セクサロイドは眠らない

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2001年12月19日(水) 驚いたことに、その男が持っている感情の中に「恋」はなかった。あるのは、好色と支配だけ。

私は、魔女と呼ばれている。

おそろしい魔術を使うと。

そうかしら?随分と、ひどい噂だわ。

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毎朝、私は、獣達の鳴き声で目覚める。

ネズミやら、ニワトリやら、ヒョウやらが、一斉に叫ぶ。

私は、にこやかに「おはよう」を言う。とても気分がいい。私の愛しい獣達。

私の魔法は、私に恋をした者だけにかかる。私に恋をしたその瞬間、彼らは獣に姿を変える。私は、姿を変えた男達を、金の籠に入れる。そうして、彼らは、人間の姿に戻ることはできない。魔法を解く方法は、ただ一つ。恋した相手から恋されること。

だけど、それはかなわない。

生涯かかったってかなわない。

私は、獣になぞ恋をしない。

私は、美しい女。この姿を見ようと、世界中から若者が集まる。そうして、私を見つけた瞬間、獣に姿を変える。悲しい号砲と共に。

--

そうやって、私は、私に恋する者の変わり果てた姿に囲まれて、幸福だった。

ある日、馬に乗ったそのたくましい男が、私のいる村を通りかかる。その、粗暴な顔つきに、日焼けして光り輝く身体に、私はドキリとする。

さあ。早く、恋をして。

いつものように、私の赤い舌が、彼を誘う。

男は、私に気付く。

その途端、好色に光る目を前にして、私は動けなくなる。

それから、その強い腕に組み敷かれ、私はすすり泣く。喜びの涙を流す。その冷たい瞳で見つめられると、激しい快楽に身動きできない。

驚いたことに、その男が持っている感情の中に「恋」はなかった。あるのは、好色と支配だけ。ああ。何と言うこと。私を奪い、私を官能の波間に落としたこの男は、恋をしない。そうして、今、この瞬間、多くを放出して満足した男は、ここを去ろうとしている。

待って!

叫んだその瞬間、私は、自らの魔法に掛かる。

おお。なんということ。私は、醜いカラスになった。

「こりゃ、すごい。」
男は、笑う。

金のカゴの中で羽をバタつかせる私は、グエェェェェェェ、としわがれた声を出すことしかできない。

「いい子だ。」
ニヤニヤ笑う男は、私を閉じこめたカゴを馬にくくり付けて、旅を続ける。

--

グエェェェェェェ。

グエェェェェェェ。

「ねえ。随分とうるさいわ。」
彼の裸の胸にもたれかかって、美しい娘が、眉をしかめる。

「カラス、嫌いかい。」
男は、背後から娘を抱き締め、その乳房をもみしだく。

「んん。あんたって、本当にひどい男ね。」
「あの邪悪な声を聞いてみろよ。俺は興奮するね。」
「いやな趣味。あんたって変わってるわ。」
「そうさ。俺は醜いものが大好きでね。」

男は、笑って、それから娘の脚を抱え込む。その背中の筋肉が生き物のように動くのを私は見ていた。

--

ああ。お願い。私は、泣くこともかなわない。

私を愛して。それがかなわぬなら、私を殺して。その手で。

闇夜に、私のしわがれた声が響く。

分かっている。

身のほど知らずに恋を請う声は、なんと耳障りで、なんと醜いことか。それでも、恋の呪いにかかったものは、逃れようがない。呪縛が解けるまで、永遠に叫び続ける。


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