セクサロイドは眠らない
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2002年01月22日(火) |
彼女は、青年の上にまたがり、死につつある顔を残酷に見つめる。白い指が、その青年の肌を味わうようになぞる。 |
その美しい娘を前に、青年は、憔悴した顔で懇願している。
「どうすればいい?」 「じゃあ、何か面白い話をしてよ。」 「面白い?」 「私のまだ知らない世界の話なんかを。」
青年が口を開きかけるのを制するように、彼女は、その真っ黒に輝く眼で青年を見つめる。
「もう誰かが本に書いたこと繰り返すのなんて、いやよ。」 「そんな・・・。」 「誰も知らないこと、あなただけが語れる言葉で私を楽しませて。」 「無理だ。幼い頃から、世界を旅して回ったというきみが知らない世界を、僕が知っている筈がない。」 「あら。あなたって役立たずねえ。あなたの吐く息は、もう、いやらしい死の臭いしかしないっていうのに。」
青年は、震える手で、その傲慢で美しい肢体に手を伸ばす。
「あら。あなた、泣いてるのね。」 「きみは、残酷だ。僕は、勉強しなくちゃならない。いい大学に入ったのはそのためだ。きみを一日中喜ばせてあげるわけにはいかない。」 「言ってる意味が分からないわ。勉強も、好きなだけなさればいいわ。一つだけ言っておくと、あなた、自分の意志でここに来てるのよ。勉強だって、私を抱くことだって、あなたの好きなようにすればいいのよ。だけど、私の何であれ、奪うばかりなら、どっかに行ってちょうだい。」
「それは無理だ。僕は、もう、どこにも行けない。」 青年は、ただ、ふらふらと彼女にすがりつく。
「困った人ね。」 彼女は、青年の上にまたがり、死につつある顔を残酷に見つめる。白い指が、その青年の肌を味わうようになぞる。
そうして、将来を期待される若者が、また一人、消息を絶つ。
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音楽家は、まさに、汗水垂らして、娘のために音を奏でる。
一日中、食事もとらずに、奏でる。
娘は、その音色に包まれて、ベッドの上で果物を食べながら寝そべる。
もう、音楽家は、まさに倒れようとしている。
「ちょっと待って。」 娘は、鋭い視線で、音楽家をにらむ。
「その音は、もう既にどこかで聞いたことがあるわ。」 娘は怒って、手にしたリンゴを投げ付ける。
「ちょっと待ってくれよ。完全に新しいものだけできみを楽しませる事は無理だ。」 音楽家は、疲労と空腹で黒ずんだ顔を、娘に向ける。
「じゃあ、もうどこかに行ってちょうだい。」 「私はきみのために、音楽を聞かせ続けた。挙句が、その台詞か。」
音楽家は、立ちあがってヨロヨロと娘に近付こうとして。
そうして、その瞬間、とうとう命尽きて倒れる。
娘は、味を見るまでもないとばかりに、顔をしかめ、音楽家に向かって、その美しい顔を変形させる。
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「また、お前の仕業か。」 「ええ。」 「まったく。どうして、ここにとどまって、手に入るだけのものを手に入れるだけじゃ、満足しないのだ?」 「だって。」
その巨大なオス蜘蛛に、更に、それより大きなメス蜘蛛が絡みついている。
「お前は、可哀想な子だ。本当に、哀れだ。」 「どうして、そんなことおっしゃるの?パパ。」 「お前の母親も、お前に食われてしまった。そうして、お前は、その貪欲さのあまり、次々と、お前を愛してくれる者を食ってしまう。一箇所にとどまれば、そこいらにあるものを根こそぎ食ってしまう。だから、私達は、どこかにとどまることもできずに、世界を転々としなければならない。」 「それが生きることではなくって?」
よく見れば、オス蜘蛛は、メス蜘蛛に食べられている。
「お前は、私がいなくなったって悲しむことすらしないのだろうな。」 「何をおっしゃるの?パパ。パパがいなくなったら、私、泣くわ。」 「たとえ泣いたとしても、その悲しみすら、食っちまって、お前は、巨大になるのだ。」
もう、オス蜘蛛は、体の大半を失い、言葉も途絶えがち。
「ほんとうに・・・、可哀想な、私の娘よ・・・。」 「でも、姉さん達の中では、パパは私を一番愛してくれたわ。」 「何もかもを、食べてしまって、何もなくなったら、お前も死ぬ日が来るのだよ。」
メス蜘蛛は、最後の一飲みで、オス蜘蛛を腹に納めると、満足そうにつぶやく。
「ね。パパ。大丈夫よ。」
夢見るように。
「ねえ。あたしは、蜘蛛よ。この広い広い天に向かって、糸を吐いて、新しい宇宙を作るわ。そうして、それを食べるわ。」
メス蜘蛛は、キラキラと銀色に輝く糸を、抑えきれず広げてみせる。
もうそばには、誰も見ていてくれる者もいないのに。
たとえようもなく、美しい銀の織物が悲しく光る。
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