セクサロイドは眠らない
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2001年12月06日(木) |
あんたは、最初から正しかった。誰にも、正しい、なんて言ってもらう必要はなかったのさ。 |
その小人は、いきなり私の部屋に入って来て、荷物をドサリとおろす。
「なによ?」 「今晩、この家に泊めてもらってもいいかな?」 「あなた、何者?」
小人は、とても醜く、痩せ細っていた。見たこともない、瞳の色。
「私は、何者でもない。旅をしている。」 「見ず知らずの人を家に入れるわけにはいかないわ。」 「でも、もう、入っちまった。」
小人はニヤニヤと笑う。
「とにかく、出てって。」 「いいじゃないか。あんた、寂しいんだろう?さっきまで、泣いてた。そういう時に一人でいるのは良くない。」 「心配してもらわなくて結構。」 「別にあんたを心配しているわけじゃない。私が心配しているのは、今夜の宿だけだ。」
小人は、荷物の中から酒瓶を取り出す。異国の酒。甘い香りが漂う。その香りが、何かとてもなつかしい気がして、私は、それを思い出そうとする。
「飲むか?」 「ええ。」
私は、グラスを二つ出してくる。
私ってば、何やってんだろう?
恋人が去った後、私は一人ではやりきれなくて。
グラスの酒は、甘い香り。なつかしいと思ったけれど、新しい味。知らぬ風景を呼び覚ます味。
小人と私は、酔っぱらって。小人は踊る。私も、踊りたくなる。小人の顔は相変わらず、醜い。
「何を泣いていたんだ?」 小人が訊ねる。
「あの人が、行ってしまったの。」 「どこに?」 「どこにも分からない場所。もう、追い掛けても、追いつけない場所。あの人は、追ってくるなと。」 「そんなに、その男が好きだったのか?」 「ええ。」
私も、いつの間にか一緒になって踊っている。
「楽しいだろう?」 「楽しいわね。」 「男なんて、たくさんいる。」 「ええ。でも、あの人は、この世でたった一人。」 「たった一人、なんだ?」 「私を分かってくれた。」 「誰にだって、お前のことくらい分かるさ。」 「あの人だけが、私を正しいと言ってくれた。だから、あの人がいる間、私は自分の正しさを信じていられたのに。」
踊りは激しくなる。
酒が体を軽くして、私は、息を切らすことなく踊ることができる。
「それは違うね。」 「なにが?」 「あんたは、最初から正しかった。誰にも、正しい、なんて言ってもらう必要はなかったのさ。」 「なら、なんでこんなに寂しいの?」 「あの男が、お前の一部を持って行っちゃったんだな。」 「一部?」
小人は、荷物から、分厚い手帳を取り出す。 「ちょうどいい。私は、喪失について。不在について。詩を書いていたところだ。」
彼は、異国の言葉で、不在についての詩を朗読する。
意味は分からないが、美しい響き。
大事なのは、与え続ける、喪失。と、小人は歌う。
「あの男は、奪うばかりだった。」 「そうかしら?あなた、彼のこと知らないくせに。」 「だけど、あんたのことは分かる。あんたは、最初から正しかった。そうして、あんたの、その欠落した部分は、美しい。前よりずっと美しいのさ。」 「口説いてるの?」 「いいや。踊ってるだけさ。一緒にね。ステップを踏む。いち。に。」
小人のステップはだんだん早くなる。
私もつられて、早くなる。
私は、何も考えなくなる。ただ、自分が解放されている感じ。
私は、唐突に、目の前の小人に抱かれたいと思った。あんなに醜いと思った顔を、激しく欲している。
彼は、私の心の中が分かったのだろうか。
「酔ってるだけさ。」 そう言って、彼は笑う。
体がフワリと浮いて、もう、足を動かす必要もないのだ。そうやって、朝まで踊る。
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目を覚ますと、小人はいない。
夢だったのかしら?と思うが、そこに、小人の残して行った手帳。空っぽの酒瓶。
手帳を開くと、異国の言葉。
意味も分からない言葉が、私に優しく語り掛けて来て、私は、以後、その手帳をたびたび開くことになる。いつも、出会う。何度も出会う。同じ言葉は、手に取るたびに、新しい響きを持ち、知らない国へと私をいざなう。
大事なのは、与え続ける、喪失。
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