セクサロイドは眠らない

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2001年09月19日(水) ああ。だが、その瞬間。僕は興奮して、背筋がぞくぞくしたよ。下半身が熱くなり、その興奮はいつまでも体に残った。

僕は、もう随分長いこと寝たきりですっかり退屈している。5歳の時、手足の筋肉がちょっとずつ萎えていく病気になってから、もう10年が経った。まだ、手は動くから、自分で本を読んだり、絵を描いたり。でも、手だって、少しずつ動きが鈍くなっているのが分かる。そのうち、手足がダラリとした人形みたいになっちゃうんだ。怖いかって?ああ。怖い。自分で自分の欲望を満たすことすらできない。どんなに怖くたって、自分の足で逃げ出すことすらできないんだ。そうやって、何年も掛けて僕は死んで行く。

僕の世話は、ドールがする。メイド型のロボットだ。僕は、この人形を見るとイライラする。人形でさえ、僕なんかよりずっと自由だ。10年前に僕の世話をするために連れて来られてから、10年。僕は、随分とこの人形にひどい言葉を投げつけて来た。それでも、人形だから。何も感じない人形だから。僕が気に掛けることですら、ない。

庭に猫が迷い込んだ。まだ、産まれて間がないのだろうか。小さな声で「ミウ、ミウ」と鳴いている。

僕は、ドールに言う。

「あの猫、連れて来てくれないかな?」
「はい。ご主人さま。」

ドールは、間もなくその小さな震える生き物を抱えてくる。ドールに命じて、ミルクと、毛布を持ってこさせる。ダンボールに入れた子猫はブルブルと震えて警戒している。

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それから、僕は、子猫と遊ぶようになった。いや。本当のところはいじめてるんだ。猫の足を押さえて動けなくする遊びをしているうちに、猫の足が折れてしまい動けなくなってしまった。可哀想に。これは、僕だ。動けなくなった僕。

なんて、嘘。

僕は、可哀想だなんてこれっぽちも思わなかった。ああ。だが、その瞬間。猫がギャッと悲鳴をあげた瞬間。僕は興奮して、背筋がぞくぞくしたよ。動かぬ下半身が熱くなり、その興奮はいつまでも体に残った。

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僕は、ドールを呼ぶ。

「ご用は何ですか?」
「この猫、殺してくれないかな。」
「コロス?」
「ああ。ナイフで、切り刻んで欲しい。猫が苦しむのを見てみたいんだよ。」
「できませんわ。」
「どうして?」
「ドールは、命を奪ってはいけません。そう作られているのです。」
「だけど、これは命令だよ。」
「ドールは、命を奪ってはいけません。」
「言うことを聞かないやつだな。お前なんかスクラップにしてやる。」

僕は、イライラして、猫を捨ててくるように命ずる。こんな猫、外に放り出したらあっという間に死んでしまうのに。

ドールは、子猫を抱えて、静かに部屋を出て行く。

--

それから数日、僕は気がふさいで、何もできない。誰とも口をきかない。僕はどこかに行きたい。僕が本当の僕になれる世界へ。

「お食事をおもちしました。」
「ねえ。」
「はい。ご主人様。」
「僕をこのナイフで切ってみてくれないか?」
「ドールは人を傷付けることはできません。」
「ちょっとだけなんだよ。」
「ドールは人を傷付けることはできません。」
「命令だよ。」
「ドールは人を傷付けることはできません。」

僕は泣き出す。こうやって少しずつ死んで行くのを待つばかりなんていやだ。切り刻んで。僕を殺して。僕は、どうせ痛みなんか感じやしない。ただの人形同然なんだ。

「ドールは人を傷付けることはできません。」

うるさい。うるさい。うるさい。

--

僕は、ママを呼ぶ。

「ねえ。あのドール、もう古いだろう。ちっとも言うことを聞かないんだ。だから新しいのを買ってちょうだいよ。新しいのは、絶対、僕の言うことに服従するやつにして。おねがいだよ。言うことを聞かない人形にはうんざりだ。」


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