セクサロイドは眠らない

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2001年10月25日(木) 彼女は、僕の時とは違う体位で、男と絡み合っている。こんなに積極的な女だとは知らなかったな。

某月某日

「変な髭、伸びたねえ。」
彼女がセックスしながら僕に言う。

「ん?そう?」
僕は、鼻の下にぴょ−んと伸びた髭をひっぱりながら、気がなさそうに腰を動かす。

「んー。もう疲れた。体力ないのな。俺。」
「え?そうなのお?最近、イかないじゃない。」
「んん。そこまで気力が続かなくて。」
「やっぱ、仕事辞めたのがまずいの?」
「かもね。」

僕は、彼女に背を向けて寝る。

「あたし、ちょっと出てくる。」
「こんな夜に?」
「うん。なんか、まだ眠れないもん。」
「気をつけてな。」

バタンと玄関が閉まる音を聞きながら、僕は丸くなって眠る。多分、他の男のところに行くのだろう。それもいいんじゃないか?彼女が僕をここから追い出さなきゃ、何やったっていいさ。

--

某月某日

朝、起きたら、耳が頭の上に生えていた。んー。こりゃまずい。

「おはよ。あら〜。猫みたいよ。」
彼女が言う。

やっぱりまずいよなあ。でも、まあ、いいか。どこ行くわけでもないし。仕事を辞めて、彼女の部屋に転がり込んで、僕は何をするともなくここで暮らしている。彼女も僕を追い出さない。最初の頃こそ、働けだの何だのうるさかったが、もう、最近では何も言わない。夜一人で寝るのが寂しかったから、ちょうどいいんだって。

だんだんセックスもしなくなった。実は、尻のほうにはシッポも生え始めてる。

--

某月某日

僕は、とうとう、猫になってしまった。
これで、彼女の食費の負担が減って、安心だ。

--

某月某日

彼女が男を連れて来ている。前から付き合ってた恋人だろう。もう僕が猫になってしまったから、大っぴらに連れ込むというわけか。

彼女は、僕の時とは違う体位で、男と絡み合っている。こんなに積極的な女だとは知らなかったな。でも、もともと、こういう女だったのかもしれない。僕が仕事で一線級で活躍してた頃の彼女は、本当の自分が出せてなかったのかもしれない。今の彼女のほうが伸び伸びしていてずっとかわいらしい。

それにしても、わざとドアを開け放っているってことは、僕に見ていて欲しいんだろうな。見られてると、燃える?僕は、もう、猫だから人間の女には欲情しないけれどね。欲情どころか、去勢された猫という気分。だけど、希望とあれば、彼女が誰かと寝てるとこ、見ててやるよ。どっちでもかまわない。男が帰った後、彼女のベッドで丸くなって眠ることさえできればね。

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某月某日

彼女が仕事から帰って来るまで、退屈だったので外に出る。路地を歩いて、いろんな小動物を眺める。この姿で外に出るのは初めてだな。ちぎった新聞紙じゃなくて、土の上で用を足すのも初めてだ。案外楽しい。これぞ、猫という気分になれる。

何人か人がいる。中学生だろうか。僕を見つけて騒いでいる。急にしっぽを掴まれて、蹴られた。目から火花が出るというのはこのことか。痛い。しっぽが切り落とされた。痛い痛い。何やら玉の出る道具で打たれたり。さんざんな目にあって、放り出された。

雨が降って来たが、動けない。

猫でいるのも、案外辛い。

このまま彼女の部屋には戻れないのだろうか。

彼女の部屋で、僕は、彼女の膝で喉を鳴らして、目を閉じていたい。今の希望はそれだけだ。僕は、猫になれて、本当に幸せだった。

雨がやんだら、彼女が捜しに来てくれるとちょっと嬉しい。

おやすみ。


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