セクサロイドは眠らない
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2001年09月02日(日) |
僕は、僕のために流された涙がいとおしく、彼女の恥らう肉体を愛撫する。 |
病院のベッドで、絵を書く、その人。
長く編んだ髪の毛を垂らし、子供のような幼い絵を書き、僕に見せてにっこりと笑う。
「この、え、どうお?」 と、子供のように聞いてくる。
僕は、悲しくなって、彼女の手を握る。
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僕は、年上の人妻に恋をしていて、それはもう、随分と長い歳月だった。だが、僕にも大学の頃知り合った恋人がいて、その恋人とも別れられないまま、ズルズルと付き合っていた。
美しい、どこかの男と一緒に暮らしている、その人。僕は、初めて会った時から彼女に恋をして、その姿、育ちの良さ、一途でまっすぐな性格。何もかもを愛した。
彼女との恋は、平坦ではなく、別れの危機はしょっちゅう訪れた。僕は彼女の夫に、彼女は僕の恋人に、激しく嫉妬した。僕も、彼女も、捨てられないものを抱えたまま、今いる場所を動こうとせず、そうして、互いのずるさをむさぼり合った。
「ねえ。」 僕に抱かれながら、彼女が話し掛ける。
「なに?」 「私なんかで、ごめんね。」 「なんで?」 「あなたの素敵な恋人みたいに、若く、美しくない。」 「何を言っているの?」 「ごめんね。」
彼女の目から一筋の涙。僕は、僕のために流された涙がいとおしく、彼女の恥らう肉体を愛撫する。
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ある時など、彼女と会えない日々が続き、僕はかなりまいっていた。彼女の娘が怪我をした、と言うのだ。病院の公衆電話から、深夜電話をしてくる彼女に、僕は会えない辛さからさんざんわがままを言った。
途端に、彼女の言葉が途切れる。
僕は焦る。
「もしもし?」
しばしの沈黙のあと、彼女の声。 「ごめんなさい。」 そうして電話が切れた。
僕は、何を言っているのだろう。なぜ、大好きな人を追い詰めてしまうのだろう。それから、酒を飲んで考える。彼女のずるさを。僕のずるさを。
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彼女の娘が退院して、彼女に久しぶりに会えるというので、僕はその日の朝からたとえようもなく幸福だった。
その日僕の部屋を訪ねて来た彼女は、どこか奇妙で、目が虚ろだった。
疲れているのだと思った。
「大丈夫?」 「ええ。」 「実は、僕、打ち明けたいことがあるんだ。」 「なあに?嫌な話ならよしてちょうだい。おねがい。」 「いや。いい話。僕ね。実は恋人と別れたんだよ。」
彼女は、目を見開く。 「どういうこと?」 「僕、きみがいいんだ。だから、恋人との関係は終わりにした。長いことごめん。でも、会えない間思ってたんだ。僕にはきみが一番大事だと。」
「どうして?なんでそんなこと?」 あまり喜ばない彼女に、僕の心はしぼむ。
彼女は突然、泣き出す。
「私、あなたの恋人に嫉妬していた。ずっとコンプレックスを抱えて。つらくて。ダイエットもしたし、若く見える洋服も買った。髪の色だって染めたし、あなたの興味がありそうなことは何でも調べた。でも、子供がいて、若くもなく、生活に疲れている女だもの。どうしたって、あなたの恋人には勝てないと。」 「そんなこと気にしなくたって良かったのに。きみは僕の女神だ。きみは誰にもコンプレックスなんか持たなくていいんだよ。」 「あなた、分かってないわ。コンプレックスも感じない相手と、どうやって恋ができるの?セックスができるの?」
僕には、彼女が何を言っているのか理解できなかった。
恋人と別れたのがまずかったのだろうか?
彼女は、泣き止まない。
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夜中、帰りたがらない彼女が眠りについたのを見守っていると、誰かが来る。
ドアを開けると、数人の警官の姿。
娘を殺した女を捜している彼ら。
僕がうなずくと、彼らは僕の部屋に上がりこみ、彼女を揺すって起こそうとするが、彼女はいつまでもいつまでも、死んだように眠り続けている。
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