セクサロイドは眠らない
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2001年10月24日(水) |
ねえ。少しあなたのそばにいていい?と彼女が僕の冷たい体に身を寄せてくるから。 |
僕は歌を歌う人形。そんな風に作られた。
呼ばれれば、出向いて行って、歌を歌う。聞いた人は、みんな涙を流す。素晴らしい歌声だと言う。最初から、人の心を揺さぶる声と旋律をプログラムされただけの人形なのに。それなのに、みな、泣く。
「感動したわ。」 「素晴らしかったよ。」
僕が歌い終わると、みんな僕の手を握り、感謝の言葉を述べる。
泣くことは気持ちいいのだろうか。だから、みんな僕の歌をこぞって聴きたがる。涙を流した後は、人々は、何かが洗い流されたようにさっぱりした表情で、笑顔すら見せて僕を見送る。計算された声と旋律で、泣いたり笑ったり。人は何と単純なのだろう。
僕がやっていることは感動の安売り。
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その女性の家に、何度出向いたことだろう。いつもいつも、呼ばれて、僕は彼女のために歌を歌う。悲しそうな眼をして、ハンカチを握り、僕が歌い終わるといつも涙を一筋こぼす。
「おかしいわね。どうしてかしら。いつも、最後の部分で涙が出ちゃうの。」 彼女は、慌てて、涙を拭く。 「そのうち、あなたの歌声に慣れて、泣かなくなる日が来ると思ってたのに、その日はなかなか来ない。」
「ねえ。お人形さん。あなたの声はどうしてこんなに心を揺さぶるのかしら?」 「泣かせているのは、僕の声じゃない。あなたの心が泣きたがっているのですよ。」 「どうして分かるのかしら?不思議ね。心も読めるお人形さん。」
ねえ。少しあなたのそばにいていい?
と彼女が僕の冷たい体に身を寄せてくるから。彼女は小さなため息をついて、僕の歯車の鼓動に耳を澄ませている。彼女の体温のせいで、僕の体までが少し温まった気がした。
他の人みたいに、あなたが僕の歌声で、涙だけじゃなくて笑顔を見せてくれる日が来るといい。僕は人形だから涙を流さないけれど、涙には悲しい涙と嬉しい涙があることは分かる。でも、僕にはどちらもキラキラと素晴らしく輝いて見えるけれども。
「ありがとうね。お人形さん。来週もまた来てくださるかしら?」
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その日も、僕は彼女の部屋をノックする。
返事はない。
僕は部屋に入る。
彼女は眠っている。
時間が来ると僕は歌い出す。いつもの恋の歌を。魂を震わせる歌を。
彼女は僕が歌い終わっても、起きなかった。
僕の歌を最後まで泣かずに聴いたのは初めてですね。
彼女は人形のように冷たく、動かない。
あなたにとって、泣くことは辛かったですか?それでも、僕は、涙を流す人間がうらやましい。この空っぽの体が涙を流すことができるなら、どんなにいいかと。人形がそんな願いを持つのは変ですよね。
まだ、あなたは眠っている。もう一曲。今日はいつも歌ったことのない歌を。心が安らかに眠ることができる歌を歌ってみましょうか。
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