セクサロイドは眠らない
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2001年08月31日(金) |
僕にはどうにもできない。この欲望から目をそらすことも、彼女への愛を絶ち切ることも。 |
彼と私は、放火仲間、とでも言ったらいいのだろうか。いや。正確には、私は彼の放火のファンと言ったほうがいいだろう。平凡な女子高校生の私にとって、彼との出会いは強烈だった。
最初に出会ったのは、私が、中学2年の頃。門限を過ぎた事で父に叱られ、勢いで家を飛び出してうろついていると、路地のほうから声が上がり、火災が発生したことを知った。私は、好奇心と人恋しさからフラフラと人の声がするほうに歩いて行った。
そこで初めて彼に出会った。
私には一目で、彼が火をつけたのだと分かった。
一人の青年が、少し離れたところで、じっと火を見ている。その目はどことなく奇妙で優しげだった。
彼は、私に気付くと、無言で頷き、また火を眺め続けた。火災がおさまり、人々が散り初めても、なお、彼はそこにいた。私は、彼が放火犯として見つかるのではないかと、なぜか、その時はそればかりが気になり、胸をドキドキさせていた。
明け方になって、彼は静かに「行こう」と私に声を掛けた。
私は、黙って頷き、そうして、彼の部屋へ行って眠った。私は疲れ切っていて、すぐ眠りに落ちたが、彼は何かをずっと考えている様子だった。目が覚めても、彼は同じ姿勢で、何か、多分そう、火の事を考えていたのだろう。
「素敵な火だったわ。」 「そうかい?」 彼は、満足そうに微笑んだ。
「また、おいで。火事の時には。」 「ええ。」
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そうして、彼はそのうち、火をつける日を事前に教えてくれるようになった。
正直に言えば、私は彼の作り出す火と、そして、彼に恋をしていた。
彼がおこした火を一晩じゅう見て、夜が明けて彼の部屋に行くと、いつも私は先ほどまで見ていた炎が体に乗り移ってしまったかのように激しい興奮に見舞われる。
一度だけ。一度だけ、勇気を振り絞り、彼に迫ったことがある。
彼もまた、激しく勃起していて、私の手の中でブルブルと震えた。だが、私が彼に身を預けようとすると、彼は、私に背を向けてしまった。
「悪いけれど。」 彼は、悲しそうに言った。
「きみを抱くことはできない。」 「なぜ?」 「なぜって?他に愛する人がいるからだよ。」 「その人は、あなたが火をつけることを知っているの?」 「いや。知らないだろう。その人も僕を愛してくれている。でも、その人は、他の人と結婚をしていて、そんなにしょっちゅう会えないんだ。」 「つらい?」 「ああ。辛い。だから火をつける。体の炎が静まらなくなったら。」 「かわいそう。」 「ひどい話だ。自分の恋のために、他人に迷惑を掛けるんだから。でも、僕にはどうにもできない。この欲望から目をそらすことも、彼女への愛を絶ち切ることも。」
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ある日、いつものように私は彼からの連絡を受け、とある一軒家の前に立つ。
「今夜。これが僕にとって最後の炎だ。」 「もう、放火、やめるの?」 「ああ。その必要はもうなくなるんだよ。良かったら、最後の火、見ていてくれないか?今までで一番美しい火を見せるから。」
私の目は涙に濡れる。
火がなくなったら、私の恋も終わる。
「もう、僕は行くよ。」 「どこに?」 「ここは僕の家。今、あの愛しい人は、僕のベッドで寝ているんだ。」
そうやって、彼は、家に入って行く。
私は、その家から煙が立ち昇るのを、無言で見つめる。
おそろしいほど長い時間のあと、火が噴き出す。
見たこともない、美しい火。
いつまでも、いつまでも。
そうやって、私は、火の粉となって舞い上がる恋を見送る。
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