セクサロイドは眠らない

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2001年12月13日(木) 「じゃあ。サンタのブーツをください。」

「ねえ。クリスマスプレゼント、何が欲しい。」
頭上から、やさしく声が響く。

年下の、引き締まった裸の胸に頭を乗せていると、その胸はドキドキと音を立てていて。

「なんにもいらない。」
私は、そっけない声で答える。

欲しいものは、ただ一つ。あの人の心。

家庭持ちの恋人と会えない寂しさを満たすために、私を抱いてくれる男の子と過ごす夜。私は、もの悲しい気分で、恋人の事を思う。心の穴があんまり大きいから、借り物の愛で穴埋めする。

好きな人がいるのよ、と言っても、それでもいいから好きでいたいんだよ、と差し出された男の子の手をつい取ってしまった。

「ねえ。本当に何でもくれるの?」
私は、急に少し意地悪な気持ちになって聞いてみる。

「僕があげられるものならね。」
「じゃあ。サンタのブーツをください。」
「サンタのブーツ?」
「それを履けば、どんなに凍った雪が積もっていても屋根から落ちないんですって。魔法のブーツよ。」

--

「ねえ。今年はいつにしようか。」
私は、スケジュール帳を繰りながら、男に話し掛ける。

クリスマス・イブとクリスマスは彼の奥さんと子供のために空けてあるから、いつも少し早めのクリスマスを祝うのがここ数年の私達のやり方だった。

「今年は、もう、きみとは過ごせないんだ。」
少しの沈黙の後、彼の言葉。

「え?」
「今年も、来年も、もうずっと。」
「どういうこと?」
「本当は、もう遅いんだろうが、それでも今から修復できることもあるかと思ってね。」

それから、私の髪をやさしく撫でる。

「お前のこと何も知らないままだったな。」
「何、感傷的になってるのよ。こんな日が来たらすんなり終わりにしようって、ずっと決めてたじゃない。」
「ごめんな。」
「いいのよ。」

いつかは来ると分かっていても、いざその日が来ると私は動揺してしまって、馬鹿みたいに物分りが良くなる。本当は泣きたいのに。恨み言もたくさん投げ付けてやりたいのに。私は、ただ、静かに涙を流す。

恋人は、私にやさしい口づけをする。

それは、もう、何かを求める口づけじゃなくて、元気でな、の口づけ。

--

去年のクリスマスは、彼が酔って転んで、ケーキがぐちゃぐちゃになったから、私達は、大笑いしながらそれを指ですくって食べた。

一昨年のクリスマスは、せっかくもらったジュエリーをお店に忘れて来て、二人で慌てて取りに行った。

そう言えば、全然お洒落じゃなかったね。私達のクリスマス。

一つ一つ。

写真を小さく破って、思い出と一緒に捨てる。

クリスマスを目の前にして捨てなくったって。せめてクリスマスまで一緒にいてくれたってよかったじゃない、と恨み言をつぶやきながら。

そんなことにすら嘘がつけなかった男の誠実までも、全部好きだった。

--

夜更けにドアのチャイムが鳴る。

インターホン越しに、「僕だよ。」と男の子の声。

「会いたくないの。」
と返事をする。

もう、心の穴は、あんまり大きくなり過ぎて、あなたじゃ埋まらないもの。

「お願いだから、開けてよ。」

私は、しかたなく、ドアを薄く開ける。
「もう遅いのよ。サンタのブーツ、もう、間に合わない。ある日、急にまっさかさまに落ちることがないように、おまじないだったのに。だけど、遅かったわ。私は、空から落ちて、このありさまよ。」

彼はため息をつく。
「きみは、空から落ちて、持っていたプレゼントは全部散らばっちゃったってわけだね。もう、僕へのお裾分けさえ残ってないんだ。」

空には、キラキラとたくさんの星。あれがきっと、私の手から滑り落ちたプレゼント達。

「今日は帰るよ。」
男の子は、私の頬にそっと唇をつける。

私は、ごめんね、と心の中で。

男の子は言う。
「ねえ。こんな時にわがまま言ってなんだけどさ。クリスマスには、もう少し時間がある。その時までに、お互いがお互いのサンタになれないか、ちょっとだけ考えてみてくれないかな?」
「どうかな。約束はできないわよ。」
「分かってるって。」

そう言えば、もしかしたら、重たい荷物手放して、私は少し楽になったのかもしれない。そんなことを思いながら、私は男の子の背中に「おやすみ」とつぶやく。


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