セクサロイドは眠らない

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2001年12月11日(火) 嫌なことを誰かに押し付けるのって、ずるいよね。嫌なものは、神さまだって見たがらないんだよ。

愛玩用ロボットが街に増え過ぎた。

猫型ロボットの僕は、スクラップにされて、街をさ迷う。逃げなくては、本当に廃棄処分にされてしまう。ただ、型が古いというだけでゴミの日に不法投棄された僕は、市の職員に見つけられないように、居場所を転々とする。

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「おいで。」

とある庭に迷い込んだ僕をその小さな声が呼ぶ。

「こっちに来て、僕の相手をしてよ。」

にゃあ。

僕は恐る恐る近寄る。

小さな男の子が手招きしている。僕は、彼の手の中に滑り込む。男の子は、嬉しそうに僕を抱き上げて、冷たい体に頬ずりする。

「僕、独りぼっちだったんだ。遊んでくれるよね?」

にゃあ。

男の子は、僕を部屋に連れて行く。部屋には、大きなベッド。ベッドの周りには、絵本。未来の物語よりは、過去の物語を綴った。神話や伝説の絵本。

「僕、病気なんだ。もう、あんまり長いこと生きられないんだよ。」

にゃあ。

「ママは、そんな僕を見ているのが辛いって言って、もう、あんまりここに来てもくれない。」

死ぬのは、怖い?

「怖いさ。とっても。時々、夜、目が覚めて、僕は怖くて泣くんだ。ママがそばにいてくれたら、少しは怖くなくなると思うんだけどね。」

僕も、ずっと独りぼっちさ。

「ねえ。こんなお話を読んだよ。ヒンドゥーの神さまがね。昔、あんまりあんまりたくさんの生き物を造った時。まだ、この世の中に『死』というものがない時。あんまり、生き物がたくさんになり過ぎて、大地は悲鳴を上げたんだって。『お願いです。取り除いてください』って。だから、神さまは、『死』という名前の乙女を作ったんだ。でも、その乙女は、『除去』するのが辛くて、その役割を果たさずに逃げ出しちゃったんだって。」

ふむ。

「ねえ、可哀想だろう。死って。ママに見放されちゃった僕みたいだ。」

たしかに。

「困った神さまは、乙女の悲しみの涙を使って、『除去』をするように命じたんだ。生き物に、欲望とか、怒りとか、そういう悪い心を持つようにさせて、その罰に、『除去』をするんだって。」

きみには悪い心なんかないのにね。

「僕ね。ママを悲しませた。やっぱり悪い子だった。」

男の子は、少し眠たくなったみたいで、小さなあくびをする。

「嫌なことを誰かに押し付けるのって、ずるいよね。嫌なものは、神さまだって見たがらないんだよ。」

小さな手が僕のしっぽをそっと握る。

「きみは、僕が怖くないんだね。ママは僕が怖いんだ。」

きみじゃなくて、きみの背中に乗っかってる死が怖いんだね。きみの向こうに虎がいる。

「きみはもっと可哀想だね。ほんとうの猫よりも、ずっとずっと独りぼっちだもの。」

そんなことはない。ほんとうの猫になったことはないから、ほんとうの猫の人生と、僕の人生とは比べようがないよ。これはこれで、そう悪くない。

「でも、死の乙女って、本当はすごく怖いんだ。目が真っ赤に燃えた、黒い乙女なんだ。怖いだろう?ママが怒った時くらい怖いんだ。僕ね。その絵本、怖いのに、なぜか、何度も何度も読んじゃうんだ。」

男の子は、クスクス笑って、それから、僕のしっぽを握り締めたまま、眠りに就く。

僕は、男の子が夜起きて泣かないようにと、そばで丸くなる。せめて、僕の体に暖かい毛皮がついていればいいのになあ、とか、そんなことを思いながら。


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