セクサロイドは眠らない

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2001年12月02日(日) 明日の私を約束したなら、必ず約束を破る悲しい日が来るから。だから、私は約束が嫌い。

☆ クリスマス雑文祭参加作品 ☆

目を覚ますと、一時間十分寝過ごしていた。

やばっ。

私は飛び起きて支度する。今日はデートなのだ。息子のタクと、恋人と、三人のデート。なのに、寝過ごした。多分、恋人は「いつものことだね。」と笑い飛ばしてくれるだろうけれども。今日は私達の一足早いクリスマス。

恋人は、今日、ニューヨーク支店に旅立つ。だから、ちょっと早いけれども、私達のサンタさんになってよ、と、恋人にお願いした。

「タク、ほら、急げ!」
自分が寝過ごしたのを棚に上げて、私は息子の尻を叩く。

--

あの日。

ニューヨーク支店に転勤になった話を聞かされて。
「一緒に来てくれないかな?」
って言われた時、私は結局、断った。

彼は、少し悲しそうに黙り込んでいたけれど、
「やっぱり。」
と、うなずいた。

だから、今日が最後。恋人とは、もう、会えないかもしれない。

私の手は小さい。抱えていられるものは少ししかない。私自身と、タクと。あとは、ほんのちょっぴり。私は、私の中を埋め尽してしまうほどの愛は苦手で。少しだけ。少しだけ、ね。と。私の手の平におさまるほんのちょっぴりの分量だけを貸してくれる、優しくて強い男に甘えて来た。

「あなたのこと、忘れないわ。ずっと。」
恋人に抱かれながら、私はつぶやく。

恋人は、黙って口づける。私の言葉が嘘であることを知っていて。

恋人は、私が約束嫌いなのを知っている。約束は嫌い。息ができなくなってしまう。明日の私を約束したなら、必ず約束を破る悲しい日が来るから。だから、私は約束が嫌い。

--

恋人の家で、ダンボールのテーブルでシャンパンで乾杯。

恋人は、私とタクにプレゼントを手渡す。

私には、目覚まし時計。
「やだ。なによ、これ!」
「最後まで遅刻魔だった、きみに。」
彼は微笑む。

タクも、急いで包みを開ける。
「わー。サンタの衣装だ。」

そこには、恋人と、私と、タクの三人分のサンタの衣装。
「僕がお願いしてたの、覚えてくれたんだね?」
「そうだよ。三人でサンタになりたかったんだろう?家族みたいに。」
「うん!」

恋人とタクは、白い口髭をつける。私はキュートなワンピース姿のサンタ。まるで、どこかのイベントのコンパニオンみたいな格好だ。私達は大笑いする。いつまでも笑う。

「そろそろ、行かなくちゃ。ね。」
恋人が、言う。

「ね。空港まで、このままの格好で行かない?」
私は、寂しい気持ちを振り払うために、つい茶目っ気を出してしまう。

「このままで?」
恋人は、苦笑する。

「サンタ、さんたいがった〜い。ガキーンッ。」
タクが、私と恋人の間に入って。腕にぶらさがってくる。

空港で、みんなが私達を見ている。私達は、照れ笑いしながら、時折みんなに手を振ってサンタ・ファミリーを演じる。

「じゃあ、ね。」
ゲートで、彼を見送る。白い口髭が私の唇に触れる。

私と、タクは、飛行機が見えなくなるまで見送って、それから帰宅する。

--

「ねえ。ママ。」
「なあに?」
夜、ベッドで、タクは私に話し掛けてくる。

「僕、大きくなったら、本当のサンタになるよ。」
「そう?」
「それで、ママを幸せにする。」
「ほんとに?嬉しいわ。」
「約束だよ。」
「うん。約束。」

タクには、不思議に「約束」という言葉がすらすら言える。そう。一つだけ、絶対裏切らない永遠がここに。

タクは
「ねえ。やさしい思い出、ママ、覚えてる?」
と聞いて来た。

「やさしい思い出?」
「うん。サンタさんの思い出。」
「随分、前、タクが小さい頃の事だよね?」
「うん。あれ、パパだったんでしょう?」
「え?パパだったの?ママは本当のサンタさんかと思ってたな。」

タクは、とぼける私を見て、クスクス笑った。

「あの時ね。サンタさんが僕にだけ言ったんだ。誰とでも、簡単に約束なんかしちゃ駄目だよって。本当に好きで、大事にしたい子とだけ、約束しなさい。って。」
「へえ。そうなの?」
「うん。僕、なんとなくわかるよ。約束はね。大事な人とだけっていうの。」

私は、タクのほっぺを撫でながら、言う。
「ねえ。タク、約束ってさ、なんだかあったかいわね。」
「うん。ママもあったかいよ。」

私達は、手をつないだまま、一つのベッドで眠りに就くのだった。


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