セクサロイドは眠らない
MAIL
My追加
All Rights Reserved
※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →
[エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう
俺はさ、男の子だから
愛人業
DiaryINDEX|past|will
2001年12月05日(水) |
あなたといると気持ちいいから、もっとそばにいてよ、なんて、言える筈もないから。 |
職場の新人のMは、美しい顔立ちだった。性格も、明るく、周囲に気を遣う気持ちのよい青年だ。
「今日から面倒を見てやってくれ。」 と、部長のRから言われた時、私は、正直に言えば、気持ちがはずむのを感じた。
初日から、Mと、少々はしゃぎ過ぎで会話をしてしまった私に、Rからの社内メール。「今日、寄るから。」と。
「面倒だな。」と思う。
男のために、部屋着を選び、化粧を直し、シンクに溜まった食器を片付けなければならない。
来るとなると、多少気持ちは浮き立つものの、もう長いこと続いた関係は、面倒なことのほうが多くなる。それでは、なぜ、そんな関係を続けるのかと聞かれたら、私はどう答えるだろう。寂しいから。情が移ったから。今更、生活のリズムを崩すのが嫌だから。
別れてしまったら、ぽっかりと空いた時間に、「一人」を感じてしまうのが怖いから。
--
その夜のRは、なかなか帰ろうとしなかった。
「もう、帰ったら?」 と、言いたいのをこらえて、空いたグラスを満たし、氷を入れる。
化粧を落として、息がしたい。
「結婚。」 「ん?」 「おまえも、そろそろ結婚したいか?」 「なんで急に?」 「俺、お前のこと縛ってたから。」 「別に、あなたのせいじゃないわよ。」
思い違いを笑い飛ばそうとして、男の悲しげな表情に気付く。
最初の頃だけよ。あなたを狂ったように求めていたのは。でも、今はもう。
ああ。分かった。嫉妬しているのね。Mのせいだわ。じゃ、なぜあなたは、Mをわざわざ私の下につけて面倒を見るように言ったのかしらね。
--
結局、夜中の二時過ぎ、飲み過ぎて動けなくなった男を、タクシーに押し込めてようやく解放されたのだ。
仕事中、思わずアクビが出る。
Mが笑う。
「やだ。見てたの?」 私も照れ笑い。
--
「ねえ。誰かに似てると思ったら、ね。」 私は、ランチの時、Mの顔を見ながら言う。
「あなた、私の弟に似てるんだわ。」 「弟?」 「うん。顔じゃなくて、しゃべり方とか。笑い方とか。ずっと、誰に似てるんだろう、って考えてたのよ。」 「そうかあ。弟か。弟でも嬉しいや。」
私は、Mといると、弟と一緒にいるみたいに、わがままを言って困らせたくなる。
「今度、飲みに行こうよ。」 と、誘う。
「いいですよ。」 と、Mは微笑む。
--
私は、随分酔ってしまって。それでも、Mをそばに置いて、いつまでもおしゃべりしていたくなる。
ピンク・レディーのメドレーなんて、カラオケで入れて、年上の女性にソツなく接してくる男の子。
気持ちいいのだもの。
若い子前にして説教臭くなっちゃうおやじの気持ち、分かるなあ。だってね。そうやって引き止めておくしかないの。あなたといると気持ちいいから、もっとそばにいてよ、なんて、言える筈もないから。
--
酔ってふらふらする私を、Mはアパートまで送り届ける。
「上がって行く?」とは言わず、ドアの前で、握手する。
「ねえ。なんでこんなに付き合ってくれるの?」 じゃあね、と別れるのが寂しくて、訊ねてみる。
「あなたが・・・。」 「ん?」 「あなたを見てるとね。両親、仕事行っちゃって、一人ぼっちで朝食食べてる子供みたいに見えたから。」 「それって、可哀想、ってこと?」 「ううん。一緒に朝ご飯食べてあげたくなって、どうしようもなくなっちゃうっていう意味。」 「あなたって、まったく・・・。」
私は、笑い飛ばそうとして。
あれ?
あれあれ。
なんだか、涙が出て来ちゃった。
私って、可哀想だったんだ?
Mが、私の頭をそっと自分の胸に引き寄せる。まったく、近頃の男の子は、お姉さんを泣かせるのも、慰めるのも、なんて上手なんだろうと思いながら、私は、そのまま顔をうずめる。
|