セクサロイドは眠らない

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2001年12月09日(日) 「愛しているわ。」とは言ったけれど「愛してちょうだい。」とは望まなかった相手を、果たして遠ざける必要はあったのだろうか?

猫は、僕のところにやって来て、言う。

「ねえ、あなたを愛しているの。」

真っ直ぐに僕を見つめ、恥ずかしそうにしながらも目をそらそうとしない。

「急に言われても、ねえ。」
僕は、目をそらす。

「別にいいのよ。あなたが、私を好きになろうと、なるまいと。ただ、あなたに、愛してる、って言いたかっただけ。」
「愛してるって、さあ。重いんだよね。きみがどう思おうとも。言われたほうは、困惑するだけだよ。」
「じゃあ、黙っていろと?」
猫は、キラリと光る緑色の瞳で僕を見つめる。

「で、僕にどうして欲しいんだい?」
「何も。別に、何もしてくれなくていいわ。」
「まあ、そもそも、僕だってきみに何かができるわけじゃないしね。第一、きみは猫だ。僕ときみじゃ、セックスもできない。」
「馬鹿ね。しようと思えばできるわよ。だけど、愛してる、なんて台詞吐く女とは、どうせあなた、寝ないでしょう?」
「そうだ。まったくその通り。」
「それくらいには、私って、あなたのことをよく知ってるのよ。」
「ああ。そうだろうな。毎晩、僕の布団で寝てるくらいだ。何もかもお見通しだろうよ。」

僕は、少々気を悪くする。

あいにくと、僕には好きな子がいる。ただ憧れているだけだが。気持ちを伝えたこともない。時折、「友人として」電話を掛けて、当たり障りのない話をするくらいだ。

猫から告白を受けたことで、僕は急に心配になる。

だいいち、僕が、彼女に電話をする前、勇気を絞ろうとひとしきり言っている独り言を、寝たふりして聞いていたのだろうか。

なんと恥ずかしい。そう思いかけて、いかんいかんと首を振る。

意識なんかしちゃ駄目だ。それじゃ、猫に振り回されてばっかりだ。

取り敢えず、猫と一緒に寝るのを止めよう。

僕は猫に向かって言う。

「あのなあ。きみからそんな告白を受けた以上、僕はもう、きみと一緒の布団で寝るわけにはいかないんだ。ついては、きみを、僕の友達の家に預けようと思う。」

猫は悲しそうな顔をして、僕を見つめる。

「ねーえ。」
「なんだ?」
「私ね。今、発情期なの。見て、こんなにお尻がピンク色でしょう?今、この私を外に出したら、誰と何をするか分からないわよ。それでもいいの?」

な、何を言い出すんだ?この猫は。

「とにかく、もう決めたんだ。悪いけれど。」

--

それから、僕は、無類の猫好きの友人に電話を掛けて、猫を預かってくれと頼んだ。彼は、あっさりと快諾してくれたので、僕は、急いでバスケットに入れた猫を友人宅に連れて行く。

にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ〜。

後を引く鳴き声が、逃げるように走り出す僕の背中にまとわり付く。

--

さて。

僕は、落ち着いて部屋で独りになる。そうして、考える。

「愛しているわ。」とは言ったけれど「愛してちょうだい。」とは望まなかった相手を、果たして遠ざける必要はあったのだろうか?

それから、猫の気まぐれな視線を思い出す。時々、僕が呼びかけても、知らん顔していた、あの小憎らしいワガママぶりを。それは、思うに、ひどく魅力的であった。

--

夜、僕は眠れない。眠れないまま、何度も寝返りをうち、ついには上着を着こみ、ジーンズに履き替えて、夜の道を友人宅にまで走る。

「んんんん。」
猫の妖しい鳴き声。

ドアから聞こえるその声は、僕の気持ちをかき乱す。

「感じ易いんだね。」
友人の声が低くつぶやく。

「だって・・・。」
猫の声は鼻にかかり、ねっとりとした響きを帯びる。

僕は、友人宅のドアを激しく叩く。

「開けろ!」

友人が不機嫌そうにドアを開ける。
「何だよ?」
「猫。うちの猫。返してくれないかな?」
「いいけど。こんな夜だぜ。どうかしてるよな、お前。」

友人が手渡してきた猫を、僕はしっかり抱き締めて、うちに連れ帰る。

--

「ねえ。猫?」

ナ〜。

猫は、気のない返事をしたものの、知らん顔で丸くなって寝ている。

僕は、夢でも見ていたのだろうか?

取り敢えず、いつものように僕の傍らで丸くなる猫。

「ったく、なんであんなこと言ったんだよ。」
僕は、聞いているかどうかも分からない猫の背中に向かってつぶやく。

「言わなきゃ、何も始まらないもの。」
猫の声が聞こえた気がした。


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