セクサロイドは眠らない
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2001年12月07日(金) |
私は何度も達するけれど、彼は、それでもまだ飽き足らず私を抱く。他の男性のような終わりが、彼にはない。 |
私は、一人、その場所で想う。
時間はたくさんある。誰にも邪魔されずに。
そこは、案外と暖かい。まどろむにはちょうどいい。
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恋愛と、狂気の境目というのは、気付きにくい。相手の少々行き過ぎた行為も、「私を好きだからなのね。」と思って許してしまうことがある。それくらい、愛に飢えた時代。
恋愛の狂気は、恋の才能、という捉え方もできる。目の前の恋に身を投げ出す才能。私は、その情熱に逆らえなかった。
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派遣社員として行った、その会社で、急に電話番号を手渡されて、「電話してよね。」と言われて。私はあんまり驚いて、彼を見つめた。それまで、席が近くだったけれども、ほとんど会話したことがなかったから。
「ちゃんと、電話するんだよ。」 と、念を押して、去って行く彼。
それから数週間経って、ふと思いついて電話をした。何も予定が入っていない連休を目の前にした、ある日。
「もう電話してくれないかと思ったよ。ね。なんで電話してくれたの?」 「退屈だったから。ひどく、退屈だったの。」 「そうか。理由は何でもいいや。明日。迎えに行くから。」
翌日、彼は約束の時間ぴったりにやってくる。
ほとんど知らない相手とデートするのは初めてで、私は、会話が続くかしらと心配したが、そんな心配は必要なかった。話をしてみれば、共通の話題も多く、私は時が経つのも忘れた。
「ねえ。外、歩こう。」 彼が言う。
私達は、店の外に出る。
「こうやって、手を繋いで歩きたかったんだ。」 彼の弾むような足取り。
彼の、この不思議な情熱はどこから来るのだろう?職場でもそうだった。彼だけは、何かのエネルギーに包まれているように、足取りが軽く、元気いっぱいなのである。そのエネルギーを、そばにいて感じると、私は、恋をした、というよりは、彼の一部に取り込まれて行くような気分になる。彼のエネルギーに包まれて、私も元気が出てくるというような。
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その兆候は少しずつ、現われた。
それと、情熱の境目は、ひどく見分けにくい。
彼の激しい愛撫に、私は何度も達するけれど、彼は、それでもまだ飽き足らず私を抱く。他の男性のような終わりが、彼にはない。
「ねえ・・・・。もう・・・。」 「駄目だ。もっと、一つにならなくちゃ。」 「でも、体がついていかないわ。」 「俺達、なんで出会っちゃったのかな?」 彼が、私の体を軽くつねる。彼の指の跡が、私の白い肌に赤く残る。
私は、ぐったりと横たわり、もう体を動かすこともできない。
彼は、私を幼子のようにあやし始める。口移しで水を飲ませる。冷やしたタオルで、私の体を拭いてくれる。
なんて、やさしいのだろう。
私は、疲れ切って動けない体を、彼に任せる。
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それは、一つのあやしげな宗教のように。
ある時は、私に無理難題を言って困らせる彼。私がひどく傷付いたところで、抱き締めて、優しく髪を撫でる。
ある時は、あまりにも激しく求めて来て、私を戸惑わせた挙句、許しを乞うて来る。
そうやって、彼のエネルギーに翻弄され、私は思考能力を失う。
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肉体も精神も、いつも浮遊している状態になって、私はおかしいと気付き始める。
逃げ出さなくては、と思う一方で、彼ほどの愛を手放す勇気がでない。どうしていいか分からない私は、彼の前で泣く。彼は、容赦なく私を愛する。
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そうやって。私は、結局逃げ出そうとした。一度だけ。
そう。
たった一度だけ。
彼は、その時、本当に深く絶望して、私を見つめた。
「なんでだよ?」 問い詰める彼。
「こんなの間違ってるわ。どこかおかしいもの。」 と、私。
「俺達、お互いしかいないだろう?」 彼は、私を犯すように、抱く。
彼のエネルギーに飲み込まれないようにと、必死で声を抑えながら、私は彼の悲しみを。それはどこか狂った悲しみを、それでも拒めない。
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それで?
結局、私は逃げられなかった。
暖かい土の中で、蛆が体に這うのを感じながら、私はまどろむ。
私は、本当には逃げ出したくなかったのだと思う。
あなたが連れて来てくれた、ここは暖かいよ。ここには、あなたの悲しい泣き声が聞こえてくる。私は、あなたから逃げ出さずに済んだのに、あなたはどうしてそんなに泣くのだろう?
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