セクサロイドは眠らない

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2001年09月21日(金) 何度も何度もキスをしてくる。これから?これからどうなるの?服を脱ぐ?ねえ。待って。お願い。

2時間目の授業が始まる前、ノリコがそっと耳にささやいた。

「昨日、やっちゃった。」
「え?」
「うん。彼と。」
ノリコは、嬉しそうに笑っている。

「良かったじゃん。で?どうだった?」
「う〜んっと。そんな気持ちいいもんじゃないよ。」

チャイムが鳴る。

「あとで聞いてねっ。」
「うん。」

中学の頃からずっと一緒のクラスで、高校に入っても親友であるノリコとは、初体験を済ませることが結構大きな関心事だった。

うらやましい?ええ。うらやましい。
こわい?ええ。こわい。

セックスってそんなにすてきかな?あの興奮より、もっとドキドキするかな?

--

「ただいま。」
返事はない。

ママからの留守電。今日は仕事で遅くなる・・・、か・・・。

パパとママが離婚してから、私はますますママとは会話しなくなった。空想好きで気の弱いパパと、想像力のかけらもない気の強いママ。ママはいつも仕事が忙しく家ではいつも疲れていた。だから、私はパパと過ごす時間のほうがずっと長かった。

子供の頃、パパといつもやっていた遊びを思い出す。

パパが目隠ししてくれる。

そうやって始まる空想ごっこ。

「ミイヤは、さて、今日は何になる?」
「んーっと。鳥さんになります。」
「じゃ、ミイヤは可愛い鳥さんだ。空は広くて、ミイヤは、その中をいろんなところに遊びに行きます。あ。雨だ。大きな黒い黒い雲が近付いてくるよ。どうする?ミイヤ?」
「えっとね。雨は、ミイヤのそばでは、綿菓子になります。ぴんく色のふわふわした綿菓子です。」
「それは素敵だ。」
「ミイヤは、それを食べたら、お腹が空きません。」

パパは、目隠しした私を膝に乗せて。時には、抱き上げてくるくる回って。時にはキャンディをそっと口に入れてくれて。そっとほっぺにキスしてくれて。

そんな時、急に帰って来たママは、私とパパがはしゃいでるのを見ると、ふん、と鼻を鳴らして、自室にこもってしまう。

ママも一緒に遊べばいいのに。

ママは疲れてるんだよ。邪魔しちゃいけないよ。

今思えば、パパは、ママと一緒に遊びたくなかったんだろうな。パパは私といる時だけが幸せそうだった。長い長い話し合いの末、うちを出て行くことになったパパは、ものすごく悲しそうな顔をして私を抱き締めた。その時、中学生になっていた私は、まだ、時折パパと空想遊びをしていた。奇妙な親子だったかもしれないけれど、私は目隠しして空想遊びをする時、なんだかドキドキして、不思議に興奮していたのだ。

だけど、パパに最後に抱き締められた時。目隠しなんかせず、玄関口で、目を少し赤くしたパパに抱き締められた時。悪いけど、パパなんかに抱き締められるのはちょっと気持ち悪いと思った。だから、私は泣かずに、少々の荷物を積んだトラックに乗り込んだパパを見送った。

--

「今日、うち来る?」
シンジが私に言う。

「え?シンジのお母さんは?」
「いないんだ。ばあちゃんち行って遅くなるって。だから来いよ。」
「うん。」

とうとう。かな?

シンジの部屋は、男の子の匂いがして、私はドキリとする。シンジは、部屋に入るなり、抱きすくめてくる。私をベッドに座らせると、シンジは、何度も何度もキスをしてくる。これから?これからどうなるの?服を脱ぐ?ねえ。待って。お願い。

「いいんだろ?」
「ええ。でも。」
「でも?」
「怖い。」
「大丈夫。」
「お願いがあるの。」
「なに?」
「あのね。目隠しして。」
「目隠し?」

シンジは、少し驚いた顔で私を見る。

ええ。そうよ。目隠しせずに抱き合うなんて、ソックスはいたままセックスするよりもっと恥ずかしい気がするの。だから、お願い。


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