セクサロイドは眠らない

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2001年09月13日(木) ねえ。入って来て。私を壊して。あなたのあたたかいものを私に注いで。そうして、本当の人間にして。

最初に彼に会った時から、彼だと思った。

彼もそう思ったはずだ。

私は美しいから。そうして、陶器の人形作家である彼が創り出す人形のように繊細だから。

そうして、私達は会った瞬間から惹かれ合った。

彼の指が、私の絹糸のような、柔らかく、細い髪の毛を梳く。

「きれいだ。」
「ええ。」
「きみは、僕が思い描いていた理想の女だ。」
「私も、あなたが大好き。あなたに愛されるために生まれて来たのよ。」

そうやって出会った私達だけれども、彼には長年付き合っている女性がいて。

その女は醜い。むっちりと体全体に肉がつき、胸もお尻も大きい。髪の毛は黒々と、赤い口紅をしっかり塗った口は大きく、生命力のかたまりのような女。彼が好きなのはそんな女じゃない。はかなくて、繊細なのが彼の理想の女なのだ。そう、まさに私のように。

それなのに、彼は女と別れようとしない。そうして、彼女に申し訳ないからと、私を抱こうともしない。

「ごめんよ。本当は、彼女なんかより、きみのほうがずっと素敵なのに。あの女は、僕の保護者気取りで困っちゃうんだ。」
「いいのよ。私、ずっと待っているわ。」

そう。指すら触れ合わない恋。

彼だって苦悩しているのだ。

--

その日も、彼のアトリエを訪ねる。

ドアの隙間からのぞくと、絡み合うあの女と彼。女は、豚のように鼻を鳴らして、彼を食べてしまいそうな勢いでのしかかっている。

それから、彼女の声ばかりが響くおしゃべりをひとしきり交わしたあと、彼女は彼の洗濯物を抱えて帰って行く。

私は、涙に濡れた目で、彼のアトリエに入って行く。

「見てたのか。」
「ええ。ごめんなさい。」
「すまない。」
「いいえ。いいの。」
「あの女は、勝手にここに来て・・・。」
「ねえ。私を抱いて。」

私は、泣きながら服を脱ぐ。

「やめなさい。僕なんかのために、そんなこと。」
「いいえ。私は、あなたに愛してもらわないと生きている意味がないの。陸に上がった人魚姫のように、泡になってしまうわ。」

彼は、私の細い肩を抱き締める。そうして、じっと私の裸の背中をさする。

「きみの体は冷たいね。」
「ええ。あたためて。」

彼は、そうっと、私のひたいに口づける。

「きみの中に入ったら壊れそうだ。」
「ねえ。入って来て。私を壊して。あなたのあたたかいものを私に注いで。そうして、本当の人間にして。」

だが、だめなのだ。

彼は勃起しない。

「ごめん。きみの事、嫌いじゃないんだが。なんというか。きみには何かが足らない。生きている証というか。」
「あの女には、それがあるの?」
「ああ。」
「ねえ。お願いだから私のことを愛していると言って。」
「ごめんよ。」

私は、悲鳴をあげて、その場にこなごなに砕け散る。

--

男は、足元に散らばる陶器の破片を拾いあげた。

自分の創る人形に何が足らないのか分かった気がした。

そうして、新しい人形のデザインは、今までよりもっと力強く、あたたかいものになるだろうと思った。


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