セクサロイドは眠らない

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2001年09月12日(水) 私は、言われるままに、鎖のついた足枷を自分の足につける。

その、私がメイドとして連れて来られた時、その屋敷は随分荒れていた。屋敷の主人は、頑固で、偏屈で、横暴なので、使用人は長続きしなかった。

「お前みたいな人形に、私の世話が出来るというのか?」
「はい。ご主人様。」
「みんな、そうやって最初は返事だけはいいのだがな。私がちょっと怒鳴ると、すぐ暇を取って逃げ出してしまうんだよ。」
「私は、一生お仕えしますわ。」
「当たり前だ。」

ご主人様は、私の顔をしげしげと眺める。

「お前は、亡くなった妻に似ている。妻も、お前のように従順で、美しかった。」
「ありがとうございます。」
「だが、ある日、私を置いて逃げようとした。お前は逃げないだろうな。」
「私は、一生貴方様にお仕えするのが仕事ですわ。」
「分かった。下がっていい。」
「はい。」

私は、その古ぼけた屋敷に元の美しさを取り戻そうと、掃除をし、庭の雑草をむしる。屋敷には、ご主人様と、食事を作る老婆と、私だけだ。老婆は、何を聞いても一言もしゃべらない。

「ご主人様、お茶が入りましたわ。」

ある夜、ご主人様の部屋を訪ねると、ご主人様はいない。その書棚をずらしたところにある隠し扉から、地下への階段が続く。私は、ご主人様を探して、地下に下りる。

「ご主人様?」

目をギラギラとさせたご主人様が振り向く。

その地下の部屋には古ぼけたベッドの上の白骨死体。長いこと封じ込まれていた異臭。床を這う鎖。

「なぜ、ここに来た?」
「貴方様を探して。」
「早く出て行け。」
「かしこまりました。」

--

もう、随分長い年月が過ぎた。

老婆は、ある日、静かに眠ったように死んでいた。私は、主人に言われて、庭に穴を掘り、老婆を埋めた。

「もう、お前と二人きりになってしまったな。」
「はい。ご主人様。」
「お前に頼みがある。」
「はい。ご主人様。」
「私が、もし、病気になったりしたら、あの、地下の部屋に連れて下りてくれないか。」
「はい。ご主人様。」

--

ある夜、ご主人様は、急に胸を押さえて、床にくずおれる。

意識はあるが、体が自由に動かないご主人様を抱えて、私は地下に下りる。

そのベッドの白骨の側にご主人様を横たえる。

呂律の回らない舌で、私に命ずる。
「その、足枷をはめろ。」

私は、言われるままに、鎖のついた足枷を自分の足につける。

「お前は、決してここを出るな。私の側にずっといるんだ。」
「はい。ご主人様。」
「頼む。どこにもいかないでくれ。」
「はい。ご主人様。」

ここには、水も食べ物もない。

ご主人様は、衰弱して、ある日、動かなくなる。

私は、ご主人様と奥様が並んで眠るベッドの側で、鎖に繋がれたまま、座り続ける。

ご主人様の肉体が朽ちて行くのを眺めながら。

何ヶ月も。何年も。


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