セクサロイドは眠らない

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2001年11月15日(木) 私は、旅に出る。恋人を追い掛ける旅。あてもなく、あちらこちらとさ迷う。それから私は。

ティーンエイジャー向けの恋愛小説を書いて、「恋愛の教祖」とまで言われた私だが、ある日全く書けなくなってしまった。もう随分長いこと、恋をしていないせいじゃないかしら、と自分でも思う。最後に男と抱き合ったのはいつだったかしら。

2年目に入った年下の恋人との同棲生活は、私に安らぎをもたらすことはあっても、恋の刺激とは無縁なものだった。恋人というより、弟と言ったほうがぴったりな。

私は、それでも、書いていた。小説の中で、少年少女達は、ひっきりなしに胸をときめかせたり、泣いたり笑ったり、キスをしたりしている。そんな話いくらでも書けた。

以前は。

--

私は、眠たくなると機嫌が悪くなる。

恋人は、そんなタイミングを見計らって、いつも、暖かいホットミルクを持って来てくれる。ホットミルクを飲んだら、私は、ベッドにもぐり込む。

今日も恋人は、ホットミルクを持って来てくれて、私は、「何にも浮かばないのよ。」と散々ぐずぐず言う。「恋が何だったか分かんなくなっちゃったの。」と。

「しばらく休んだら。」
と、彼は言う。

「そうしたら、一生、何も書けなくなっちゃいそうで怖いよ。」
と、私。

誰だって書けない時はあるよ。という、彼の気休めの言葉を聞きながら、私はカップのミルクで舌が焼けるのを感じている。

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「ねえ。私達、少し離れてみない?」
私は恋人に提案する。

「いいけど、何のために?」
「私ってね。あなたに甘え過ぎてると思うの。」
「それで?」
「離れて、自分のこと見つめ直してみるわ。」
「ふむ。きみが決めたことならしょうがない。」

そうして、彼は出て行く。

ベッドはこんなに広かったかしら、と、思う。書くこともしばらく休むことにして、恋人とも離れて、私は、本当に何にも失くしちゃったのかもしれない。

街に出る。

そうして、誰かと知り合って、寝る。

だけど、それは恋じゃない。それだけは分かる。やっぱり、私は恋の神様に見放されちゃったみたいだ。

--

恋人の作ってくれたホットミルクがないと、夜も眠れない。

ようやく、そんなことに気付いて。

彼は、もう、連絡も取れない、どこか知らない場所に行ってしまった。

私は、旅に出る。恋人を追い掛ける旅。あてもなく、あちらこちらとさ迷う。

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私は、もう、ありとあらゆる場所を探し尽くして、とうとう南極にまでやって来た。たくさんのペンギンが群れを成す。私も、そこでペンギンになった。ペンギンになりたての私は、ヨチヨチと、ゆっくりしか歩けない。向こうからやってくるペンギンは。そう。恋人だ。私には分かる。並み居るペンギンの中で、唯一私を求めて、こちらに向かってくる。

「久しぶりだね。」
「うん。」
「どうしてたの?」
「恋を捜してたの。」
「で?見つかった?」
「ううん・・・。どこにも無かったわ。それでこんなところまで来ちゃった。」
「ここはいいよ。青と白と黒だけ。ややこしいものは何もない。」
「そうね。」
「おいでよ。海に飛び込むやり方、教えてあげる。」

私達は、そうやって、海に飛び込む。波は、荒いが気持ちいい。彼は、流線型の体をきれいに操って、素敵に泳ぐ。

「あなたって、ペンギン的才能があったのね。初めて知ったわ。」
「そうかい?ま、普通は、滅多に開発されない才能だからね。」
「もう一つ。」
「ん?」
「ちょうどいいタイミングでホットミルクを作る才能と。」
「ああ。きみが夜、ちゃんと眠れているか心配だったんだ。」
「帰ったら、また、小説を書くわ。」
「恋愛の?」
「さあ。分からない。長い旅の果て、幾千のペンギンの中から、たった一頭のペンギンを見つけるお話。」
「それはいい。」

だけど、私達、もしかして一生このままペンギンかもね。だったら、それもいい。

私達は、ふざけあって、もう一度海に飛び込む。


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