セクサロイドは眠らない
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2001年08月17日(金) |
「きみを初めて見た時から恋をした。」「動かない死体のような体に、でしょう?」 |
生暖かい場所で、私は、気付けば一人。誰もいない、何もない場所で、一人。なぜ、こんな場所に来たのだったかしら?思い出そうとするが、思い出せない。何かとてもイヤなことがあって、逃げて来たのかもしれない。あそこには戻りたくない。ここでいつまでもまどろんでいよう。
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ああ。また、あの感触。誰かが私の体をまさぐってくる。私の服のボタンが、一つ一つ外され、汗ばんだ手が私の胸元に滑り込んでくる。私は、悲鳴を上げることも、体を動かすこともできず、されるがまま。
彼の髪の毛が、胸をくすぐる。荒い息が体中にかかる。手が下半身に伸びてくる。下着をおろし、長い事。それはもう、気が遠くなるほど、長いこと。私は「やめて」と声を出すことができず、ただ、人形のように転がっている。そうして、生暖かいものを体に感じる。
彼の体が重い。はやくどいてちょうだい。
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嫌な事にさえ目をつぶれば、ここはそんなに悪い場所じゃない。お腹も空かないし、寒さを感じることもない。
ある日、一人の男が訪ねて来る。
「ずっときみに会いたかったよ。」 「あなた、だれ?」 「きみに恋した男。」 男は笑うが、私は笑えない。
「私、あなたと会った事、ないわ。」 「じゃあ、今から恋をすればいい。」
私は、その男を欲しいと思っているかしら。突然現われた男を。恋と聞くと、なぜか胸が痛い。この男は、その痛みを埋めてくれるかしら。
私は、随分長いこと、一人ぽっちでここにいたんだな、と思った。だから、誰かに体を預けたくなっただけなのかもしれない。
男は、我慢できずに、私を抱きすくめてくる。男は「動かないで。じっとして。」とささやく。震える手で、ボタンを外す。彼の手はじっとりと湿っていて、私の乳房を覆うその感触に、私はふと気付く。
「あなたね。あなたが、いつも私の体をおもちゃにしていたのね。」 私は突然、叫ぶ。
男は驚いて顔を上げる。
「あなた、一体誰?」 「僕か。僕は、医者だ。」 「医者が、どうして?」 「きみの担当医だよ。きみは、恋人に捨てられた悲しみから、薬を飲んで昏睡状態になった。そうして、僕の病院にやって来たんだ。」 「それで、動けない私の体を弄繰り回していたわけ?」 「ああ。すまない・・・。きみを初めて見た時から恋をした。」 「動かない死体のような体に、でしょう?」 私はヒステリックに笑う。
「ここから、どうすれば出られるの?」 私は訊ねた。 「分からない。現実のきみは、まだ、昏睡状態だ。ここは、多分、きみの意識の中。」 「あなたはどうやってここに来たの?」 「きみに会いたくて、薬を飲んだ。」 「まったく、そんなことがあっていいものかしら。恋の神様のイキな計らいってこと?」
私は、本当に唐突に、怒りで体中の血がざわめき、「生きよ」という声が聞こえた気がした。ここから出て行こう。ドアは簡単に開いた。
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「意識が戻ったのね。」 母親の声が聞こえた。
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私の担当医だった男が、自らの過失で薬物を取り過ぎ意識不明の状態にあると聞いて、私があんまり笑うものだから、周囲が驚く。
馬鹿な医者は、あの場所で今ごろ一人きりで何を考えているのだろう。
あのまま、死体のような私を相手にしていれば、あなたも幸せだったのでしょうにね。
私は、湿っぽい病院を出て太陽の光を感じながら、新しい恋を探しに行く。
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