セクサロイドは眠らない
MAIL
My追加
All Rights Reserved
※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →
[エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう
俺はさ、男の子だから
愛人業
DiaryINDEX|past|will
2001年09月01日(土) |
彼の、その、固くなったものに貫かれながら、視線を感じる。 |
その富豪の花嫁になった時、私はまだ16歳で、何も知らぬまま、ただ、所望されて屋敷に入った。夫は、50歳を過ぎていて、私は、恋も分からぬまま彼に抱かれた。
まだ、ほんの子供で、実家を想っては泣き、友達と遊びたいと言っては泣いていた。だが、夫は決して、私を屋敷の外には出してくれなかった。夫はたくさんの人形や、挿絵の入った本をあてがい、子供のように可愛がってはくれるものの、私は、いつもどこか不満をくすぶらせていた。恋というものがどういうものか分からなくても、体の内側からふと突き上げてくるもの悲しい気分にとらわれ、見知らぬ誰かを夢想して、じりじりとすることはしょっちゅうだった。
17歳になった時、私の遊び相手に、と、夫はドールを買い与えてくれた。メイドとして連れてこられたその美しいドールは、私の話し相手になってくれたし、本を読んでくれた。私は、姉のようにドールを慕った。
「ねえ。」 「なんですか?奥様。」 「恋ってなあに?本に載っていたわ。恋って何なのかしら?」 「誰かを想う心ですわ。」 「ねえ。あなたは恋をしたことがある?」 「ありません。ドールは恋をしません。」 「ねえ。恋って何かしら?私にも、いつかすることはできるかしら?」 「奥様は旦那さまに恋をなさっていますわ。」
違う。違う。私は、夫になど恋をしていない。いくら、私が子供だからといっても、それくらいは分かる。
--
そうやって、子供の心のまま、私はその屋敷に閉じ込められ、10年が過ぎて行った。私は、見た目ばかりは分別のある女の顔になり、ドールは相変わらず美しい少女の姿のままだった。
出入りの家具屋の跡継ぎの青年が老いた彼の父の代わりに挨拶に来たのは、その秋のことだった。
その青年の姿に、私は胸が高鳴った。
「ねえ。ベッドが欲しいの。今のは、寝ている時もきしんで、うるさいわ。」 「好きにしたらよかろう。」
夫の許しが出ると、私は、すぐさま家具屋の青年を呼び、ベッドのことをあれこれ訊ねた。
そうして。
初めて手にした恋に私は夢中になった。夫の留守中に新しいベッドで、私は服を脱いだ。青年は、美しく張りつめた肌で、私の体を抱いた。彼の不器用で思いやりの少ないセックスですら、夫のそれにくらべると新鮮で、私はすぐさまそれに溺れた。
何度も。何度も。
ドールが見ている。その、冷たい目で。彼と私が交わるところをじっと。私は、家具屋の青年の、その、固くなったものに貫かれながら、ドールの視線を感じる。
--
「奥様。」 「え?なあに?」 「私、奥様より、美しいですわ。」 「突然、何を言うの?」 「奥様はこのまま老いて行きます。私は、ずっと美しいままですわ。」 「当たり前じゃない?」 「奥様は何もお知りになりません。」 「なんのこと?」 「家具屋のあの青年が、奥様からもらったお金で、若い美しい恋人にプレゼントを買ってあげていることも。」 「なあに?どういうこと?」 「奥様は、何もお知りにならない、ということです。」
私は、頭に血がのぼり、ドールが口にしたことの意味を考える。
「旦那さまだって、私のほうがいいとおっしゃいます。奥様はどんどん老いて、そうして私は美しい。」
何を言っているの?
なんで、突然、そんな。
私は、そばにあった椅子を掴むと、自分でもびっくりするくらいの力で、ドールを打ち据える。ガツン、ガツンと音がして、ドールの体が壊れて行く。私は、自分でも気付かないまま、涙を流しながら。
「奥様、あなたは何も知らない。知らない。知ら・・ない・・・。シラ・・・。」
--
ドアの隙間から妻の姿を見ていた夫は、静かにそこを立ち去る。
彼は、もう、自分が長くないことを知っている。
その目は、ドールのそれのように、空虚だ。
|