セクサロイドは眠らない

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2002年01月01日(火) 「どうしよう。ねえ。恋をしたら、どうしたらいい?」ある日、誰かに聞いてみたくてどうしようもなくなった。

お正月は、そう好きじゃない。

家庭持ちの男に恋している女なら、誰だってそうだろう。

ただ、じっと自分の気持ちを抱き締めているしかない時。

--

一人で生きて行くことを決めたから。だからかしら。人より多く恋をして来た。みじめに見えないように。寂しく見えないように。肩肘張って見えないように。恋をたくさんしてきたつもりだった。

だけど、そんなものの多くは恋ではなかったと気付いたのは、それこそが恋だと確信した瞬間だった。

「どうしよう。ねえ。恋をしたら、どうしたらいい?」
ある日、誰かに聞いてみたくてどうしようもなくなった。誰でもいいから、問い掛けてみたいと切望した。

そんな衝動のせいで、それが恋だと分かった。そんなことで、オロオロするほどに、私は恋に不慣れだったのだと知り、愕然とする。

「ねえ。ほんとうに。どうしましょうか。」
だけど、そんな問い掛けをするほどには、私は友人と呼べる人もいなかったのだと、また気付く。

誰か、友達を作っておけば良かった。打ち明け話をする友達を。

--

大晦日。男のことを想う。今頃、家族と、正月の買い物でもしているだろうか。大掃除をしているだろうか。家族と笑い合っているだろうか。

分かっていた。

かけてはいけない電話を掛けるために、受話器を取る。

時間は、午前三時を回っていただろうか。

指が覚えたナンバーを押す。

男は、すぐ出た。

「もしもし。会いたいの。今すぐ。ねえ。お願い。電話しちゃ駄目だって分かってて・・・。」
「すぐ行くよ。すぐ行くから、待っていなさい。」

意外にも、男はやさしい声。

ごめんなさい。

会える、と知った安堵から、涙が出そうになる。

--

「ごめんなさい。」
私は、謝る。

男は、黙っている。

「ねえ。怒ってる?お正月から、電話したりして?」
「もちろん。ちょっとばかり怒ってる。」
「ごめんね。我慢できなかったの。」
「仕方ない。」

男は、私の手を軽く握って離すと、車を発進させた。

小一時間は、車を走らせていただろうか。

車を停めて、男は、降りる。私も、慌てて降りる。

「僕も。」
「え?」
「僕も、会いたかった。」

男は、私の前を歩く。私は、後を追う。

少し、薄明るくなった空の下、神社へと続く石段を、黙って登る。

「本当に?」
私は、遅れないように、一生懸命後を追いながら、訊ねる。
「ああ。」

私は、安堵から、男の腕にすがりついて。あれやこれやと、話し掛ける。黙っていたら、暗闇に、彼が見えなくなりそうで、話し掛ける。

彼は、急に、

しっ。

と、私の唇に人差し指を当てる。

明け方の風の音が、耳をかすめる。木々が、ザワザワと音を立てる。

それから、石段を上がり切ったところで、私達は腰を下ろす。

向こうの街並みが光りに染まっている。

日の出は、風の音、木々の声を伴って、静かに明けて行く。

じっと、黙って。

見過ごさないように、聞き逃さないように、息を潜めて。

長い、けれども、退屈でない時間。

それから、あたりがすっかり明るくなった頃に、私達は、立ち上がる。

帰り道、無言のまま。

私のマンションの前に車を停めて、彼は言った。
「ゆっくりがいいんだ。その代わり、長く恋をさせてくれないかな。僕のわがままだけれども。」

私は、うなずく。

急ぐばかりに、いろんなものを聞き逃し、取りこぼす。そんな恋は嫌なんだと。彼は、その時言った。それにきみに分けてあげられるスペースはとても少ないんだ、と、そんなことも言う、正直な男だった。

彼が、その日、奥さんに何と言い訳したか、私は知らない。

--

それから、一年。

恋は続いている。

静かに。

ひっそりと。

今年のお正月は、一人きりで。

私は、孤独から多くを聞き取る。

たとえば。

鳥は、大空を一人で飛ぶだろう。それは、泣いているように見えるけれど。ただ、遠くに憧れて飛んでいるのかもしれない。というようなこと。


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