セクサロイドは眠らない

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2001年08月15日(水) 僕の乳首に柔らかな舌が触れ、繊細な指先が僕の股間に伸びて来た時

今年も、また、キミのいない夏が来て。

「才能なんて、成された物に他人が勝手に名前を付けただけさ。僕の手にしているものなど何一つありはしない。」

と、キミはよくそんな風に言っていたが、僕は、そうは思わない。

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キミが文壇に登場した時、誰もが驚いた。美貌で、若くて、才能に溢れ、繊細な、キミ。その才能は、僕の心も震わせた。その美貌と才能に抱かれたがる女達は、跡を絶たなかった。

僕は、しがない編集者として、キミの才能に触れているだけで幸福だった。

あの夏。

キミはひどく泥酔していた。夜中に僕に電話をして来て。あの夜初めて、仕事以外で電話をして来た。「今すぐ、来てよ。」と言うから慌てて駆け付けた僕に、告白を。彼と噂のあった女優が彼に「抱いて」と迫ったけれど、キミは、できなかったのだ、と。「女じゃダメなんだよ」と。

キミは、僕を愛していると言った。あの夜。赤い目をして、打ちひしがれたキミ。偉大なる才能を前に、僕がどうして逆らえただろう。

キミが、僕に唇を重ねて来た時。キミが僕のシャツを脱がせ、僕の乳首に柔らかな舌が触れ、キミが生み出す優美な文章にふさわしい繊細な指先が、僕の股間に伸びて来た時、僕は、吐き気をこらえた。あの時、才能に愛される歓喜と、男の肉体で愛される嫌悪がないまぜになって、僕は混乱した。

三日三晩、キミは、僕を愛し続け、僕は、時折トイレに言って吐いた。そうして、キミに愛された幸福な男のふりをして、キミのベッドにもぐり込んだ。

三晩目、キミは、酔いも醒めた目で、僕の心を見抜く。キミの瞳は凍り付き、「帰ってくれ」と一言。あれが最後のキミの言葉。

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あの時、僕が抱かれなければ、全ては違っていたのだろうか?

キミの思い出を書き散らすことで物書き面をしている僕を、キミはそこから笑い飛ばしておくれ。

「才能なんて、成された物に他人が勝手に名前を付けただけさ。僕の手にしているものなど何一つありはしない。」

と、キミは悲しそうに言っていたけれど、愛する心も、傷付く心も、全てがキミの才能だった。

流星のように、きらめき、消えて行った魂の何と美しいことか。

苦い酒を飲み、キミの死を悼む。

僕だけが、なぜ、ここにいるのだろう。


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