セクサロイドは眠らない
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2001年09月18日(火) |
女の乳房を掴む。肩に歯をくいこませる。女はうめく。たわわで美しい乳房が体に踊る。 |
その素晴らしい庭園には、鯉がおり、美しい白銀の背中を見せて流線を描く。
私がその屋敷に連れてこられたのは、そこの主人の花嫁として所望されたからだと聞いた。屋敷の主人は、鯉を飼うのが道楽で、彼が育てた鯉は幾つのもの品評会で賞を取るほど素晴らしい。
小さな村で、両親を亡くし、老いた祖母と暮らしている、15になろうかという私の噂をどこでどう聞きつけたか、その屋敷の者が私を迎えに来た。村の者は厄介払いができるとほっとして私を送り出した。
主人はやさしい人だった。ただ、美しい着物を着せてくれ、栄養のあるものを食べさせてくれ、よく干されたあたたかい布団で寝かせてくれた。花嫁になるまでの日々は好きなように過ごしなさいと、そう言い渡されただけだった。
私は、主人がどんな人か知らないまま、やさしくてあたたかくて大きな、その人の花嫁となって抱かれる日を夢みて、毎日のんびりと過ごした。
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ある日のこと、私は主人に呼ばれて、庭に出る。
「ごらん。あの鯉が私の自慢の鯉だよ。」 「きれいです。」 「そうだ。あれは、私が手がけた中でも一番の鯉だ。」
主人は、目を細め、その鯉の姿を飽きずに一心に見つめる。鯉も時折、主人のほうに向かい合っては、尻尾をひるがえし、その白銀の体をきらめかせて池の中を軽やかに泳ぐ。まるで、こちらにいらっしゃいよ、と誘ってくるように、何度もこちらのほうを見る。
随分長い時間が経った。主人はまだ飽きずに見ている。
「あの。旦那様。」
はっと我に返り、主人は、私のほうを見る。 「ああ。すまない。実は、お前に、この鯉の世話を頼みたいのだ。餌をやってくれればいい。日に一度。早朝に。餌は、屋敷の者に用意させるから。」 「はい。」 「もう、自分の部屋に下がっていなさい。」 「はい。」
最後にその鯉を見た時、鯉は銀ではなく深紅に見えた。血が広がっているのかと思った。はっとした瞬間、また元の色に戻る。
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鯉の餌は、器に入れて置かれていた。
血に浸かった肉片だった。私は、驚いて鼻をつまみ、肉を池に放りこみ、屋敷に逃げ戻る。
「あれはなんですか?」 後で聞くと、主人は、 「ああ。イノシシの肉だよ。」 「イノシシの肉なんか、鯉が食べるんですか?」 「ああ。あれはわがままで貪欲なタチでね。」
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ある夜。
池の水音が聞こえて目が覚める。
私は、部屋を出て、庭のほうに目を凝らす。
そこに、水に濡れそぼった女。美しい黒髪。白く透き通るような裸身。体中の水滴が、月の光りにキラキラと輝く。主人の部屋のふすまがそっと開き、女は入って行く。私は慌てて、主人の部屋の前まで行き、細く開いたふすまから中を覗く。
「ああ。私の女。ようやく満月の夜が来た。」 「ええ。私も待ちくたびれましたわ。」 「さあ。私に体を見せておくれ。」 「はい。」 「また、美しくなった。幾人もの女達の血がお前を美しくする。」 「はやく、あの愛らしい花嫁の体も食べとうございますわ。」 「はは。待て待て。」
主人は、濡れた女の体の水滴をふき取ろうともせず、女の乳房を掴む。肩に歯をくいこませる。女はうめく。華奢な体に不自然なくらいたわわで美しい乳房が体に踊る。
私は、食べられてしまう。早く逃げようにも、私は腰が抜けてそこから動かない。ただ、主人と、その不思議な女との狂態から目を離すことができない。
まぶたの裏で、キラキラと、水滴が?うろこの銀が?踊る。はねる。私は意識を失う。
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目が覚めると、布団に寝かされており、主人がそばに座っていた。
「気がついたか。」 「はい。」 「見たのだな。」 「ええ。」 「素晴らしいだろう?」 「え?」 「あの女さ。」 「怖いです。」 「そうか。」 「ええ。とても。だって、あれは人間ではありません。」 「そうだな。」 「私も食べられるのですか?」 「ああ。あれに所望されて、お前はあれの体内に入る。」 「嫌です。」 「どうしてだ?」
主人は信じられぬという顔で私を見つめる。
「あれは、素晴らしい。永遠の命。この世のものでない美貌。私もあれに望まれてあれに食われてみたい。だが、あれは若くて美しい女の体にしか興味がない。私は望まれぬ人間だ。なんとひどいことだろう。私は、このまま老いてゆく。あの美しい鯉に取りこまれて永遠にいられるのなら、何と素晴らしいことか知れぬのに。」
主人は、悲しそうに体を震わせる。
ここを出たところで、身寄りのない私にどんな人生が待っているのだろう。
私は、きらめく白銀の尻尾を思い出し、泣き咽ぶ主人の血管の浮いた手に、そっと手を重ねる。
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