セクサロイドは眠らない

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2002年01月21日(月) 僕は、彼女が歩くリズムに合わせて左右に揺れるお尻を眺めながら、もう少しアルコールが欲しいと思った。

子供の頃、僕がいつも思っていたこと。

「大人にはなりたくない。」

友達は、早く大人になりたがっていた。大人になれば素敵なことが待ってる。こんな街は出て行ける。酒だって飲める。なんて言っていた。

僕は、自分の父は母を見ていて、そんなに楽しい人生が待っているとはどうにも思えなかった。どう頑張ったって、所詮、父や母の血をひいている僕が、楽しい人生なんか送れっこないと。そうして、僕は、大人になり、やはり自分が想像していたとおりの退屈な人生しか送れていない。唯一、酒が飲める、という点に関しては、友人の意見に賛成するが。

夕飯のしたくをする妻に
「ちょっと出て来る。」
と、声を掛ける。

「どこに行くの?」
「飲んでくる。」

妻は、ふん、と鼻を鳴らした。

妻を見ていても分かる。大人というものは、まったく、トンネルの行き止まりみたいに、暗くて、憂鬱なものなのだ。

--

薄暗い酒場で、僕同様この街を出て行けなかった友達と酒を飲んで、馬鹿話をした。

僕が飼っていた犬の話になった。

「そう言えば、あの犬。結局どうなったんだっけ?」
僕は思い出せないで、記憶の旅に出る。

--

三歳の頃、僕は、誕生日に犬をもらった。狩猟用で、かしこく、あまり大型にならない種類の犬だった。病気をしたため狩猟には使えないと判断されて、父の友人を介して、僕の誕生日プレゼントになったのだ。犬は、病気のせいだろうか。その後も、あまり大きくならなかった。そうして、十二歳になるまで、僕と一緒に遊び、僕の部屋で眠った。ずっと一緒だった。

十二の誕生日の朝、犬は、口から少し白い泡をふいて、固くなっていた。

僕は、泣いた。

一人っ子だった僕には、犬が弟だったから。

父は、犬を処分するように、僕に言った。

僕は、首を振った。

「また、新しいのを買えばいいじゃないか。」
父は、腹を立てて、部屋を出て行った。

僕は、犬を大型のタオルにくるんで、リュックに入れて、家を出た。小柄な犬だったが、それでも背負うとずっしりと重く、僕の肩に食い込んで来た。

随分と歩いて、夜更けに辿り着いた宿に、なけなしの小遣いをはたいて泊まった。宿を切り盛りしている女は、僕を不審な目で眺めたが、僕は知らん顔していた。

夜、部屋で一人で、どこに行けばいいのだろう、と考えてみた。僕に行くあてなんかなかった。何で家を出たのかも分からなかった。だが、大人のやり方に反抗したかったのだ。

固いベッドのシーツの上に、犬の死体と横たわった。家を出てしまった僕は、この犬と同じくらい、地球上でどこにも行き場のない存在に思えた。

そうして眠りに落ちて。

多分、あのあと宿屋から知らせを受けた父が駆け付けて来て、僕を起こして殴った。そこまでは覚えている。

それから、犬は、どうなったっけ?

犬がどうなったかは思い出せない。

多分、父に命ぜられて、庭に穴かなんか掘って埋めたんだろう。

--

可愛い女の子が一人隣に座って来た。僕は彼女に酒を奢り、くだらないおしゃべりをした。

「二人でどっか行く?」
と聞いたが、彼女は、愛らしく笑って首を振った。

待っていた連れが店に来たらしく、腰を上げて行ってしまった。

僕は、彼女が歩くリズムに合わせて左右に揺れるお尻を眺めながら、もう少しアルコールが欲しいと思った。

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随分と帰宅が遅くなり、冷めかけたスープが投げ出された食卓に着く。スープの中の肉は、すっかり固い。妻は、キッチンのテーブルに背を向けて編物をしている。

「これ、何のスープだ?」
僕は、奇妙な味がなんだったかを思いだそうとしながら、妻に訊ねる。

「犬の肉よ。」
妻は向こうを向いたまま、答える。


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