セクサロイドは眠らない
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2001年12月04日(火) |
私は、まだ男に抱かれていない。私は、男が私に与えてくれそうなものを推し量っている。 |
大概の人は、恋愛に落ちるのはあっという間だと考えているが、恋の終わりはもう少しゆるやかだと考えているようだ。実際のところ、恋の始まりと同じくらい唐突に、恋は終わる。
私は、恋の賞味期限について、詳しい。
私は、死んだ恋にしがみついたりせず、恋から恋へと渡り歩く。
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私は、自分でデザインした服を売る、小さなお店を持っている。その服は、若い子には割と人気で、その地域のちょっとした流行すら生み出していた。
尽きることなく繰り出されるデザインはどこから?と聞かれて、私は迷わず答える。「恋よ。」と。
その店を持たせてくれた男のことはよく覚えている。男は、精力的で、田舎から出て来たばかりの私にたくさんのものをくれた。私は、男の家に敷かれたトラの毛皮を見て、トラに抱かれるウサギになった気分を味わった。そうして、ウサギの毛皮で作ったジャケットは飛ぶように売れた。
その男と別れたた後、私は、家具のデザインをする男が作ったドクロの背もたれを持つ椅子に座って黒い羽のついたTシャツをたくさん作った。
そうやって、何人もの男が私に何かを与えてくれた。
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そうして、また一つの恋が終わり掛けて、私は女友達を呼び出す。
「なあに?また駄目になったの?」 「ええ。まあね。」 「あんたが私を呼び出すのって、そういう時だけよね。」
私は、多少飲み過ぎているのを感じながら、曖昧に笑った。
「お店、うまくいってんの?」 友達に聞かれて、私は正直に首を振る。
「もう、男が何か持って来てくれるなんて信じるの、やめたら?」 「私が探してるのは、何かを持って来てくれる男じゃなくて、私の何かを引き出してくれる男よ。」 「じゃ、あんたに、もう引き出すものが何にもなくなっちゃったら?」 「嫌なこと言うわね。」
私は、飲み過ぎだと分かっていて、グラスをまた一息で空けてしまう。
「ねえ。あの男。」 女友達が顔を寄せて、教えてくれる。
「なに?」 「小説家よ。」 「ふうん。」 「それも、離婚歴が何度もあるのよ。」 「へえ。いいじゃない?」
私は、興味を持つ。
それから、女友達のことなど忘れて、その男の横に座る。多分、女友達は、あきれたように首を振って店を出てしまったことだろう。
「ねえ。小説家なんだって?」 「ああ。」
冴えない男。眠たそうな顔。着古したジャケット。
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「ねえ。何で離婚したの?」 「さあ。みんなどっかに行っちゃうんだよね。気付いたら。」 「それはあなたのせい?」 「そうかもね。」 「ねえ、小説家ってさあ、面白い?」 「面白いかな。どうだろう。だけど、自由だよ。」 「自由?」 「ああ。何にだってなれる。」 「うらやましいわね。」 「きみだって、幾らでも自由になれるさ。」
私は、まだ男に抱かれていない。私は、男が私に与えてくれそうなものを推し量っている。男も、私を抱こうとしない。
私の迷っている顔を見て、彼は微笑んで言った。
「ねえ。馬になろうか?」 「馬?」 「ああ。こっちにおいでよ。」
彼に連れられて、隣室に入ると、そこは草原だった。
「なんだか・・・。すごいわね。」 「すごいだろう?」 彼は、嬉しそうに笑った。
私と、彼は、栗毛色のポニーだった。
「走ってごらん?」 「ええ。」
最初は、おそるおそる。だが、すぐに馬であることに慣れた。
私と彼は、風に乗って走った。
「結構楽しいわね。」 「そうだろう?」 「どうやって、馬になることができたの?」 「小説家は、何にだってなれるんだ。雲にでも、ウサギにでも、悪魔にでも。」 「前の奥さんは?」 「鳥になって、飛んで行ってしまった。」 「その前の奥さんは?」 「魚になって、泳いで行ってしまった。」 「あなた、捨てられちゃったの?」 「いいや。みんな幸せそうだったから、僕は、それを見て嬉しかったのさ。」
私は、走りながら、今度、風をイメージした柔らかな服をデザインしてみようと考える。
それより、今はもう少し走るのを楽しんで。
私も、尽きることのない小説のように、自由になれることを知ったから。
誰かに自由にしてもらうのではなくて、自分が自由になること。それが大事なんでしょう?孤独な小説家さん。
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