セクサロイドは眠らない

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2002年01月04日(金) 「なんと、美しい脚。」舌が、その手に入れたばかりのなめらかな白い肌を這う。その瞬間。

美しい人魚姫は、海底で幾多の人魚の男達の求愛を退けていた。

そうして、夢見ていた。

人間の男のことを。

二本の足を持ち、自在に陸を歩き回る人間に憧れ、ため息をついた。

お姉さん達は、そんな人魚姫を馬鹿にしていたけれども。

--

静かなはずの海底ですらざわざわと落ちつかない、ある嵐の日。

人魚姫は、とても興奮して、海面から顔を出し、その黒い雲が覆い被さり、雨を海面に激しく叩きつけてくるのを、海に浮いた全てのものをもてあそぶのを、じっと見ていた。その船は、もう、意志を奪われ、ただ、あちらへこちらへと激しく揺さぶられ、やがてひっくり返ったかと思うと、乗員も、荷物も、放り出してしまった。

あっ。

人魚姫は、慌てて、近くまで泳いで行く。

そこに一人の美しい若者の姿。青ざめた顔は、死んでいるようで。ゆらゆらと沈んで行く。

なんと、美しい御方。急いでそばに行き、抱き留める。

人魚姫は、その若者を浜辺まで連れて行き、嵐が過ぎ去るまでの間、介抱を続けた。

「おねがい。その瞳を開いて。私を見て。」

人魚姫の必死の祈りは聞き届けられたのか、やがて、その若者はゆっくりと瞳を開く。

「ここは?」
「・・・の海岸よ。」
「きみは?」
「人魚姫。」
「あなたが伝説の?なんと、美しいのだろう。」

若者は、姫を見つめ、感動したように、指でそっと姫の輪郭をなぞる。

「これを、お礼に。」
若者は、紋章のついた美しい絹の巾着を人魚姫に渡す。

人の声がする。人魚姫は、慌てて若者に口づけて、その場を去る。浜に出て来た漁師に若者を託すため。

--

姉達は、笑う。人間に恋したって?

人魚姫は、魔法使いを探しに行く。

あの人に会えるならば、どんな犠牲も構わない。

魔法使いは、冷たい目で、じっと人魚姫を見つめる。愚かなことを望むものだと言わんばかりに。

「お願いです。人間にして。二本の足を手に入れることができたら、私は何でも差し出します。」
「ふむ。」

魔法使いは、値踏みするように、人魚姫を長い時間眺め、それから、重い口を開く。

「その、美しい声。鈴を転がすような、美しい声。その声さえあれば、人間の男などいくらでも惑わすことができる、その声をおくれ。」
「はい。」

人魚姫は、そうして、言葉を失い、人間になる薬を手に入れた。

--

それから、浜辺まで行き、薬を一息に飲み干す。

手に、紋章入りの巾着を握り。

そうして、人魚姫は、無事に若者、いや、その国の王子と出会うこととなる。

「お前は、いつぞやの?」
王子は、好色な微笑みで、姫を抱き寄せる。

覚えていてくれたのですね。うれしゅうございます。

言葉は、奪われたまま。

「驚いたな。人間の娘になって、私を追ってくるとは。」
王子の、その目に宿るのは、好奇の光。

「なんと、美しい脚。」
王子の舌が、その手に入れたばかりのなめらかな白い肌を這う。

王子が、その人魚姫の脚を分け入って、そっと体重を乗せて来た、その瞬間。

なぜか、人魚姫は、取り返しのつかないことをしたという想いに打ちのめされる。

悲しみが涙となって溢れ出す。

どうして、私は、尻尾を捨てて、こんなところまで来てしまったのでしょう?なぜ、あのキラキラ光る鱗に包まれた、人魚の誇りを捨てて。

無性に悲しくなり、声にならない涙を流す。失ってからでは、もう遅い。

王子は、そんなことに構わずに、人魚姫の脚を無造作に撫でまわす。


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