セクサロイドは眠らない
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2001年09月14日(金) |
会ってきみを抱きたい。きみを抱いた記憶を想うと、僕の体は熱くなって夜も眠れない。 |
「ねえ。あなた。起きて。起きてったら。」 「ん・・・?なんだ?」 「眠れなくて。」
私は、連日、急に入院してしまった部長の担当物件まで抱え込んでくたくただった。ふと見ると妻は泣いている。
「どうしたんだ?いったい?」 「ねえ。あなた、今日遅くなったのだって、誰かと会ってたんでしょう?」 「何言ってるんだ?仕事だって言ってるだろう?」 「嘘よ。」 「嘘じゃない。仕事だ。電話でもそう伝えたろう。今、部長が入院して大変な時なんだよ。」 「本当に?」 「ああ。本当だ。頼むから職場に何度も電話するのはやめてくれないか。」
妻は激しく泣き出す。
私はうんざりして、夫婦の寝室を出て隣室のソファで寝ることにする。妻のすすり泣く声がいつまでも聞こえてくる。
半年くらい前からだろうか。妻は、私が浮気をしているんじゃないかと疑い、しつこく責めるようになった。誓ってもいいが、私は、結婚して以来浮気などしていない。子供を流産したショックからだろう、と、妻のかかりつけの医師は言う。私が仕事に追われているのも悪いのだ。高層マンションの17階の部屋で、妻は、たった一人で過ごしているうちにどこか心のバランスを崩してしまった。
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今日は結婚記念日だ。妻が先日買ってくれた新しいネクタイを締める。今日は少し仕事を早めに切り上げて一緒に食事にでも行けば妻も喜ぶだろう。何より、妻は一人でいるのが良くないのだ。何か趣味でも持ってくれればいいのだが。
階下に下りると、妻が奇妙な顔をして、私をじっと見る。
「どうした?」 「そのネクタイ・・・。」 「ああ。きみが買ってくれたヤツだよ。素敵だ。秋物のスーツにぴったりだよ。」 「そのネクタイ。どうして?どうして今日に限って新しいネクタイをするの?」 「おい、忘れたのかい?今日は結婚記念日だろう?」 「ねえ。どうして新しいのなんかするの?誰かと会うんでしょう?」 「何言ってるんだよ。」 「ひどい・・・。」 「おい。聞けよ。今日は、きみと私が結婚した記念日だ。だから、きみと食事にでも行こうと思って。」 「もう、言い訳はうんざりだわ。」 「何言ってるんだよ?」
妻は、また泣き出す。私も、さすがにカッとなって声を荒げる。やってもいない罪を責められるのは、こっちだってうんざりだ。
「いい加減にしてくれ。私だって男だ。たまにはそんなことがあってもしょうがないだろう。そんなことでいちいち大騒ぎするな。」
「やっぱり・・・。やっぱり、そうだったのね・・・。」 妻の目に絶望の色が浮かぶ。
それから、急に窓に走り寄り、開け放たれた窓からベランダの手すりを乗り越えてしまった。
「おいっ。キミエっ!」
一体どういうことだ?
何がきみをそこまで追い詰めた?
僕は、しばらくボンヤリとそこに立ち尽くしていた。
どれくらいの時間が経ったろう。電話が鳴り響いている。私は、フラフラと電話の側に行き受話器を取る。
「もしもし?キミエ?」 やさしい男の声。妻の名を親しげに呼んでいる。
「キミエ、まだ怒ってるかい?本当にごめん。きみが僕に会いたくないのは分かってる。だけど、僕にはきみしかいないんだよ。きみと会えないと寂しくておかしくなりそうだ。お願いだから、もう一度会ってくれないだろうか?会ってきみを抱きたい。きみを抱いた記憶を想うと、僕の体は熱くなって夜も眠れない。妻とは離婚する。お腹の子供だって、始末させるから。だから。お願いだよ。キミエ?キミエ、聞いてる?」
この男は何を言っているのだろう?
妻は、私のいない昼間、どのように過ごしていたのだろう?
私は、妻のことを何も知ってはいなかったのだ。
私は黙って受話器を置く。
遠くで救急車のサイレンが鳴る。
ドアの外も騒がしくなって来た。
私は、ネクタイを緩め、ソファに腰を下した。
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