セクサロイドは眠らない
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2001年12月16日(日) |
すすり泣くような呻き声を上げながら、彼女は僕の体の中に少しずつ冷気を送り込む。 |
僕が住んでいるのは、過疎が進む小さな島だった。少しずつ、若者が減って行き、年寄りばかりが目立つ。僕は、そこで、漁をして暮らしていた。母親がやっている民宿の収入と合わせれば、そこそこ食べていける。
友達は、少しずつ島を出て行った。若い女の子と出会う機会もない島に、いつまでもいるのは嫌だと言って。当然だ。
僕だって、そうだ。漁で疲れて帰って来た時、そばに女の子がいてくれたらどんなに素晴らしいだろう。僕は、他愛のないことをあれこれしゃべる。彼女は、ニコニコと笑いながら聞いてくれる。今度は、彼女が、どうでもいい出来事をしゃべる。僕は、彼女を茶化しながら、笑ってそれを聞く。そうやって、二人共少しアルコールが入って、夜は更けて行く。そんな生活。こんな小さな島では、それだけを望むようになる。
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しまった。
僕は、考え事をしていて、沖に引き返すタイミングを誤ったようだ。
黒い雲が、みるみる近付いてくる。風が激しい。もうすぐ正月だから根詰めて仕事しようと思っていたばかりに、荒れた海に捕まった。
それからはあっと言う間。波が高く。僕は、大きな大きな手で、ぐわっと掴まれたように、飲み込まれた。
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「ねえ。あなた。」
優しい声が聞こえる。
僕は、その声を、どこかで聞いた声だと思いながら。なつかしくて、体の奥にすっと入り込んでくるような、やさしい声。
「ここは?」 目を開けると、見知らぬ場所。小さな小屋。だけど、温かくて、清潔で、ストーブの上で沸騰しているお湯が気持ちのいい湿度を保っている。
「あなた、倒れてたから。連れて来ましたの。」 女は言う。
白い肌。漆黒の髪。恥ずかしそうな表情。
「つっ。」 体を起こそうとして、僕は体中に引っ掻き傷やら、打撲の跡があることに気付く。
「まだ、起きちゃいけません。」 彼女は、僕の肩に手を掛けて布団に戻す。
その手が思ったより、冷たいことを。ひんやりとしたその手に、僕は全身がゾクリと震える。
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体がなかなか回復しない間、女はかいがいしく僕の身の回りの世話をしてくれた。
「ここは、どこだ?」 小屋を出ると、そこは、木が茂っていて。僕は、自分がどこの浜辺に打ち上げられたかも分からない。
「さあ。」 女は夢見るように答える。
「ここから出たことはありませんもの。」 「じゃあ、どうして、僕を見つけた?」 「小屋の前に倒れてましたわ。」
僕は、薬草を入れた粥をすする。
我慢できず、女の白い腕を掴む。恐ろしいほど、冷たい。
「ねえ。私、生身の女じゃありませんわ。」 「じゃあ、何者だ?」 「幽霊です。」
彼女の体は、そう。氷のように冷たいのではない。ただ、彼女の周りの空気に触れると、ヒヤリとして、体の震えが止まらない。
それでも、構わない。
僕は、彼女の衣類を剥ぎ取る。つるりとした白い肌。柔らかな線を描くその冷たい乳房に顔をうずめる。
「ずっとここにいてくださるのでしょう?」 「ああ。」
僕は、傷のせいで熱っぽい体で、彼女を温めようとする。彼女の悲しく冷たい息が、僕を包む。僕は、少しずつ消耗して行きながら、彼女の体を抱き続ける。すすり泣くような呻き声を上げながら、彼女は僕の体の中に少しずつ冷気を送り込む。
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僕の体は回復しない。
幽霊に憑りつかれちゃしょうがないな。
僕は、一日うとうととし、夜になると彼女の冷気と交わる。
ただ、心残りなのは。
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「海を。」 「え?」 「海を見たいんだ。」 「無理です。あなたは、ここからは出られませんわ。」
彼女は、僕の体に腕を巻きつける。サラリと髪が僕の頬になだれ落ちる。
「僕は、海で育った。両親が忙しい時は、海が僕を育ててくれた。」 「駄目よ。ここから出たところで、海には行けないわ。」 「頼む。」 「あなた、ここから行ってしまうと言うの?」 「すまない。」 「ねえ。外を見て。」
窓の外を指差すと、そこは海。波の打ち寄せる音。
「あなたのために、私が用意した海。ここから、いつも眺めることができますわ。」
だが、それは、見るだけの海。触ることもできない海。彼女は、精一杯、僕が望むものを用意してくれたのだけれど。
「駄目だ。」
女は悲しい目をする。
「僕は行くよ。」 「嫌です。そんなことになったら、私はあなたに憑りついて殺します。」 「好きにするがいい。既に、きみに命を削られて、どうせ僕はそう長くはもちゃしないだろう。それに。」 「何です?」 「きみが待っているのは僕じゃない。きみをここで殺して、きみの心をこの土地に縛りつけた男だろう?」
僕がドアを開けた瞬間、彼女は悲鳴を上げる。
僕は意識を失う。
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波の音が聞こえる。
「誰か人が倒れとる。」 子供の声が聞こえる。
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