セクサロイドは眠らない
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2002年01月12日(土) |
答えようとする私の喉元から、虫がせり上がって来て、私の唇を乗っ取る。私の貪欲な唇は、彼の唇を味わおうと、ぬらぬらと光る。 |
芋虫のような奇妙な虫が、私の体に住みついた。
そのことで、私はちょっと困っている。
虫は、飢えると活動を始めて、「何か食べさせてちょうだい。」と騒ぎ出す。そんな時、普段は白っぽい虫の体は赤味を帯びてくる。私の肌はとても白いので、皮膚の下で虫がうごめくと、虫の赤が透けて私の肌も桜色に染まる。
虫は、とても気まぐれで、体も不定形なので、私は、その輪郭を掴みかねて、ただ困惑するのみだ。
「ねえ。出てってくれない?」 私は、訊ねてみる。
「いやよ。」 彼女(多分)、は、わがままに答える。
「あなたのせいで、私は尻拭いが大変なのよ。」 「知らないわ。第一、本当に追い出そうと思うのなら、私はいつだって出てってあげるわよ。あなた、本当は、私がいなくなると困るんじゃない?」
虫はクスクスと笑う。
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私は、ある企業の受け付け嬢をしていて、普段、取り澄ました顔でお客様を出迎えるのだが、虫が騒ぎ出すと本当に困ってしまう。虫は面食いで、気に入った男が入ってくるとうごうごとその体を激しくよじらせて、騒ぐのだ。
ねえ。お腹すいた。
待ちなさい。
私は、昨年からうちの会社に出入りしている、色の浅黒い営業の男を応接室に通す。
「こちらで少々お待ちください。」
彼は、私の手首をそっと掴んで、 「年末のあの約束、本当に?」 と、声をひそめてくる。
私は、無言でうなずくと、男の手をそっと振り払う。
「あとで、メールするよ。」 男の声が、背後からささやく。
ドアを閉じて、私はため息をつく。
あなたが、年末にあんなに騒ぐから、私は、あの男と会わなくてはいけなくなったわ。
私は、体の中の虫に文句を言うが、彼女は知らぬ顔で眠っているふりをする。
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「こんな店で良かったかな。」 男は、メニューを見ながら、どんどんと注文して行く。
私は、その左手の指輪を眺めながら、冷たい日本酒をどんどん体内に流し込む。
既婚かどうかは、ともあれ、この男、なかなかいいわね。スラリと高い背の、その男の気持ちのよいしぐさに見惚れる。
「きみから誘いが来るなんて思わなかったからさあ。」 男は、心底嬉しそうにしゃべっている。
「ごめんなさいね。厚かましいお誘いをして。」 「いや。いいんだ。」
男は、よく食べる。私は、運が良ければ体内の虫を眠らせることができるのではないかと、アルコールを流し込む。
だが、男が 「そろそろ、出ようか。」 と言ったところで、虫は活動を始める。
「飲み過ぎたんじゃない?体がピンク色になってるよ。」 「ええ。私、飲んだら、すぐに出ちゃうんですよ。恥ずかしい。」
その瞬間、虫があんまりにも激しく動くので、私はビクリとして、よろける。
「大丈夫?相当酔ってるんだね。」 男は心配そうに、私の肩を抱く。
大丈夫です。大丈夫です。
何度言ったところで、私は、相当酔って危なっかしいように見えただろう。
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ほどなく、男と二人きりの場所で、私は、男の腕の中にいる。
「きみが飲み過ぎないように、僕がちゃんと気をつけてあげていれば良かったね。」
答えようとする私の喉元から、虫がせり上がって来て、私の唇を乗っ取る。
私の貪欲な唇は、彼の唇を味わおうと、ぬらぬらと光る。
彼は、吸い込まれるように顔を落としてくる。
「すごいね。」
ええ。すごいわ。虫が。私の体を。
虫は、音を立てて、男の唇を、首筋を、体のそこかしこを味わう。私は、ただ、虫のやることに身を任せる。虫は、私の体を完全に乗っ取って、私の体を我が物のように扱う。私は、全身で男を味わう。それはもう、止められないほどの勢いを持つ。
「美味しい・・・。」 虫がつぶやく。
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最近、本当に困っている。
どうやら、虫は、もうすでに私の一部と融合してしまっているようなのだ。
私は、心の中まで、虫に汚染されている。
その男の、長い指の、銀に光る指輪を外してしまいたくてどうしようもない気分になりながら、自らの意志で男の体にまたがる。
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