がすと、少し乱暴に髪の毛をひっぱって、私の体を荒々しく扱うのだ。私が悲鳴をあげるくらい。 |
彼ほど頭のイカれた男は、他にいないと思っていた。そんな男の相手ができるのは私しかいないとも思っていた。もちろん、恋愛中って、みんなそんな風に思うものかもしれない。
彼は、いつも車で私を迎えに来てくれて、私が彼の車の助手席に乗り込むと、彼はすぐさまズボンのジッパーをおろして、 「咥えろ。」 と言うから、私は、彼の言いなりに、頭を沈める。
彼は、片手で運転しながら私の頭を撫で、いろいろとささやいて褒めてくれる。
そんなわけで、私は、彼といる時は、一度も外の景色を見なかった。彼と一緒にいる記憶には、いつだって季節の記憶はなかった。
彼は、最初から私のことを好色な女のように取り扱っていたし、私はとまどいながらも、それは嫌ではなかったので必死で応えようとした。つまり、そんな男は珍しいのだ。滅多にいないのだ。女の好色さを本気で褒めることのできる男は実際のところそんなにいなくて、それは才能と言っても良かった。
三十歳を目前にしてそんな男に出会ってしまったら、もう、それは運命と思って落ちて行くしかないのだ。運命の導くまま、その暗い場所へ。
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彼は、私が派遣社員として行った会社にいた。独身で。とりわけハンサムというわけでもないし、小柄だが、その筋肉質の体はいつもエネルギーに溢れているように見えた。
彼が、すれ違いざまに私に電話番号を書いたメモを渡して来たのは、最初に会ってから間がない頃、すぐだった。
「電話して。」 と、笑った。
私は、 「え?」 と、答えて、とまどっている間に、もう、彼は行ってしまった。
最初は放っておこうかと思っていたのに、そのメモの番号に電話をしてしまったのは、彼に対する興味がおさえられなかったから。
「絶対電話くれないと思ってたよ。どうしたの?」 と、彼があんまり嬉しそうな声を出すのに、私は 「どうしてって・・・。退屈だったから。」 と、そっけなく答えるしかできなかった。
車で迎えに来てくれた彼は、ジーンズ姿だった。私の格好をしげしげと眺め、 「一応、きみがもっとお上品な格好してたら困るから、スーツも用意してたんだぜ。」 と、笑った。
それから、たくさん食べて、たくさん飲んで。
彼が、「外、歩こうか。」と行った。
私は、うなずいて。
手をつないだ。
夏の夜で、星がきれいだった。それが、最初で最後の、彼との季節の記憶だったように思う。
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彼が離婚して、よそに子供がいることを知ったのは、彼と付き合い初めて三ヶ月くらい経った頃だろうか。彼は、その頃には、私と会っている時、いつも自分の部屋で飲むようになっていた。飲み過ぎるようになっていた。私は、それをハラハラして見ていた。
「なかなか言えなくてさあ。」 と、彼は、過去のことを切り出した。
「なんだ、そんなこと?」 私は、笑った。だって、そんなこと、私は全然気にしなかった。むしろ、彼が、一人の男としての悲しみを抱えて生きていることに安堵したくらいだった。
「こんな俺でもいいか?」 私はうなずいた。
「そうか。いいか。」 彼は、嬉しそうに私を抱き締めた。
「なあ、俺達、運命によって結ばれてんだろうなあ。俺、こんなに相性のいい女って初めてだよ。」 「ねえ。一つ聞いてもいい?」 「ああ。なんだ?」 「どうして離婚したの?」 「うるさい。」
途端に、頬に痛みが走った。
え?
と思った。
「それは、俺と前の女房の問題だ。お前が口を挟むな。」
そうして、彼は、私の服を脱がすと、少し乱暴に髪の毛をひっぱって、私の体を荒々しく扱うのだ。私が悲鳴をあげるくらい。
ぐったりした私に、彼は言った。 「もう、あんなこと言うなよ。お前がお利口にしたら、俺は精一杯愛してやるから。」
それから、 「どこにも行くなよ。」 と、私を抱き締めて、泣いたのだ。
きっと、彼は、最初からどこかおかしかった。
私は、そんな彼を受け入れて生きて行くしかなかった。
こんな男に出会ってしまったら、私は、どうやって彼から逃れられようか。
彼は、少しずつ私を手荒に扱うようになっていたし、唐突に怒るようにもなっていた。だが、どこか狂ったその愛撫から、私はもう逃れられない。
そうやって、私達は、苦しんで苦しんで愛し合った。
それなのに、終わりは唐突にやってくる。
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「娘が、今度小学校に上がるんだ。」 「ああ。離婚して、奥さんが引き取ってるんでしょう?」 「それで、妻から連絡があった。片親じゃ可哀想だから、よりを戻してくれって。」 「どういうこと?」 「今までのこと、謝るからって。」 「私はどうなるの?」 「あいつ、男がいたんだよなあ。」 「そんな人のところに、戻るの?」
彼は聞いていなかった。
奥さんを失った苦しみからあんなに私を求めたくせに、今、もう、娘のいる生活を夢見ている。
「俺、酒やめるよ。」 「勝手にすれば。」
私は、彼の前で泣くことだけはすまいと、必死にこらえて外に出た。
空気は、まだ冷たかった。
春のせいだ。と思った。
季節も見ずに愛し合ったのに、春のせいで何もかもが終わった。
それから、彼の車のフロントガラスに口紅で「バカ」と書いて、携帯電話を川に投げ捨てた。
狂った季節の終わりだった。
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