セクサロイドは眠らない

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2001年11月04日(日) その顔を両手で包み、今まさに口づけようとしたところで、僕は目が覚める。

「眠れるおまじない、してあげましょうか?」

その、奇妙な白黒のTシャツを着て黒い帽子をかぶった男に言われて、僕は半信半疑でうなずく。

帰りの通勤電車の中で疲れてウトウトしていた僕に突然話しかけてきた男。

「あんた、何者?」
「私ですか?私はね。カウンセラーですよ。眠れない人のためのね。」
「何で僕が不眠症だって分かる?」
「そりゃ分かりますよ。目の下の隈。だるそうな体の動き。長年、そういう人を相手に商売してきたんだから。」
「なるほど。」
「じゃ、いいですか?おまじない。」

彼は、僕の耳元で何やら呪文のようなものをささやく。

「これで今日からぐっすり眠れますから。」

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あの奇妙な男が言った通り。僕は布団に入った途端、眠れるようになった。驚きだ。あの男を見つけたら、感謝の言葉の一つも言いたいのだが、一体どこに行けば会えるのやら。

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それからというもの、ぐっすり眠った満足感で僕は元気に仕事を、と言いたいのだが、相変わらず体の疲れは取れない。しょうがないから、ますます早く床に着くようになった。

毎晩、夢を見るのだ。

それも、長くてリアルな夢を。

一晩中、夢を見る。

例えば、こんな夢。僕は勇者で、ドラゴンを倒し、美しい姫を助ける。ああ。笑わないでくれ。姫は、僕に感謝し、僕の胸に体を預けてくる。その顔を両手で包み、今まさに口づけようとしたところで、僕は目が覚める。それが夢というものだ。

それにしても、あの姫は素敵だった。もう一回、彼女が出てくる夢を見てみたいな。

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どうにも体がだるくてしょうがないので、医者に相談に行く。

「過労ですね。もっと休息を取るようにしてください。」
「なんですって?最近じゃ、一日十時間は寝るようにしてるっていうのに。」
「だが、あなたの話を聞いていると、過労としか思えないですよ。検査入院しますか?」

どうなってるんだ。

眠っても眠っても、僕の体は疲労して行く。

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夢の中で、そいつを見つける。その男を。

「おい。一体どういう事だよ?」
「ああ。すみません。手を離してくれませんかね。」
「だが、お前に眠るまじないをしてもらってから、前よりずっと疲労が激しくなってるんだ。」
「あなたは、いい夢を見ますからねえ。こちらの予想以上です。」
「何言ってるんだよ?とにかく、元に戻してくれ。」
「しょうがないですね。また眠れない日々に逆戻りですよ?」

彼は、僕に以前唱えた呪文を、逆さに言う。

夢はそこで終わった。

早朝、まだ、眠っていられる時間なのに、僕はもう眠れない。

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眠れない日々は、再び始まり、僕は通勤電車に揺られて居眠りをする。今日は、そんな僕に寄りかかって眠る女性がいた。疲れているのかな。と顔を覗きこむ。

姫!

夢の中の姫だ。僕は、慌てて彼女を揺すぶって起こす。彼女も僕に気付いて、驚いて叫ぶ。

「あなた、あの夢の!」

それから、僕達は夢の話を。あの不思議な男の話を。更に再び始まった不眠症の話を。

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僕達は、あの男に感謝しなければならないのかもしれない。今手元にある幸福は、あの男のお陰。それさえも、僕達の妄想、ただの夢かもしれない曖昧さ。

付け加えておくならば、愛しい人が傍にいれば、二人共、夜はぐっすり眠れるということ。


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